29・あっけなく勝敗はついてしまった
こちらから視認できたという事は当然、高所に居る敵からは発見されている。
そして何やら敵陣がざわついているが、何だろうか?
しばらく待っていると煌びやかな騎馬が1人、陣から出て来た。
「チコよ!イケルの馬鹿者を寄こせば許してやる!イケルを差し出せ」
と、叫んだ。
いや、何だあれ。普通、戦場の口上ならもっと何かあるだろう。流石にどうかと思うぞ、それ。
そう呆れていると、どうやら公爵は呆れではなくキレているらしい。
「マジノのお調子者!良く聞け。俺はここに居る。アキッレに何を吹き込まれたかは知らんが、お前ごときでは『東方権益』を得ても持て余すだけだ。尻尾を巻いて帰るならば許してやる!」
いや、アンタが言うかね。一体、誰と誰が何を欲して戦ってんだ?これ。
俺、やっぱ来ない方が良かったかもしれない。こんな低俗な戦いのために出てきたことに後悔するし、付き合わされる兵たちが可哀そうだ。
そんなロッリ対ショタの口撃が数分続いたが、ようやく終わりを迎えるらしい。
「後でじっくり言い訳を聞いてやる!」
と、ショタ公が陣へと戻っていった。あんな指揮官で大丈夫なんだろうか?
「公爵、随分とごきげんだな」
そう嫌味を言ってみたが、嫌味と受け止めていないらしいな。
「当然だ、これからアイツが泣きわめく姿を拝めるからな!」
まだ開始もされていないのに、何で勝った気でいるんだ?理解が出来ん。
「シモネッタ、やってしまえ!」
いや、アンタが指揮すんのかよ!
その声で突撃を始めるヤンデレをはじめとするドワーフ軍団。
確かに心配はいらなさそうだな。
ヤンデレやホーカンをはじめとする領都部隊は蜘蛛の糸製の鎧な上に、鎖帷子代わりの蜘蛛の糸製肌着を着込んでいるので鎧の隙間すら矢や刃が通らない。チートにも程があるだろう。
そんな部隊が突出して敵の槍兵部隊を文字通りに蹴散らしていく。
そうして起きた混乱の海へと途中で集まったミスリルを着込んだドワーフ隊が突入して蹂躙していく。
力の差は歴然過ぎて数の差なんて全く無きに等しい。
「クジマ、突撃の時機を見計らっている騎兵隊を狙え」
槍部隊の後方でタイミングを見計らっている騎兵隊が右へ左へ突入場所を探っているようだが、突撃できそうもない。
そこへグレネードを撃ち込んで更なる混乱を巻き起こそうって訳だ。
「先に弓隊を潰さなくて良いのか?」
公爵がそう言って来るが、不要だろう。そもそもドワーフ連中に通じる様な矢は装備していないハズだ。
「必要ない。騎馬隊に銃撃をお見舞いすれば馬が暴れて勝手に乱れる」
その算段もしているんだよ。
クジマに任せた銃部隊が構えているが、あれ?以前見たのと違うんだが?
ドドドンと派手な発射音がしたかと思うと、騎馬隊の各所で爆発が起きる。吹っ飛ぶ馬体、破片や馬、騎兵の鎧や肉片を受けて暴れ回る馬。
たった一度の銃撃で、いや、砲撃で騎馬隊は阿鼻叫喚の惨状を晒している。破片や肉片が直撃しなかった騎兵も突然の爆発に怯える馬を抑えるのがやっとの状態だ。
四方に暴走する騎馬を誰も制御できず、事態を良く分かっていない槍隊の一部が暴走する騎馬に従うようにあらぬ方向に突撃を開始してしまっている。
「圧倒的ではないか、わが軍は!」
なんだかそう言わなければならない衝動に駆られてしまった。
「気を緩めるな」
という公爵の声で我に返る。
槍隊に突っ込む騎兵、本陣へ突撃していく騎兵。見当違いの方向に暴れ回る騎兵。槍隊を引き連れて何もない森へと突撃していく騎兵。
そんな敵の混乱を意に返さず蹂躙を繰り返すドワーフ達。
「クジマ、敵本陣へ走り込んでいく騎兵を狙え」
グレネードと言うには銃身が長いソレを構えた銃隊がたった2騎の騎兵を狙って射る。オーバーキル過ぎるが、特に止める必要もないだろう。
すでに本陣では押し止めようとする警護兵が槍衾で待ち構えている。
「本陣の兵と接触する直前で狙え」
そう付け加えて射撃を少し待ってから撃たせた。
結果は予想以上だ。
騎兵を吹き飛ばし、槍衾も吹き飛ばし、本陣にも飛び込んだかな?
煙が晴れると天幕も倒れているらしく、原形をとどめていない。
「よし、本陣へ向かう」
俺はモアを従えて、公爵や護衛の騎士達と共に本陣を目指した。
槍や弓が使える訳でもないので、クジマに作ってもらった小口径銃を手にしている。
小口径化したとはいえ、25口径ピストル弾程度の弾でアサルトライフル並みの威力を示すんだから、ヤバすぎる。
そんな弾を使うM1カービンモドキの銃を持ってはいるが、使う機会はゼロ。
大抵はモアが排除してしまっている。
小山を登って本陣に着くと、そこは死屍累々だった。
そりゃあ仕方がないだろう。あんな攻撃受けたんだから。
「どこだ!マジノ」
と、公爵が周囲を探しているが、死体と物が散乱していて全く判別が出来ない。
「連れてきた護衛にも探させよう」
そう言って手分けして探したら、何と生きていた。
「こんなお調子者だが、どうやら忠臣は居たらしいな」
そんな事を言う公爵に引っ張り上げられたショタ公が目を覚ました。
「・・・イケルではないか」
何が起きたのか分かっておらず、辺りを見回して目を見開いた。
「陣が破壊されているだと・・・・・・」
唖然とするショタ公。
「伯父上の負けだ」
俺がそう言うと、どうやら俺に気が付いたらしい。
「チコ皇子・・・・・・」
だが、それ以上言葉が出て来ない。




