04:6 - 決定的な経験値の差にて
フチザキは得意げにマスクを被りなおすと、マスクに付いているらしいスピーカー機能を使って嘲りも混じった声で語り始めた。
『よぉし、こっからはイスルギ組も動くなよ。動いたヤツから蜂の巣だぞ。まず紹介するが、いま到着したコイツらは始末屋だ。こんな小っせー発信器からでも依頼人追って大急ぎで来てくれるんだから、こんな古典的な手も馬鹿にならんよな。……それとイスルギ、残念だがお前の脅しには根本的な穴がある。まずお前が言った通り、アサゴ組とイスルギ組じゃ喧嘩にすらならん。で、俺を撃つのは組長相手に喧嘩売るのと同義だ。つまりお前はハナから俺を撃てねぇ』
淡々と、そして若干の優越感を見え隠れさせつつフチザキは続ける。
『それにもし地球に帰れたとして、お前を待ってんのは「ポカやって一四五人を殺しかけた挙句、兄貴分を裏切ったロクデナシ」っつー前科だ。ウチの舎弟なりが本部に直接「裏切られた」って言えばそれで充分、お前が何を言おうが、親父はメンツを守る為にもお前らを叩き潰す。子分に噛みつかれた以上はな。黒字破門でハンパに組と繋がってる分、これはどんなときもお前に付いて回る。お前は絶縁にもならずに助かったとか思ってんのかも知らんが——
『……あー、ミスタ・フチザキ? そろそろ撃っていい? さっきのおにーさんの話も大概長かったケドさ』
三機のクラフトのどれかから拡声器越しに訝しげな女の声が割って入り、
『おいおい、依頼人が気持ちよく喋んのくらい待ってくれや。抗争らしい抗争なんてロクにねぇ時代だろ、こういうの久々なんだよ』
水を差されたフチザキがあからさまに不機嫌になりつつ応じる。
考えうる限りで最も男クサい社会を生きる存在:ヤクザがこういうことで女を雇うというのは少し意外な気もするが、裏社会は実力主義社会と聞いたこともあるような気もするので、実際に雇われているということはよっぽど腕が立つのだろう。まぁ、細かいことは知らんし、何より俺が知るべきことでもない。
『……ま、いいや。こんなん挟まれたら決め台詞言っても締まんねぇし。ホラホラ、早く殺っちまえよチクショー』
『了解ぃ』
異常に軽々しい声が響く。明らかにこの場の雰囲気に似つかわしくないどこか惚けた声の中には、なんというか、場違いであるが故の独特な殺気を孕んでいるような気がした。そしてそんな声に呼応するように、三機のクラフトの胴体下部からは機関砲が三基ずつ突き出される。……イヤ待て、これじゃイスルギ組だけじゃなく……。
『あ、ストップ。撃つ前に言っときたいことがあるんだった。俺のことは気にしなくて良いからな?』
フチザキがそう言うが早いか、ヤツの背後から聞こえた狙撃音と共にフチザキ自身の後頭部に衝撃波が突き刺さる。その背後では機関砲の砲口から硝煙の塊がもうもうと上がっていた。状況証拠云々を持ち出すまでもなく、またどう考えても、たった今ブチ抜いた現行犯は被害者がわざわざ呼び寄せたとかいう助っ人だ。
……イヤ違う。“ブチ抜いて”はいない。撃たれたハズのフチザキの姿勢が直立状態から揺らぐこともなく、どころかヤツの首筋には着弾跡ばかりか砲弾その物の痕跡すら存在していなかった。平たく言うと“無傷”というヤツだ。弾丸が地面へと力なく落ちるちっぽけな音がフチザキの背後で響いた。
『こういうことだからよ? お前らは安心して撃たれてくれや』
何が起きた? トリックか何かか?
イスルギが狼狽えながら、
「待てよ、それじゃ俺らだけじゃなくアンタの部下も——
『あ? 別にいいじゃねぇかよ、たかだか死ぬのが数日早くなるだけだろ?』
発しようとした問い掛けを、フチザキは遮るように言い切る。
余りにあっけらかんと告げられたせいか、フチザキ自身とイスルギ組を除いた残りの一二〇人(つまりアリアドネ号のクルーも含めて)も呆気にとられていた。しかし一方で、“二七人の裏切り者ごと自分たちにも死の宣告が下された”という事実は瞬時に全員が理解していたように思う。
『ちょっとー? 事前の指示通りに撃ったのにコメント無し? 機関砲で一発だけ撃つのって地味にメッチャ大変なんだけど?』
『おいおい、ここでお前が喋ったらせっかくの演出台無しだろうが……ハイハイご苦労、とっとと殺れ』
一欠片の感情も篭ってない労いの言葉に、拡声器の向こうの女は言葉にならない呪詛を喉の奥の方で鳴らし、それとほぼ同時に機関砲のトリガーを押すイヤに軽い音がノイズ混じりに響いた。




