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33:1 - 遅れて届いた“物”らにて

ホワイトライン(white line)

:マシンの整備区画ピットレーンの出入り口にそれぞれ引かれている白線のこと。

この白線の位置をまたいでしまうと、レースの本コースを走る他のマシンと接触する危険がある。そのため、ピットレーンから戻る際には安全の意味からも充分な配慮が求められ、違反してしまうとペナルティが課されてしまう。

 あぁそうか、やっと分かった。今みたいなこんな修羅場で気づくことじゃないとが。

 何にかというと、さっき感じた『誰かがいまこの場に足りていない』っていうあの違和感というか、あの“足りていない感”について。アレの正体はやっぱ一人の男がいないことにあった。ヤソジマだ。

 あの話の流れから考えても、アイツがフチザキの言っていた『相手にられた鈍くさいヤツ』の一人で間違いない。


 ……となると。

 フチザキがあのクソ軽い言葉で片付けてた犠牲者の正体は部下ってことになる。

 そうすると、特にさっきまでのイスルギとか、直属に近かった部下が一人消えたのに動揺もなくいつもの態度を崩さなかったのは俺からすりゃ衝撃だった。付き合いの浅い俺ならともかく、直属でそれなりに交流のあった部下に対して淡白すぎやしないか? ほんと他人を屁とも思ってないのな、ヤクザ。

 イヤ、そりゃ若干違うか。ぼんやり感想を抱いたところで遅れて思考力が追いついてくる。

 他人に対して冷酷とか残虐とかそういうんじゃない。たぶん“生きてる世界が殺伐とし過ぎてる”ってほうが正確なんだろう。現代じゃ荒事あらごとは減ったなんて言ってても、そもそもヤクザは誰かを蹴落として生きている。仲間じゃなくても人の生き死になんて見慣れているハズだ。それこそ、例え身近な人間が一人急に消えても何も感じないくらいに。

 改めて思う、つくづく生きる世界が違う人種だ。そんな奴らのトップに自分が収まっている事実に現実感があまりに無い。……が、そこまで考えたところで俺は頭を振って決戦の地である通路の曲がり角に立った。こんな余計な考え事、やっぱ全部終わってからイヴ相手とかにでも振る世間話・与太話のネタってことにしとこう。





「クソっ、コケにしやがって……吹っ飛んでろ!」


 角の向こう側、通路の奥の一端から獣のような一吠えが聞こえてくる。今のは目くらましから回復したタヴァナー少尉の声、違うそうじゃない、“そこじゃない”。

 何て言ってた? 『吹っ飛んでろ』ってことは……。

 角の壁から顔を覗かせると、向こうの端から手榴弾グレネードの豪速球が飛んでくるところだった。奥でピッチャーみたいな投球フォームで立っているのは少尉だ。つまりあのガタイで投げつけられたワケで、“ボール”がエグい威力になってもおかしくない。それこそ、壁にめり込んだ衝撃で一気にぜるくらいであっても。


「お前ら下がれ‼︎‼︎‼︎」


 俺は咄嗟にそう叫びながらも通路の真っ正面に身を躍らせた。手榴弾グレネードは目の前のL字に曲がった通路の向こうから角に向かって飛んでくる。味方連中に一応直撃はしないコースだ。

 とはいえ今のままではマズいのに変わりはなく、曲がり角の壁(つまり俺たち陣営の真正面)に当たって爆発でもしたら当然爆風で被害を受けることになる。しかもアレがもし鉄片とかを内部に仕込んでるタイプなら、爆発と共に鋭い鉄片が無差別に周囲を突き刺してさらに被害をデカくするだろう。現時点で俺自身が怪我するのはもう避けられないとしても、それでも“狙いを外す”ワケにはいかない。


 計三発、俺は左手に握っていたレーザーガンのほうの引鉄を動かした。実弾よりも圧倒的に速い“光速”の射撃が握りこぶし大の目標に突き刺さる。野球とかならともかく、目の前に向かってくるこんな目標物を正確に撃ち抜くなんて芸当、普通なら無茶もいいとこだ。が、俺からすりゃそうでもない。こういうときのために射撃の腕を鍛えてたんだからな。大昔にだけど。

 一発目:無事外れ、二発目:当たり・中心部にレーザー貫通、三発目:二発目が当たった衝撃で目標が逸れ、結果かすっただけになって金属部の端のあたりが白熱。

 こうして楕円形だえんけい手榴弾グレネードは派手に弾け飛ぶ。やじりみたいな鋭い鉄片の雨霰あめあられが当然のように爆風に混ざって俺に襲い掛かった。ま、そりゃこうなるよな。間髪入れず、鋭利な刃先に肌を引き裂かれるような痛みと血が……ん?



「あ? 痛みが……?」



 無い。反射で頭を庇いつつも俺は呟いた。

 そりゃ皆無とはいかなかったが、明らかに歯医者の麻酔くらいには痛みを感じない。予想外に鈍くて薄らボケたような痛みに俺はちょっと戸惑う。何というか、あるハズの感覚が無くなったとき特有の気持ち悪さっつーか、拍子抜け感っつーか。爆風と熱自体は感じるのに、痛覚だけがすっぽりと抜け落ちてる感じだ。目線を下げると、爆風と鉄片でズタズタになってるのは服の袖だけで、その下の地肌には傷一つなかった。

 そして数瞬後に思い出す。そういえば、俺の皮膚は全て人工のモノに張り替えられてたんだっけ。しかも火星なんて場所で俺の皮膚細胞を採取して培養なんてクソ時間の掛かることをできるワケもなく、そうなると今ある皮膚は有り合わせの人工の繊維質でできた(かろうじて)医療用の非天然モノしかないハズだ。

 それも硬くて突っ張りはするが“ある程度は頑丈な”。


「へっ、ベイファン《アイツ》からの贈り物ってか」


 本人には気づかれないように祈りつつも、俺は思わず笑い出しそうになった。で、それを口元をぬぐう動作で覆い隠してなんとか誤魔化す。変にキザかつサムかった自覚はあるし、あいつにバレたらまたちょっと気まずくなりそうだし。

 ま、取り敢えず今は黙っとくとしよう。

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