34:2 - 銃口の先にて
こうしてイスルギは目の前の四人を殺害する。この間わずか三秒かそこら。
「お前ら急いで構えろ! あと煙幕あるヤツいるか⁉︎」
「あいよぉ、任せな‼︎」
俺らの陣営の残りも遅ればせながら攻撃を開始することにする。手始めは目眩しだ。イスルギは機械男の死体をそのまま弾除けにできるからまだ良い。でも狭い通路で固まってる俺らは奥の小隊連中に攻撃されたらひとたまりもない。目眩しだろうと目潰しだろうと、とっとと攻撃手段を防がなければ。
で、名乗り出たのはティートだった。こんなときでも、というかいつでも“全身拡張済みの攻撃手”なんてのは非常に頼りになる。威勢が良いと尚よし、早い話がティートはうってつけの人材なワケだ。
ティートは弾かれたように床を蹴ってイスルギのすぐ横まで飛び出すと、身を屈め姿勢を低くして足元の死体の上に右腕を突き出す。どうも貨物庫でやってたみたいに、前腕部に積んでいるキャノン砲かなんかを使うつもりらしい。ガシャガシャと義体が換装を終えたあと、けたたましいチャージ音が鳴り響いた。
「おら野郎どもォ! あいつら土嚢も盾も無ぇんだ、とっとと撃ち殺せ‼︎」
しかし小隊もみすみすそれを眺めているハズがない。少尉が素早く後ろまで下がると残りの兵士たち全員が前にザザッと歩み出る。少尉を除外すれば残り十四、五人か。たぶん副隊長クラスのリュー軍曹も戦列の後ろの方だろうから、つまりあとの十三、四人は雑兵てことだ。まぁ実際、階級と腕っ節の強さなんて無関係もいいとこだけどな。
ボシュッ……ガギッ、パァン
そうこうするうちに、ティートの腕から小隊のいる位置の天井に向けて煙幕弾が放たれて弾けるのが見えた。天井に食い込んだユニットから噴き出す白煙のヴェールが辺りを覆っていき、当然連中だけでなく俺たちのいる場所にまでもゆっくりと充満していく。
「……撃ち方用意‼︎」
まぁ向こうも軍人だ。大量の煙に視界を占拠されようと、隊員たちのシルエットは構うことなく少尉の指示に従って素早く陣形を整え、思い思いの得物をこちらに向けて構えた。幾ら煙幕を撒いたところで目隠しの効果が表れるまでにはあまりに時間が掛かり過ぎる。このままでは当然、俺たちは蜂の巣になってしまうワケで。……そしてこれも当然ながら、
「おら大人しく喰らっとけ! お仲間が“友軍誤射はやめてくれ”ってよォ‼︎」
それが嫌なのはティート自身にとっても同じことだ。
アイツが何をしたかというと、つまり自分が遮蔽物の代わりにしていた兵士の死体をそのまま放り投げた。そうでなくとも米国軍人であれば“健常者”であっても体重九〇キロ前後が平均値、義体で筋力や耐久性が極限まで強化されているアイツだからこそ出来る芸当である。乱暴に放り上げられたその死体は重さも相まって、次第に濃くなっていく煙の中にかなりの速度・威力で放物線を描いた。
「のわぁっ」
「クソ……ッあのヤロー……‼︎」
「グあぁッ、左手が……ッ!」
さしもの小隊側にとっても、そんな予期せぬ投擲物の対処に困るのは当然だ。なにせ装備も入れれば百キロなんて軽く飛び越える人間大のカタマリ(てか人間だったそれそのもの)、アサルトライフルやその他の携行銃器程度の弾丸を撃ち込んだところでそもそも防げるワケがない。ドシャッという重そうな落下音と共に、死体は小隊の戦列に真っ正面から突っ込んでかなりの人数を床に転がす……うわ、痛そ。
さらにここで効いてくるのが煙幕弾だ。だんだん濃さを増していく白煙、さっきでこそ時間を食っていたものの、たかだか十数秒もすれば目の前数メートル先も見えなくなる。というかその数メートルですら加速度的に透明度を失っていた。
……もちろん、十数秒間の間にこちらへ攻撃しようっていうヤツがいなかったわけではない。しかしそれも後の祭りでしかなかった。
何があったのかって、ティートにしろ他の修羅場に慣れたヤクザ連中にしろキャバ嬢兼スパイの女たちにしろ、投げつけたものが相手の顔に直接ぶつかるまで律儀に待つような連中に見えるか? って話であって。
イヴやラッシュですらあの脚力で弾かれたように走り出してたってのに。
「チャオ‼︎」
「失せろっての!」
唸り声を上げるティートの機械制御の前腕と、アデリアの研ぎ澄まされたカランビットナイフが、
「失礼、退いて貰うよ」
「最後くらい一緒にやらせてよっ!」
イブのゴツい大振りな拳銃の機関部と、反対に小柄なベイファンに合わせて華奢な造りで短めの銃身が、
「ッ遅ェよ‼︎‼︎‼︎」
「終わりだ」
曰く早撃ち特化型義体のケンゴの右腕と、今やもうどこまで“健常なまま”なのかよく分からないイスルギの左利き用ハンドガンが、
「とっとと倒れろよ、この野郎」
でもってついでに俺の両手にある二挺のハンドガンも一応、もちろんミセスとかその他の連中の銃器も含めて。
これらが一斉にヤツらに牙を剥いて、そのまま追放者たちの一団の喉笛に食らいつく。まぁ要するに、それぞれの持つ得物が容赦無く連中を仕留めた凶器になったってだけだ。
それと最後に。
「行ってっ、シギィ‼︎‼︎‼︎」
ラッシュがあらんかぎりの声で叫ぶと同時に、アイツの近くからずっと離れようとしなかったシギィが応えるように動いた。あのアイテリウムの金属結晶はまるで本当に心でも通じ合ってるみたいにラッシュの言葉に従って、弾かれたように真っすぐ直線的に飛んでいく。
その青く光る弾丸が白煙を裂いて一直線に駆けていくのは、薙ぎ倒された兵士たちの頭上を素通りしたその先、つまり、
「馬鹿野郎、早く連中をブッ——
通路奥で隊員たちを指揮しようとしてたタヴァナー少尉の眉間ド真ん中だった。




