『 リヴァイルとアルト 』
書籍は、3巻の洞窟内での出来事。
Webでは、【カーネーション : 忍耐強さ 】
『俺と加護』と『私と手紙』の間の出来事。
サイラスに加護を与え、セツナと竜騎士契約を、
終えたあとの話となります。
【 リヴァイル 】
焼いた肉が食いたいとアルトがいったために、
セツナとサイラスが大量の肉をさばいていた。
アルトがセツナに「おれも、てつだう?」と聞いていたが、
多分、手伝わせたくなかったのだろう。
セツナが余計なことをアルトに告げた。
「暇ならリヴァイルさんと話しておいで」と。
そして、今、アルトは私の目の前にいて、
尾を緩く振りながら話しかけてきた。
「りう゛ぁいるさんは、さかなつり、すき?」
「……」
魚釣り……。
「なぜ、そんな非生産的なことをしなければならない?」
「ひ、せいさん?」
意味がわからずアルトは首をかしげる。言葉が難しかったようだ。
「基本、一本の釣り竿で釣れる魚は一匹だ」
「はい」
「魚は食べるために釣るのだろう?」
魚を食べるという言葉に、アルトは機嫌良く尾を振って答える。
「食べるためにとるのなら、
魔法で一度にたくさん捕る方が簡単で、沢山捕れるではないか」
「え?」
「お前は、魚を数匹食べるのと、
沢山食べるのとどちらが好きだ」
「たくさん、たべるほうがすき」
「なら、魚は魔法で捕るといい」
「で、でも、おれ、まほうは、つかえない」
「ああ……そうか、不便だな。
それならば仕方がない。地道に釣れ」
「う、うん」
私の言葉に頷きはしたものの、
アルトは何が気になるのかうんうんと唸りながら、
何かを必死に考えているようだった。
そんな様子を眺めていたのだが……、
ふと、視線を感じ顔を上げると、
そこにはセツナとサイラスが立っていた。
どうやら、肉をさばき終わったようだ。
なぜか、サイラスは困ったように眉根を下げており。
反対にセツナは、笑みを浮かべているにも関わらず、
その目は全く笑っていなかった。
私を見る目がいやに冷たい。
一体何だというのだ。
「子供の楽しみを否定するようなことを、
いうのはやめてください。大人気ない」
「……」
セツナはそれだけ告げると、悩んでいるアルトに声をかけ、
魚釣りの醍醐味というものを語り始めたのだった。
その話を聞いていて、
そういえば……昔カイルに同じことをいわれたことを思い出す。
あれは、カイルに弟妹達も一緒に湖に魚を釣りにいこうと、
誘われたときのことだった。
『魚釣り? 魔法でとればいいだろう』
『常々思っていたが、お前は浪漫のわからねぇ奴だなぁ』
『そんなモノで腹は膨れない。
食べるために捕るのなら効率を重視するべきだ』
私の言葉をカイルが鼻で笑ったことに、いらついた。
弟たちは黙って私達の話を聞いていた。
『では、問う。お前のいう浪漫とは何だ』
『お前……そんなこともわからないのかよ』
『……』
こいつとは一度本気で拳を交え、
語り合わなければならないかもしれない。
『いいかリヴァイル。魚釣りはな、己と魚の一対一の闘いだ!
釣り上げれば俺の勝ち。逃げ切れたら相手の勝ちだ』
『そうだろうな』
『魚を釣り上げるには、
まずどうやって餌を食わせるかを考えなければならない。
もっと的確にいうのなら、どうやって魚に針をかけるかだ』
『そうだろうな』
魚が針にかからなければ、
釣り上げることなどできないのは誰にでもわかることで、
当然のことだ。
何をそこまで熱くなる必要があるのだと思いながら、
適当に聞き流し相づちを打っていた。
『それにはだな』
『そうだろうな』
『リヴァイル、真面目に聞け!』
なぜか目が据わっているカイルに反論することができずに、
話を聞く姿勢をとる。
『それには、適した道具の準備が必要だ。
釣れなければ針の大きさを変え、糸の種類を変える。
釣り餌も吟味する。そこにあるのは純粋な探究心だ。
そうやって試行錯誤を繰り返し……』
『繰り返しなんだ?』
『目当ての魚に針がかかったときの喜びといったらない!
食いついたということは、
魚にとってそれが美味そうに見えたということだ。
俺が用意周到に用意した物に騙されたということだ!』
ふと、隣を見ると弟妹達が拳を握ってカイルの話に聞き入っている。
嫌な予感がする……。
『釣り竿から伝わってくる振動……。
それはすなわち魚の命の鼓動だ!』
カイルの真剣でそれでいて溌剌とした声に、
弟妹達が息を飲む。
『だが、勝負はここからだ。
相手も食われまいと必死になって逃げようと、
なりふり構わず暴れに暴れまわるからな。
知恵を絞り体力を削りながら魚との勝負を楽しむわけだ』
それはかなり大物を想定しての釣りではないのか?
お前が釣りにいこうと誘った湖にはそんな巨大な魚はいない。
まぁ……妹ならいい勝負になるかもしれないが……。
『そして最後に、その健闘をたたえながらその命を俺が食う。
そこまでが釣りだ。食えないのなら逃がせ。それは鉄則だ』
カイルが弟妹達に釣り竿を手渡す。
最初は乗り気ではなかった二人だったが、
カイルの話に感化されている。
弟が『魚を釣るぞ!』と声を上げると、
『頑張る!』と妹も気合いを入れていた。
『それで、リヴァイルお前はどうする?』
ニヤリと笑いながら釣り竿を差し出すカイルから、
嫌々ながらも釣り竿を受け取った。
弟はともかく妹をこのカイルに預ける気はない。
妹がいくというのなら、私も同行するに決まっている。
穏やかな日差しの中、
私は早々に釣りに飽き3人が一喜一憂するのを眺めていた。
妹にはまだ難しかったのか、
一匹も釣れておらず餌を取られることをくりかえしている。
ぷくっと頬を膨らませ水面を睨んでいるが、
その目に涙が溜まり始めるのは時間の問題だ……。
少し手助けをするかと、立ち上がりかけたところで、
カイルが軽い足取りで妹のそばへと歩いていった。
『ほら、俺が教えてやるから泣くんじゃねぇ』
『泣いてないもん』
『そうか?』
笑いながら妹を慰め、その頬を軽く撫でた。
そのときのカイルの瞳は、
普段からは想像もできないほど優しい目をしていて、
なぜか時が止まったような錯覚を覚えた。
驚いたのは私だけではなかったようで、
弟も手を止めて二人を凝視している。
私はあの瞳と同じものを見たことがある。
どこで見たのかと考え……そして気付いた。
カイルのあの瞳の色は、
父と母が私達に向けるものと酷似しているのだと……。
親が子供に向けるのと同じ眼差しをカイルは妹に向けていた。
結局そのときは、
それだけ妹を大切にしてくれているのだろうと結論づけたのだが、
のちにあいつが妻子を亡くしていることを知り、
自分の娘と妹を重ねていたのかもしれないと思い至った。
『わぁ!』
『ほら、魚がかかったぞ!』
かなり大きい魚が水面を跳ねる。
『お、も、い……』
顔を赤くして必死にカイルの指示に従い、
魚との一対一の勝負を繰り広げている妹を眺める。
妹のその表情は真剣でそれでいて、その瞳は目映いほど輝いていた。
『ほら、もう少しだ頑張れ。最後まで気を抜くなよ』
『うん!』
カイルは最低限の補助しかしていないようで、
ほぼ妹の力で魚を釣り上げようとしている。
数分間格闘していたように思うが、
妹は最後まで弱音を吐くことなく魚を釣り上げた。
『わぁ! すごい! 釣れた! 大きいのが釣れた!』
自分で持ち上げることができずにカイルが持っているが、
妹が大きな声ではしゃぎながら私と弟を呼ぶ。
その顔は憂い一つなく輝かんばかりの笑みを浮かべていたのだった。
「だからねアルト。楽しみ方は人それぞれなんだ。
魚を食べることを楽しみにする人もいれば、
魚との駆け引きを楽しみにしている人もいる」
「うん!」
「ただ、魚も生きているからね。
その命を奪うのなら、無駄にしてはいけない。
釣ったら食べること。食べないのなら逃がすこと」
「はい!」
過ぎ去りし日々から意識を戻すと、
二人の会話が耳に届いた。
セツナもカイルと同じことをいうのだな……。
「さて、お肉を焼く準備ができたからそろそろ夕食にしようか」
「おー! にく!」
元気を取り戻したアルトが大きく頷き、
サイラスと共に大量の肉が準備された方へと向かったが、
セツナは動くことなく私を見ていた。
「何だ?」
何か用があるのかと見返す。
「トゥーリは魚を釣ったことがあるんですか?」
あると答えかけてやめた。
「なぜ、私がお前に妹のことを話さなければならない」
「……そうですね。本人から聞くことにします」
「……」
本当に可愛げのない奴だ!
それからアルトとサイラスに誘われるままに肉を食べたのだが、
私達3人が食べた量よりも、
アルト一人が食べた量のほうが遥かに多かったのはなぜだ?
不思議に思いながらも、
獣人族とはこれほどまでに食べる種族だったのかと驚いていた。
だが、それが間違いだと、
アルトが特殊だったのだと気付くのは、
かなり先になってのことだった。





