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第30話 『 マスターまで⁉ 』

今話は新キャラが登場します。メインキャラクターではないので、出番はちょくちょくです。

???「ショック⁉」


 バイトの制服を着用している美月がちらちらと脇を通るので若干の気まずさがありつつもくつろいでいると、とことこともう一人の従業員が晴と慎の前に寄って来た。


「あのあのー! お二人ってみっちゃんの知り合いなんですか⁉」


 茶髪の短髪。くりくりとした丸い目と快活な雰囲気。年齢は美月と同年代にみえる。晴に与えた印象は『小犬』で、その子が目をキラキラさせながら突然聞いてきた。


「ええと……」


 慎と共に答えに戸惑っていると、少女はハッと何か思い出したように、


「あ、名前いい忘れてました! 私はヒナミって言います!」


 ネームプレートを見せながら名乗ったヒナミに慎が「よろしく」と爽やかな笑みを浮かべて、晴も腕を組んで短い挨拶を交わす。


 それから、晴はヒナミに黒瞳を向けると、


「知り合いって……なんでそう思う?」


 晴が問いかければ、明快な声音で彼女は答えた。


「なんかみっちゃんと親し気な雰囲気だなって思って! それに何か話してましたし」


 みっちゃんが男性のお客さんと話すの珍しいから気になって、と彼女は言った。


 意外と周りを見ている子だな、と胸中で呟くと、慎が微笑を浮かべながら頷いた。


「うん。知り合いだよ」


 丁寧に応じた慎を見ながら、晴はただ黙ってカフェオレを啜る。


「そうなんですね! みっちゃんにこんなイケメン男性の知り合いがいるなんて知らなかったなー」

「あはは、キミはお世辞がうまいね」

「いやいや! お二人ともすごくイケメンですよ!」

「だってよ晴」

「うっせ」


 揶揄って来る慎に、晴は辛辣に返した。

 みっちゃん、というのはおそらく美月の愛称だろう。


「まあ俺の方は美月ちゃんの知り合いだけど、こっちは知り合いというか……」

「おい」


 晴がヒナミに余計な事を言おうとして、晴は視線を鋭くして口を黙らせる。


「……うん。知り合いです。知り合い」

「いいなー。どうやって知り合ったんだろ。あとでみっちゃんに聞こう⁉」


 冷や汗をだくだくと流す慎には目もくれず、ヒナミは好奇心を爆発させていた。犬じゃないのに、ブンブンと振られる尻尾が見えた。


「そんなことより、ここで話してても平気なの?」


 朗らかな口調で問いかければ、ヒナミは平気です、と白い歯をみせる。


「今の時間帯は人も少ないし、それに注文来たらそっこー駆けつけるんで!」

「はは。たしかにキミならすぐ駆けつけてくれそうだ」


 フリスビー振ったら走って取ってきてくれそうだな、という感想は胸に閉まっておく。


 そんな微笑を向ければ、前の方からは「外面スイッチオン」と小馬鹿にしてきて、キッチンの方から背筋に怖気が奔るような異様な気配を感じだ。


「(なにやってんだあいつ)」


 ちらっ、と奥を見れば、美月が訳も分からず頬を膨らませている。はて?

 そんな美月を気にしつつも、ヒナミが質問を続けた。


「お二人って大学生ですか? それとも社会人?」

「俺たちは社会人だよ」

「へー。どんなお仕事されてるか聞いてもいいですかっ」

「小説書いてるんだ。こっちも俺と同じ小説家」

「へーすご⁉」


 慎の言葉に驚愕しているヒナミと、なぜか後ろで自慢げに胸を張っている美月。


「もしかしてお二人、めっちゃ有名人だったり⁉」

「俺は違うけど、こっちの小説はアニメ化してるよ」

「すごすご⁉」

「おい余計なことを」


 口が軽いのかそれともヒナミを驚かせたいのか、慎が晴のプロフィールを勝手に開示していく。


 慌てて慎を制止しようとすれば、ヒナミの顔がぐっと近づいた。


「なんて本ですか⁉ 今度買います!」


 買うだけで読まなそうだな、と思いつつ答えた。


「『微熱に浮かされるキミと』ってタイトルだよ……あとキミ、ちょっと距離が近いな」

「あっとすいません」


 あまりの勢いにたじろげば、ヒナミも晴の心中を察してくれたのか距離を取る。


「本屋に行けばすぐ見つかると思うよ」

「人気なんですね⁉」

「うん人気だね」


 さっきから慎がヒナミに答えているので、晴は謙遜もできない。


「でもみっちゃんが小説家さんと知り合いかー。どうやって知り合ったんだろ?」

「ちょっとした偶然が重なってね」


 まあ偶然といえばその通りだ。

 それからもヒナミの質問は続く。この子、好奇心には従順なタイプだった。


「めっちゃ気になるんですけど、お二人はカノジョいるんですか⁉」


 ガシャン⁉ ガシャン⁉


『ん?』


 ヒナミが唐突にそんな事を質問すれば、キッチンから大きな物音が聞こえた。

 三人で眉根を寄せつつキッチンを見れば、美月がおろおろとしていた。


「ははーん」


 とヒナミが何か察したように口許を緩めた。


「気になるならみっちゃんも来ればいいのにー」


 と言いつつ、ヒナミは上機嫌に鼻歌をうたいながらキッチンに向かうと、美月の手を取って晴と慎の所へ戻って来た。


 ヒナミの手によって登場した美月だが、その様子はというと、


「き、気になってませんが」


 澄ました顔をしているが、その顔はどこか赤い。そんな顔をヒナミが指で突く。


「嘘はダメだぞみっちゃん。顔が赤いし目が泳いでるし呂律も回ってないよ」

「平常運転です」

「それもう熱あるだろ」


 淡々とツッコみを入れれば、む、と美月が頬を膨らませる。


「熱なんてありません。元気です」

「べつに心配してない」

「貴方ってそういう人ですもんね」


 慣れた会話を繰り広げれば、ヒナミが目をぱちぱちと瞬かせていた。


「なになに今の慣れたやりとり。もしかして二人、そういう関係だったり?」


 ヒナミの問いかけにどう返したものかと困っていると、美月が替わって答えてくれた。


「ま、まぁ……そういう関係ではある、かな」


 と赤面しながら答えれば、ヒナミは歓喜の悲鳴を上げて興奮した。


「みっちゃん新しいカレシできたんだ⁉ しかも相手年上とかやるぅ!」

「(このノリついてけねぇ)」


 跳ねるヒナミに、晴と美月は若干疲労が見え始めて、慎は顔を伏せてテーブルを叩いている。


「それなら早く言ってくれればいいのにぃ! どうりでみっちゃんが普段と動きが違うわけだよ。カレシさんが来たらそりゃ気になるもんね!」

「そういう訳じゃ……」

「のんのん! 私たちの間に言い訳はなしだよ! ででっ、カレシさんとはどうやって知り合ったの⁉」

「ええと」


 さすがは年頃の乙女と言ったところか、恋バナに夢中で食いついて来る。それに狼狽えている美月が小動物に見えたので、晴はしかたなく助け船を出す事にした。


「あー、ヒナミさん? あまり美月をイジメないでやってくれる?」


 優しい声音で諭せば、ヒナミはペロッと舌を出した。


「カレシさんに注意されちゃ仕方がない。この話はバイトが終わったら改めてみっちゃんに聞こうっと。あーでも、カレシさんからも話聞きたいなー」


 余程美月と晴の出会いが気になるのだろう、身をよじるヒナミは悶々としている。


 もはや手の付けられない狂犬と化したヒナミを止めたのは、おそらくこの喫茶店のマスターであろう白髪の老人だった。


「こらこらヒナミちゃん。あまりお客様に迷惑かけちゃだめだよ」

「はーいマスタ。でもマスターもみっちゃんとカレシさんの話気になりません!」

「気になるねぇ」

「マスターまで⁉」


 美月が呆れていた。


 お客の前でも和気藹々としている光景を見ていると、居心地の良さそうな職場だなと晴は安堵した。なるほど、美月が気に入ってる訳だ。


「でもヒナミちゃん。周りのお客さんもいるから、そろそろお仕事に戻ろうか。美月ちゃんもね」

「はーい」

「すいません」


 流石は年長者といったところか。場の雰囲気を壊さない口調で二人を業務に戻した。


「ごめんなさいね。あの子、恋バナ大好きで」

「そうみたいですね」


 台風に遭遇したかと錯覚するくらいには、ヒナミの圧は凄まじかった。


「悪い子ではないから、またこの店に来てくれると嬉しいかな」

「えぇ、また来ます」


 落ち着いた雰囲気と店内に広がるクラシック音楽、そして豆の香りがなんとも居心地よかった。気分転換の執筆場所には丁度いい。


 微笑を向けてマスターに伝えれば、マスターは柔和な笑顔を浮かべた。


「さてと、それじゃいい感じに休憩できたし、俺たちはそろそろ出るか」

「だな」


 晴がいると美月も仕事に集中できなそうなので席を立とうとすれば、晴の意図を察して慎も肯定した。


 荷物を持って席を立てば、レジへ向かう。


 そのレジを対応したのは美月だった。


「1050円になります」

「俺が出すわ」

「ん、じゃあ次は俺が出す番ね」


 晴と慎は喫茶店に行く回数が多いので、かわりばんで会計している。


「カードで」

「畏まりました。お預かりします」


 美月にクレジットカードを渡せば、スムーズに支払いへ進んでいく。


「……仕事、頑張れよ」


 ぼそっ、と呟くように美月に伝えれば、彼女は目を丸くしたあとに微笑んだ。


「はい。ありがとうございます。……こちらお返しますね」

「ん」


 美月が手に持つカードを受け取れば、晴はレシートと一緒に財布にしまう。


「お優しいですな婚約者さんは」

「労働してるやつを労うのは当然だ」

「美月ちゃんは可愛いけどお前は可愛くない」

「男に可愛さ求めんな」


 ぺこり、と頭を下げる美月に慎が右手を上げつつ「またね」と別れを告げて、晴は一瞥だけくれて歩いていく。


 ――外に出る直前だった。


「――?」


 ドアノブを捻ろうとした手が止まって、慎が眉根を寄せる。


「どうかした、晴?」

「……いや、なんでもない」


 顔色を覗き込む慎に淡泊に返せば、ドアノブを捻る。

 外に出れば、気持ちのいい風が通り抜けた。

 なのに。


「(なんだ。さっきの異様な気配は?)」


 外に出る直前。あの店内で、晴は言い知れぬ怖気を感じた。


「どっか行く?」

「本屋行きたい」

「はいよ。じゃあ行こうか。あと、もう一軒くらい見ておく?」

「そうだな」


 そんな晴の胸中を知らない慎が問いかけてきて、それに適当に相槌を打つ。


 歩きだしても、この胸のざわつきは収まらない。


 慎と会話中、晴は何度も後ろを振り返るのだった。


「――?」

今話登場したヒナミの本名は『東条陽南』です。愛称はヒナミちゃん。マスターの名前は『春日井与一』です。『与一」さんとお呼びください。

本話もお楽しみいただければ是非『いいね、ブックマーク、感想』など評価を送ってくださいぃ。作者の執筆の励みになります!! それでは次回! ……そして次回は、、、

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