X(Twitter)掲載『 星の空に 』
時系列は、『刹那の風景2:68番目の元勇者と竜の乙女』のあたりです。
【 セツナ 】
『きのうの、おはなしの、つづき、たのしみ』
子狼の姿になったアルトが僕の膝の上で丸まり、
機嫌よく耳を動かしながら、
今か今かと僕が物語の続きを語るのを待っていた。
「じゃあ、続きを話そうか……」
もはや、寝る前のお約束といっても過言ではないお話の語りかけを、
僕は始める。
しばらくして、気持ちよさそう眠るアルトの寝息が耳に届く。
僕の膝の上で丸まって寝ているアルトに、
こうして物語を聞かせることになったのはいつからだっただろうかと、
ふと考える。
そして、空に輝く星を見て……その日のことを思い出した。
きっかけは、子狼の姿で寝ていたアルトが、
うなされていたのを起こしたことが始まりだった。
その頃には、
『師匠』と呼ばれることに違和感を覚えることもなくなっていた。
「アルト。アルト……」
子狼のアルトの体を軽く揺すりながら、
起きるように声をかける。よほど怖い夢を見ていたのか、
僕の呼びかけに飛び起きると逃げる場所を探し出した。
まだ夢から覚めきっていないのか、
子狼の姿で必死に駆け出したアルトの姿に胸が痛くなる。
もしかすると、奴隷商人に捕まっていた頃の夢を見たのかもしれない。
「アルト」
何度目かの呼びかけで、アルトがしっかりと夢から覚めた。
『……ししょう?』
不安そうなアルトの声が、魔法によって僕の頭の中に響く。
『大丈夫だよアルト。ここに、奴隷商人はいない』
その言葉に安心したのか、
アルトは体から力を抜いてとぼとぼと歩いてきて、
ちょこんと僕のかたわらに座った。
それでも、まだ不安そうな目をしているアルトを落ち着かせようと、
頭をゆっくりと撫で続けた。
「夜明けまではまだ時間があるよ。もう一回眠るといい」
眠くなってきたのか、アルトの頭が揺れ始める。
『……おきてる』
眠いのに眠ろうとしないのは、
夢を見るのが怖いのかもしれない。
何度も瞬きをして、眠気を振り払おうとしていた。
「アルト、おいで」
膝の上に毛布を乗せて膝を軽く叩くと、
軽く首をかしげながらも、アルトは腰をあげた。
そして毛布の上に丸まるが、
不安に満ちた瞳で何度も僕を見上げてきた。
『アルトが怖い夢を見たら、
すぐに起こしてあげるから、安心してお休み』
落ち着かせるように、怯えて逆立ている毛並みを直すようになでながら、口を開いた。
「アルトが眠れるまで、何かお話をしようかな」
『おはなし?』
パタパタと尻尾を軽く振るアルトを見て、小さく笑う。
「そうだな……。昔々……あるところに……」
その出だしから始まる物語はこの世界のものではなく、
眠れない妹の鏡花のために、読み聞かせしたときの物語だ。
アルトは楽しそうに物語に耳を傾けていたけれど、
途中で力尽きたようにコトリと寝てしまった。
アルトを動かすと目を覚ましそうだったので、
そのまま朝まで過ごすことにしたのだった。
木にもたれながら、ふと息をつき空を見上げる。
あの日と同じように、二筋の星の河が涼し気な光を放ち、
たゆたっていた……。
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