表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/156

25:3 - 袋小路じみた砂塵の中にて

 それと、これも当然のことながら、イスルギ自身も俺が閃光手榴弾スタングレネードを隠し持っていたことを知らなかったので、従ってコイツも漏れなく拳銃を地面に取り落として前後不覚状態に陥っていた。んで俺はというと手榴弾グレネードを投げたばかりで当然拳銃なんて握っているハズもなく、他のメンバーは皆違う方向を向いている。……だから、こりゃどうしようもないわな。

 けっきょくイスルギはタチバナの鉄拳を綺麗に顔で受け止めた。


「ッがほっ‼︎」


 何度も言っているように鰐人種クロコダイルの皮膚は硬く、また筋力も強い。しかもイスルギはその拳をデリケートな犬の鼻面はなづらで受け止めている。みるみるうちに、なかなかの量の血がイスルギの鼻や口からドッと滴った。

 ただその一方で悪いことだけでもない。殴られた痛みでイスルギの感覚が帰ってきていたのだ。まぁたぶん、正確にいうなら純人ネイキッドよりも格段に鋭い聴覚なんかはまったく本調子じゃなかったんだろうが、それ以外はなんとか正常なようだった。少なくとも、先ほど眩んでいた眼の光は明らかに焦点が合っていて、さっきみたいに“曇って”いない。



「突進してくんじゃねェ、クソっ!」


 イスルギは悪態をつきながら、まだ視力・聴力も戻っていないタチバナの胸へと(かかと)を突き立てるように、右足で真正面に受け止めて蹴り飛ばした。そして後ろへよろけるアイツを尻目に、イスルギはそのまま地面に落ちた自分の拳銃を拾い、周りにならって左方向へと駆け出す。

 俺も咄嗟とっさにバックステップで飛び退きながら、自分の実弾を使う方の拳銃を右手で抜いた。アイツらみたいに二丁拳銃じゃないのは単に地面に手をついてたってだけだが。


「……ちきっしょ……こんニャロ‼︎」


 ギリギリで閃光に巻き込まれなかったらしい列の端の方の、マスクの下から飛び出すほどのヒゲ面男が叫びながら短機関銃を乱射する。このまま相手に損害も与えずに“交渉材料”を逃すのはマズいと思ったのだろうか。あくまでもイスルギを殺さないように銃口を下げ、命中しても命には関わらなさそうな足を狙っている。

 ただ、義体サイバネで改造済みのイスルギの足は速く、なかなか射線に捉えられないようだった。

 銃声。俺の銃のだ。

 ヒゲ面男のトリガーを引いている右手の人差し指に命中する。


「ぎゃッ!」


 情けない叫びが聞こえたところで俺も走り出すことにした。方向はイスルギと真逆、右向きだ。走り去らずに目の前の奴らを始末しようかとも思ったが、あのヒゲ面が死に物狂いで人差し指の代わりに中指でも使い出したら俺ごと撃たれるかも知れない、それはゴメン被る。俺は諦めて走った。



 さっき投げた閃光手榴弾スタングレネードは一つ重要なことを教えてくれている。それは即ち、いま対峙してるヤツらがいま身につけているマスクは砂粒除けの防塵マスクというだけで、他の余計な機能はついていないということだ。要するに強い光や音から身を守ることは出来ない、でなけりゃアイツらみんなこんな事態には陥ってはいないだろう。

 とはいえ、完全な裸眼でもない以上は視力が回復するまで幾分もないハズ、せいぜい三〇秒程度か?

 俺は命中率が下がるのなんて無視して、走りながらヤツらに銃を向けて引鉄を馬鹿みたいに引きまくる。そうしつつ、急いで左手のタチバナたちが出てきたひし形クラフトの裏に回り込んだ。


「クッソ、あん野郎フザケやがってよ……‼︎」


 ほぼ見立て通りの三〜四〇秒後、向こうでヤクザが悪態をつきながら散開するのが聞こえてくる。

 あの後、ウチの陣営メンバーたちは言葉通りに散開して、時間が経ってアイツらの目と耳が正常に戻ったときにはもう全員眼前から消えていた。実際に“逃げられた”だの何だの遠くで言ってるのが聞こえたから間違いない。



 とはいえ、だ。いま俺が身を隠しているのはアイツらのひし形クラフトの裏、もう一つの隠れる場所といえば俺らが乗っ取ったもう一機周辺しかない。そっちに逃げてればクラフト内部にでも逃げ込めるだろうがそれはそっちに逃げたヤツの話、俺がいるこっち側はというと出入り口を背にアイツらが並んでいたワケで、早い話が塞がれていた。

 となるともう裏手に回る以外に逃げ場所はない。要するに万事休すって話だ。


「おい、コレどうにかなんねェのか」


「なんねーよ、俺らで迎え撃つしかねー」


 傍らのケンゴが焦ったように呟いて、俺がそれに小声で返す。何の考えもなくこっちに逃げ込んだバカは俺、ケンゴ、ヤソジマ、それとアデリアの上司とかいう名前を聞きそびれたままの女の合計四人。たったこんだけ。



「っだークソッ、こんだけで迎撃ってか……キツいな」


「幾らキツくてもやんねーとしゃあねーだろ。ここで二、三人死んでもおかしかねーけど……」


「お、落ち着けアタシ……大丈夫、前を向いて……構えて……」


 ヤソジマが不平をこぼして、アデリアの上司ちゃんが追い詰められたような声を上げた。うーむ、思ったよりもマズい状況かも知れない。

 まずもってこのメンツが心許(こころもと)ないのは見ての通りだった。今までイザって時にこそ謎の活躍をして来たケンゴが俺に頼ってくるレベルで打つ手がないっぽいし、他はもっと見てられないような状態にある。特に不安なのがアデリアの……あークソ、いちいち“アデリアの”って言わなきゃならんの面倒だな……ともかく上司ちゃん(仮)の精神状態。カタカタ震えて、これ以上無いくらいには思い詰めている様子だった。



「あー、えーと……とにかく息を整えろ。息吸って、吐いて…………で、物音するほうをよく見ろ、わかるか?」


 助産師が妊婦に話しかけてるみたいだ。そんなことが脳裏をぎる中で、俺はこの女の何とか気を落ち着かせようと声をひねり出す。一方問題の上司ちゃん(仮)はというと、幸い今の呼びかけで若干落ち着いたようだった。指示通り息を整えてから、意を決したかのようにキッと前を睨みつける。震えも落ち着いたよう——


「物音はあっちの角の向こうから……だから敵はあっちで……」


 ……イヤイヤおいおい待て待て、コイツあのアデリアの上司なんだよな? いくら何でも肝小さすぎだろ……でもまぁ、今は覚悟決めたみたいだし、これで何とか——



「見ーっけたぁ」



 後ろからだ。少なくとも足音は聞こえなかった。

 予想との食い違いに脳がフリーズする。と、一瞬固まった後でアタリを付けていたほうの角から数人の戦闘員と思しき武装したヤツらが顔を出した。俺は一瞬で何となく、そして妙に確信をもって悟る。コイツら、足音で位置を誤魔化してたのか。

 片方の数人はワザとらしく音を立てるがこっちはブラフ、本命は背後から足音を殺して近づく。そして背後から驚かせることで動揺を誘うワケだ。コイツら予想以上に練度が高い、というか何なんだコイツら。一体どうやってアサゴ組の連中と連絡を取り合ってた? イヤ、そもそもあの夜どうやって俺らの居場所を嗅ぎつけて……?


 いや、それよりも先に気にしなければいけないことがあった。俺はまた遅れて気が付く、今の状況は隣にいる上司ちゃん(仮)にとってショックがデカすぎる。それこそ、パニックで動けなくなるくらいに。


「ヒッ、はぁっ……はぁっ……‼︎」


 やっぱこうなるんかよ、クソっ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ