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05:3 - 悪あがきの始まりにて

「なぁオイ、二人とも動けるか?」


 この異様に人口密度の高い操縦席で動くもクソもない気がするが、俺は背後(というより頭上)の二人に確認してみる。


「さ……さっきはごめん! アタシはイケる!」


「俺はキツい。流石にこんな重機動かしたことねェよ」


 やっぱりというか何というか、そこがネックになるか……とはいえ。


「ラッシュ、イスルギもだけど俺も重機なんか動かしたことねーんだ。でもこの操縦席の狭さじゃ腕広げらんねーだろうし、俺ら3人で分担してコイツ動かすぞ。で、ラッシュは何処イジればいいかとか俺らに指示出してくれ!」


 モチはモチ屋に、こういうのは専門家に任せるのが一番手っ取り早いハズだ。


「じゃあ右半分はアタシに任せて! アキは左の下、イスルギさんはその上‼︎」


 俺は急いで左に詰めると、空いたスペースにラッシュは足を下ろした。


「イスルギさん! 胸の高さにペダル二つあるでしょ? 上がアクセルで、下がイン……とにかくブレーキ‼︎ で、簡単に言うと車のペダルが上にきてて逆にハンドルとかが下にあるだけだから、あなたが担当するのはその2つだけだよ! ほら、アタシの手元にもブレーキペダルあるの分かる?」


「は? ブレーキが2つあるのか?」


「あ、えーと、結局……そっちのはインチングペダルって言って……」



 純人(ネイキッド)かつ重機の門外漢(しろうと)にも分かりやすいよう話を噛み砕きつつ、ラッシュはテキパキと説明していく。

 “簡単に言うと”という言葉の通り、この重機の機構はややこしいように見えてコツさえ分かってしまえば意外と簡単だ。つまり(ハンドル)(ペダル)が逆になっているだけだったりする。何度も言うように鳥系人種は腕がそのまま翼になっているので、通常ならば手で操作する部分を足で操作し、反対に踏み込むだけのアクセル・ブレーキは翼でも押せるので上についているというワケだ。……まぁそうは言っても、そもそも重機が動かせない俺らにとっちゃコツもクソもないワケだが。



「で、アキは……ハンドルとシフトレバーお願い! 自動車と一緒だから! アームとドリルの操作は右側に操作盤(コンソール)あるからアタシに任せて!」


「イヤ待て、ハンドル回そうにも正面ロクに見えな——


「いま動けるヤツ‼︎‼︎‼︎」



 唐突に、血塗れで立ち上がり始めていたヤクザたちの内の1人が絶叫とも言えるような大声で叫ぶ。

 叫んでいるのはダークスーツとゴツゴツした隆起の目立つ太い尻尾の男……先ほどイスルギに突っかかっていたタチバナとかいう男だ。コイツも生きていたのか。タチバナは絞り出すように続けた。


「いいか、フチザキが呼んだ始末屋共のクラフトの窓あんだろ⁉︎ アレに誰のでも良いからシャツ投げつけろ‼︎ 泥まみれだともっと良い‼︎‼︎」



 そう叫ぶやいなや、タチバナは自分のジャケット・シャツ・アンダーシャツを脱いで上半身裸になると、血と砂埃でドロドロになったそれらを丸め、手近なクラフトのフロントガラスに投げつけた。他のヤクザたちは唖然としている。というか、俺も意味を測りかねている内の一人だ。なんだ、気でも触れたか?


 染み込んだ血と泥の重さのおかげか、タチバナの放り投げた衣類のカタマリは存外正確にフロントガラスの中心に当たってバラけた。一点の曇りもなかったフロントガラスへと派手に血飛沫や泥汚れを跳ねさせて。特に血だらけのアンダーシャツなんかはガラスにべったりと張り付いて本格的に邪魔な状態だ。



『ちょ、うわ汚っ! どういう嫌がら——あ』


 始末屋女が反射的といっても良いくらいの速さで反応して“しまう”。

 そして拡声器越しに女がこぼした愚痴を皮切りに、タチバナの真意がようやく分かったらしい他のヤクザたちもタチバナの行動を真似しだした。


 つまり、早い話が嫌がらせ、もっと言えば悪ノリである。


 ある者は自分の着ているものを丸め、ある者はかつての仲間の亡骸から血塗れの衣服を剥ぎ取り、火なんて一切上がらない集中砲火を操縦席のフロントガラスに浴びせた。半分以下に減っているとはいえ五〇人弱の手による妨害だ、三機のクラフトのフロントガラスはたちまち見るも無残な染み付きガラス(ステンドグラス)と化す。


『だ、だから何⁉︎ こんなんワイパーですぐに汚れ落とせるじゃん!』


 始末屋女はそう啖呵(たんか)を切って、宣言通りワイパーを作動させた。一応補足しておくと、宇宙船(クラフト)も歴とした乗り物なので当然ガラスの汚れを拭うワイパーは標準装備されていて当たり前なのだが……しかし始末屋女は明らかに頭に血が上っていて、このやりとりのせいで換装作業をコントロールする手が完全に止まっていたことにも気付いていないようだった。

 フチザキが呆れたように溜息をつきながら額を手で押さえているのが遠目に見える。



「レバーは運転(ドライブ)に、アクセル押して!」


 一方の俺たちはようやくラッシュからの操作説明を聞き終えたところだ。俺はシフトレバーを倒し、イスルギはペダルに全体重をかけることでそれぞれラッシュの指示に応じる。ザリザリと砂粒を削岩車の巨躯が押し潰す音とともに、猛進する車体にはねあげられた砂埃が大きく宙を舞った。


 鋼鉄製の豪腕の先端で高速回転しているあのウニみたいなドリルが振りかぶられ、右ストレートでも放つみたいに、先ほどの妨害で反応が遅れていた目の前のクラフトのフロントガラスに派手に突き刺さった。

 生存者たちから弾けんばかりの歓声があがる。不幸にも初撃で致命傷を喰らった始末屋のクラフトは浮力を急に失い、派手に火柱を吹き上げながらその場で不時着した。爆発こそしなかったが、あの機体の操縦席がどうなっているかはあまり想像したくない。


 ちなみに、現在の削岩機のハンドル操作はラッシュが伸ばした右足で行っていたものだったりする。協議の最中、操縦席の計器くらいしか見えない俺にハンドルが操作できるワケがないと訴えたことで今に至った。無理なものは無理だ。



「あーくそッ、アクセル堅ってェな」


 イスルギは思わず不平を零す。


鶏人種(チキン)の筋力ナメないでよね! レバーを後退(リバース)にしてもっかいアクセル‼︎」



 対するラッシュはそれをぞんざいにいなしつつ、次の指示を矢継ぎ早に飛ばしていく。次は後方だ。前向きに付いている削岩車のアームが後ろまで届くことは流石にないが、しかしバックだろうと正面だろうとこのサイズの重機が猛スピードで突っ込んでくるのは充分に脅威だ。

 始末屋のクラフトは数メートル高く上昇した。これではいくら振り回してもこのアームの長さでは届かない、射程外に逃げられては何もできない。この辺りは流石に判断が早い。



「レバーを運転(ドライブ)に、さっきより強くアクセル‼︎」


 頭上に逃げられてもラッシュはめげず、即座に標的を変えるという選択をしたらしい。ハンドルを凄まじい勢いで切ることでヤクザたちの集団を避けながら、二時方向に浮かんでいる三機目に向かって削岩機は突進する。

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