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05:2 - 付け焼き刃の対処にて

 俺が後ろ手に操縦席の左側のドアを内から開けようとするのと同時に、外からもドアを開ける感触が伝わってきた。見ると血塗れでボロボロの人影が立っている。じっとりと血が(にじ)んでこそいるがサックスブルーのシャツに腕まくり、マスクが泥と血まみれで顔を確認できないが多分イスルギだ。また操縦席のガラス越しには、疎らではあるものの同じく生き残ったと思しきヤクザたちがよろよろと立ち上がるのが見える。数にして最初の四分の一もいない、意外に多いのか、やはりかなり減ったのか。

 イスルギは弾除け代わりに背負っていた敵味方どちら側かもわからなくなった組員の死体を投げ捨てると、かなり焦った様子で俺に状況を尋ねた。



「おい、ラッシュちゃんどうなってる⁉︎」


「操縦席から今の処刑をモロに見ちまった! パニクってる‼︎」



 それを聞いたイスルギは、俺への返事もそこそこにラッシュの方に向き直る。ラッシュがビクッと震えるのが分かった。だが相変わらず目は焦点が定まっていないようだ。たぶん人影に対して反射的に体を強張らせたんだろう。

 “心ここにあらず”という状態の人間は久しぶりに見る。


「……」


 イスルギは無言で大きく息を吸うと、砂埃も気に留めず防塵マスクを取って、甲が艶のある黒い毛皮で覆われた筋肉質な手でラッシュの両耳を強く塞いだ。


「ひっ……」


 防塵マスク越しなので耳を塞げているかはラッシュ本人にしかわからないが、ともかく意識の矛先はイスルギに向いたハズだ。

 とはいえ、今までボーッとしていた当人的には突然の出来事。そりゃラッシュはビビるし、その肩は相変わらずカタカタと震えている。一方のイスルギは何も言わない。無言のままで、目線も定まっていないラッシュの頭を真っ直ぐ伸ばして両手で挟み、その奥の黒い目で真っ直ぐにラッシュの目を見据えている。



 一秒経過。仮にしっかりと耳が塞げているのなら、いまラッシュに周りの音はある程度は聞こえなくなっているハズだ。轟音ももう聞こえてはこない。


 二秒経過。だが、『だから何だ?』という話でもある。既に乱射されている時点で、今さら耳を塞いだところで何にもならないのは明白だと思うのだが。


 三秒経過。無言で手に力を込めるイスルギのせいで、ラッシュは首を捻ることもできないらしい。ただし流石に目の焦点は合ってきたようで、困惑したようにイスルギを見つめ返している。


 四秒経過。まだイスルギは何も言わない。こんな行動、地球ならば国関係なく警察沙汰になること請け合いだが、ここでそんなもの期待する方が間違いだ。


 五秒経過。ふと気づくと、冗談みたいにラッシュの肩の震えは止まっていた。



 どんな手品を使った?

 いやまさか、もしかしてコイツ、こうやって意表をついてラッシュを落ち着かせたとかか……? 一方のラッシュはやっと状況を飲み込めてきたらしく、脈絡のない沈黙に動揺したのか目を泳がせ始めている。



「イスルギさん……? やっ、あのっ、こんなことしてる場合じゃな——


 そしてビクッと身を強張らせた。


「どうした、動け——


 ようやく手を緩めたイスルギが短く問い掛けようとして、


「後ろっ‼︎」


 ラッシュは問いに答えず、短く叫ぶ。



 ちょうどイスルギの真後ろ五メートルほどの位置で、フチザキが大振りの拳銃を構えていた。ラッシュの咄嗟の一言にフチザキは焦ったのか、引鉄が反射的に引き絞られ、ゆっくりと頭を狙っていたハズの銃身はあさっての方向へと逸れる。

 ラッシュは体育座りで抱え込んでいた猛禽類そっくりな左足でイスルギの胴体をむんずと掴んだ。


 そして大急ぎで右に体を寄せて、ヤツを削岩車の座席へと引っ張り込む。当然、この座席は本来一人用なので三人ともかなり無茶な体勢になってしまうが、この現状では四の五の言ってられない。イスルギは引っ張られるついでにドアを引っ掴んでいたようで、シートの右側に詰め込まれるのと同時にバタンとドアが閉まる。イスルギは片足を立て膝にした中腰の姿勢でシートの半分に収まったが……その体勢だと足が痺れて先々後悔することにならないか?



『あぁぁクソ遅ぇッ‼︎‼︎ テメーこらまだ換装終わんねぇのかよ!』


 怒り心頭のフチザキは始末屋たちのクラフトに向かって吠える。


『いま自動換装に手動で補助もやってるっての、もうちょい待てって‼︎ ってかさー、レーザー系の兵装使うなっつったのはそっちじゃん⁉︎ レーザーならボタン押すだけでモード変更できんのに、実弾なんかに拘るから無駄な時間かかってんでしょ? それで逆ギレとか意味わかんないんだけど!』


『レーザーは絶対使うなっつってんだろ、説明は後ですっから今はとっとと()れや‼︎ お前らまだ報酬分働いてねぇぞ‼︎‼︎』



 ……何やら、向こう側も向こう側でゴタついているようだ。

 そういえば、先ほどフチザキは“発信器を追って大急ぎで来てくれる”と言っていた。要するに、今の今までフチザキと始末屋たちは一度も顔を合わせてなかったってことか? まぁ、こんな見るからにクセの強い女を代表に据えるような連中が仕事相手だったら、初対面でなくとも苦労するんだろうが。


 拡声器で声が外にダダ漏れなのを忘れているのか、始末屋の女があからさまにブーたれる声と共に、爪と思われる硬いものが凄まじい速度でクラフトの操作パネルに連打される音が聞こえてきた。確かに全自動で進む換装作業にこのスピードの補助が加わるとなると時間はそうかからないだろう。時間の猶予はない。

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