『始祖の吸血鬼』と悪魔アディル
「獣王様、良ければその『サリエラ』の話を詳しく聞かせて頂けませんか?」
獣王の話に困惑して目をパチクリさせている僕を見かねてか、ヨナが助け舟を出してくれた。
「……そうだね。なら余が知りうるサリエラについて。その全てを話すとしようか」
そうして聞かされたのはある人物の話。
遥か昔、悪魔アディルに見出されながら善なる心を宿し、世界を旅して、結果勇者と崇められ、しかし、自らを作った創造主に反旗を翻して敗れ去った一人の吸血鬼の話。
長いその話を聞き終えたと同時に、僕の持つとあるスキルに変化が生じた。
気になってはいたけれど開いても何も表示されず、害が有るわけでもないから放置していたそのスキル。
『???????』が『サリエラの記憶』に変わった。
それと同時に頭に割れるような痛みが走る。
自分以外の何者かの記憶が、頭の中に堰を切ったように駆け巡った。
「うっ」
頭に流れては消えていく大量の情報に、脳がパンクしそうになる。
「フィーちゃん!?」
心配して駆け寄ってきたヨナに肩を支えられながらも、記憶はどんどんと頭の中で流れていく。
そうして僕は『サリエラの記憶』の全てを視た。
不思議だ。
サリエラの魂は既に輪廻の輪に戻っているのに、まるで自分が実際に体験してきたことのように感じる。
大量の人間を虐殺した感触が肌に残っている。
最後の瞬間に目に涙を浮かべていたイーラの顔が、鮮明に浮かび上がってくる。
サリエラは、イーラを置いて逝ってしまったことも心残りだったのかもしれない。
どうやら僕は『始祖の吸血鬼』であっても、原初ではなかったらしい。
あくまで僕は呼び寄せられた存在。
『吸血鬼』サリエラが死の間際に願った事が、スキルとなり、魂の波長が似ている存在を輪廻の輪から外し、呼び寄せるスキル『サリエラの記憶』によって。
101年前。僕が『禁忌の森』で目覚めたのと同時にスキルが『???????』に変わっている。
サリエラの事を深く知る事がスキルの記憶を目覚めさせるトリガーだったみたいだ。
サリエラの事。
獣王くらいしか深く知らないのに、こんなんで、想いを託した気になっていたのか。
イーラから度々お人好しと言われていたサリエラの事だ。
僕に悪魔アディルを《《救って》》欲しいと願いながら、自由にも生きてほしかったのだろう。
いや、それとも僕がソフィーもといエルフの生き残りと出会って仲を深め、此処に来ると見越していた?
死人に口無し。
サリエラの真意までは今となってはわからないけれど、一つ、ハッキリしたことがある。
僕はなるべくして今ここにいる。
サリエラが亡くなったのと同時期に輪廻に戻ろうとしていたのは偶然だけどある程度は必然だ。
サリエラが亡くなった時、どのくらいの魂が輪廻の輪に戻ろうとしていたのかはわからないけれどサリエラは僕を選んだ。
もちろん運が良かったというのもある。
それはもうジャンボ宝くじもビックリなくらいの確率で幸運なことだ。
だからまあ、異世界転生という自然現象的なものではなく憑依、ともちょっと違うか。
ふらついていた僕の魂がサリエラの死後、『サリエラの記憶』によって呼び寄せられて定着した。みたいな。
魂に干渉するという人智を超えた領域だからか魂の定着にかなりの時間がかかってしまったみたいだけど。
まあ、そんな感じで僕は転生もとい転性を果たしていたらしい。
そしてサリエラの記憶が目覚めてわかったことがある。
サフィアを吸血鬼化に追い込んだあの老剣士やマンティコアに暗殺者。さらにはヨナから聞いた吸血鬼の兵団。あれらを送り込んできていたのは悪魔であり『帝国の皇帝』。アディルという奴らしい。
偶然にも元の体の持ち主が救って、いや裁いて欲しいと願った人が僕が危惧していた危険人物だったなんてね。
「呼ばれた。サリエラに。異界から」
取り敢えず、目覚めた記憶の情報を端折って端的に獣王に伝える。
「それは。いやスキルによるものと考えれば。あるいは……」
ブツブツと呟く獣王。
そういえば記憶の中に獣王の記憶もある。
今の知識に貪欲な獣王とは別の初代獣王。
その人は剛毅な笑みを浮かべて髪が鬣のようになっていて巨体の人。
くしくもその獣王とサリエラは結構深い仲だったらしい。
最も、最初は血みどろの殺し合いをしていたみたいだけど。
「フィーちゃん?」
おっと。興奮しすぎてポーカーフェイスが崩れていたみたいだ。
そりゃ笑いたくもなるよ。
『禁忌の森』を出る前から襲撃を仕掛けて来ていた謎集団の正体がようやく割れたんだ。いや正直、同一犯による襲撃だなんて思いもしなかったけどさ。
なんにせよ、サリエラの記憶が目覚めた事でなにもかもが繋がった。
僕が過ごした『サリエラの村』は遥か昔から存在するところで故郷。
エルフが忌み嫌われているのは悪魔がそういう風になるよう暗躍していたから。
となると僕がこの先やるべき事はその質の悪い悪魔をさっさと倒すこと。
サリエラはそれを望まないだろうけど、あれは殺したほうがいい。
言ってみれば究極系の人嫌い。
『サリエラの記憶』から見たそいつの嗤う顔は人間の負の権化みたいな存在だったし。
あとはどうにかしてエルフの所業が悪魔アディルによって誘導されたものだと世界に証明できればいいわけだけど……
正直、配下の老剣士ですらバカみたいな強さ。
サリエラの記憶から辿って、悪魔アディルの強さを推察するとその老剣士より数段上の実力。高く見積ったとしてドラゴンと同等、否、下手をすればそれ以上。
それに加えて属国や魔物たちの参戦。
個の武に加えて数も暴力的なまでに高い。
卑屈でもなんでもなく今のままだと勝ち目がない。
「悪魔を倒すつもりなら獣闘師『蒼炎』達を派遣しよう。あとはそうだね。戦力増強を狙うなら聖王国の王都に行ってみるといい。あそこにいる勇者は悪魔アディルに有効な光属性の魔法を持ってるはずだし、聖王国の司祭が最近、破壊神の召喚を企てているとかいう噂もある。あ、ちなみに余は行かないからね。この通り戦闘はからっきしでだし。それに、一国の王がそう簡単に席を開けるわけにもいかないしね」
……なにこの人。
人の心読む能力でも持ってるんじゃないの?
一応ポーカーフェイス保ってたと思うんだけどな
今代の獣王は紛れもなく、初対面の人。
ヨナの紹介で勧めてもらった人だから信用はしてるけど何せ僕らには情報が一つもない。
初代獣王の人柄から察するに獣王国は安全だと思うし大丈夫だとは思う、けど。
中には『理不尽の権化』みたいな不逞の輩もいるわけだし。
まあ取り敢えず聖王国に向かうのは決まりかな。
何処かで強くなれる保証がある国とか知ってるわけでもないし。素直に従っておく方がいいかも。
あ、でも勇者と協力するかは保留。
サリエラの記憶からも光魔法が有効とかまでわからないし、個人的に嫌いだし。生理的に無理。
でも破壊神とやらは気になる。
危険な匂いしかしないけど、たぶんそのくらい危険を冒さないとドラゴン以上のステータスを持つ可能性がある皇帝に勝つ可能性なんて、何年掛かっても生まれない。
って、違う違う。
獣王の知識欲に絆されて、肝心の要件が済んでいない。今は大局を見るよりも目下の問題。
サフィアをどうにかする方法を、教えてもらわなきゃいけないんだった。
「そんなことより、も、サフィアを」
「フィ、フィーちゃん。大丈夫?」
「大丈夫、じゃない、かも……」
膨大な情報を唐突に頭にインプットされたせいで、脳がオーバーヒートを起こしてる。
『スキル』として、定着されたせいで忘れたくても忘れられないし。どころか、記憶を完全に定着させようとしているのか何回も頭の中で映像の如く記憶を流してくる。
頭は痛いし、眩暈もする。
なんだ、まさかサリエラはドにSのつく人だったのか。
「フィーちゃん。一度部屋に戻って休んだ方がいいよ。サフィアさんを助ける方法は、ボクが獣王様から伺うから」
「……わかった」
本音を言えば、残りたい所だけどこんな状態じゃ、真面に話を聞ける気がしない。
獣王と会談を続けるヨナを見送りながら、僕は侍女さんに支えられてソフィーの待つ部屋に戻った。
始祖の子のこのここしたんたん。
始祖の子のこのここしたんたん。
↑やりたかっただけですごめんなさい。
はい。ついにここまで来ましたね。
伏線がかなり荒い上に後付けだったのは許して。
この章が終わったら『サリエラの記憶』についての補足的な話に入ります。
ラスボス君が判明したことから察しのいい人は気づいていると思いますが、既にかなり終盤です。
具体的にこの回で3/2くらいは終わっています。




