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04:5 - 焼け付くような敵意の渦にて

「別に口滑らそうなんて考えてませんよ……これ、タダの時間稼ぎですから」



 イスルギが左手を上げながらそう言うが早いか、周囲の人だかりから何重にも重なったジャキジャキッという拳銃のスライド音が連なって聞こえた。銃口だ。

 二、三〇人ほどの組員が別の組員の頭に向けて、掌に収まるサイズの小型拳銃をほぼゼロ距離で突きつけている。幾つ時代を経ようとヤクザが頼るのは手っ取り早く単純な手段ってことらしい。なお、さっきのヤジはどこへやら、ケンゴも銃を構えているうちの一人だったりする。


 ここにきてようやく、俺はこれまでのコイツらの動きが全て計算づくだったのかと思い至った。たぶんフチザキがこういう場で自分を陥れようとすることは織り込み済みで、来るべきこの瞬間にヤツを出し抜き返そうと策を巡らせていたのだろう。

 大方、この状況が整うまでのあの会話が『時間稼ぎ』で、イスルギが妙に強調して言っていた“責任”という言葉が『作戦開始』、直前のあのケンゴのヤジが『配置完了』の合図だったのか。昨日散々やってたっていう“会合”でコレを計画してたらしい。



「静かに! ウチの組員以外は誰だろうと動くのは許可しない! 誰かが抜こうとした瞬間、それが誰だろうと片っ端から撃っ(ハジい)ていくことになる! ……勿論アニキも例外じゃないですよ? こんだけ小っせェ拳銃(ハジキ)でも、この距離で頭を撃てば(ドタマハジきゃ)致命傷です……いま頼れる医者なんて、クラフト各機お付きのヤブくらいしかいねェし」


 周りの状況を素早く見回したイスルギはスーツの内ポケットから悠然と中型拳銃を引き抜くと、遅れて自身の得物の照準をフチザキに合わせる。


 一方のフチザキは、マスクの下でイスルギを睨みつけているようだった。完全に見下してたヤツに物の数秒で形勢逆転された気分は如何ばかりのものだろうか。歯噛みするように口の中をモゴモゴさせる音が聞こえる。



「……前々からアンタが俺を邪魔だと思ってたってのは知ってたし、それに補佐の俺が責任問われるのも序列的に当然です。けど、俺だって此処で死ぬつもりはねェし、火星に来てまでお互い喰い合うなんて不毛なことしたかねェんですよ。それにまともにやり合えば、所詮まだ()()()()()()()イスルギ組(おれら)に勝ち目は無い。増して今アンタらを()って組長(オヤジ)を裏切ることになったら、俺らは地球に帰った途端に潰される。……ってことで、ウチの組とアサゴ組は別行動ってことにして、最低限の通信以外はお互い不干渉ってことでいきません? 餞別として、うちのクラフト七機のうちの——そうだな、俺が乗り込んでるアレを貰いたい。交換条件はアニキ含めたアンタらの中の、拳銃(ハジキ)突き付けられてる二七人の(タマ)なんてどうです?」


「……要求はそれだけか」


「まだ一つ。アリアドネ号船員との接触は組の内部でもまだ俺と俺の部下しかしてません。相手はカタギですし、彼らとの接触は全て俺を通してお願いします。……これは言うなれば俺ら側の人質ですね、彼らがいないと、ここにいる一五〇人弱の部外者(オレら)は全滅ですから。俺以外の窓口では意思疎通しないって取り決めも交わしています。で、アンタらがコレに従わない場合は俺らで彼らを殺します。つまり、俺らも含めてここにいる組員全員が火星から帰ること自体難しくなる」



 ……そんな取り決めは初耳だが、要するにこう言うハッタリを噛ませないとヤクザとしてはやっていけないのだろう。好き勝手言いやがって、まぁ。


 とはいえ、たぶんアリアドネ号のクルー全員がこんなことでヤクザに殺されたくはない以上、この話には口裏を合わせるしかない。つまりアイツが昨日散々言っていた『ヤクザ共を“用心棒”として雇うことで、ヤクザ共を遠ざけて貰わざるを得なくなった』というワケだ。結局、このスカした男の思う壺な気がする。くそッ、コイツ考えたな……。



「じゃあなにか? この無法地帯で勝手に決まったとかいう協定に、それを初めて聞いた俺が従うとか思ってんのか?」


「さっきも言ったみたいに、仮にウチの組員全員揃ってたとしてもウチとアンタらとで殺り合ったら流石にウチが負けます。でも今の状況なら、アンタらも無事じゃ済まないでしょ? 俺はアニキが無駄死を尊ぶほど昔気質(むかしかたぎ)ってタマだとは思ってません」


「ほぉ、じゃあ撃っ(ハジい)てみろや。若頭(オレ)反抗し(ゆみひい)組長(オヤジ)に楯突く度胸あんならよぉ」



 フチザキはその台詞とともに、マスクの顎の辺りを持ち上げて、先程からもごもごしていた口の中身を吐き捨てた。

 ……褐色の砂の上に転がったのは先ほどの黄色い飴玉と、1〜2センチほどの小さな機械だ。事前に口内に忍ばせていたらしい。つまりあの妙な口の動きは動揺していたのではなく、舌でコイツを操作していたのか。


 フチザキが機械を吐くのに合わせて、3機のクラフトが装甲の光学迷彩を停止させて何もない空間から姿を現す。どれもアリアドネ号より小型の黒塗りヤクザクラフトよりも更に小振りだったが、どれも軍用のものを彷彿とさせる無骨なデザインの機体だった。削岩車の進行方向に1機、後方に1機、人だかりを挟んで向こう側に1機。つまり、俺たちは既に円を描くようにして取り囲まれている。……マズい。

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