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思い出のオルゴールの音色は、合い言葉へと変わる

作者: モモル24号


 娘の美咲が事故に遭ったと聞いて、私は動揺し膝から崩れ落ちそうになった。理由は猫型木彫人形のオルゴール⋯⋯私の苦い想い出の詰まった、ギフト(元彼の贈り物)のせいだ。


 処分(過去の清算)を決意した木枯らし吹き荒れる冬の朝、美咲の言葉でオルゴールだけは残した。壊れた尻尾の修理をする‥‥そう娘が告げた時から胸騒ぎがしていた。


 そして事故が起きた。不安定な春の気まぐれな雷雨。修理を終えたオルゴールを受け取って、仕方なく雨宿りをする美咲に、視界を雨に奪われたトラックが突っ込んだのだ。


 壊れた自転車と、娘から異界に引き込まれた話を聞いて、無事で良かったと涙した。ただガラスの風鈴()や、舞踏会っぽい結婚式会場の話を聞いて、あの時処分すれば良かったと後悔した。


「大丈夫だよお母さん。あいつのいる世界ごと、私とこの猫ちゃんが壊してやったからさ」


 美味しそうに、はちみつたっぷりかけたホットケーキを食べながら、エヘンッと胸を張る娘と子猫ちゃん。


「⋯⋯子猫ちゃん?!」


「そうだよ。あのオルゴールの猫ちゃん人形は、もともと高名な細工師が作ったもの何だって。この子はオルゴールの妖精? みたいな存在だよ」


 物に宿る付喪神様みたいなものなのか、美咲の肩にあまりに自然に乗ってクリームを鼻につけてペロペロしている。


 リサイクルショップで引き取られた故人の遺物を、たまたま和也(元彼)が手に入れ綺麗に磨いただけだった。私は真相を知らされ、過去の自分の見る目のなさを嘆きたくなったが、今は愛する夫と娘に囲まれて幸せなので良しとした。


「それにしても美咲⋯⋯何でそんな事がわかるの?」


「ガラスの風鈴に閉じ込められた時に、猫ちゃんと話せるようになったからだよ」


 美咲はこのオルゴールの猫ちゃんだけではなく、猫ちゃんたちの言葉が分かるようになった。


「お父さんと、お母さんしか信じてくれないんだけどね」


 そんな心優しい娘も、高校を卒業し都内の大学へと進学した。寮生活とはいえ、一人暮らしとなる。親としては心配だったが、娘にはカノンと名付けられた猫ちゃんが付いているから大丈夫。


「むしろお母さんたちの方が心配だよ」


 帰省出来ない娘から手紙や年賀状が届く。いつの間にか私たちの間に決まった合い言葉は、「思い出のオルゴール(猫ちゃん元気だよ)


 オルゴールに宿っていた猫型木彫人形の猫ちゃんは元気に、今も手紙を使って私と娘の間を行き来しているのだ。





 ────でもね、美咲。サバイバル部は危ないから、止めたほうがいいかなと思うのよ。

 お読みいただきありがとうございました。


 「思い出のオルゴールの音色」 短編連作はこれにて終了です。最後は全ワードを使った物語になりました。

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― 新着の感想 ―
前作の続きですね。 あの印象的な終わり方から、救われた気持ちになりました。 よかったです。
キーワード制覇おめでとうございます!←…で良いのかな?w オルゴールのお話も完結! お疲れ様でした! 猫ちゃん、すっかり美咲ちゃんの相棒に(笑) ハッピーエンドでしたね!(*´∀`*) ありがとうござ…
 四作目は全キーワード使用! すごいですね!!  美咲ちゃん、無事帰ってこれてよかったです。  そして新たな絆はプラスアルファの特典付き! 話し相手にも相談相手にもなってくれそうですね。羨ましいです…
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