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教団の目的

「これ以上の話は今は要るまい。とりあえずルークがカムイの中にいて、我々の助けになる事実だけでいい。彼ならアカツキの祠を開ける方法を知っている」

「……わかりました」

 分からないことはまだまだあるが、確かに急ぐ話ではない。俺が一応の納得をして頷くと、ウェルラントはそれを確認して話を変えた。


「次に、教団の話だが。これも全てを話すと長くなる。大雑把な説明だけしておこう」

「教団の話もだけど、サーヴァレットの事も聞きたいんですが」

「分かっている、それも合わせた話だ。……まず教団の目的だが、世界や人類の救済ではない。まあ、見れば分かると思うが」


「今までは一応見せかけでもそういう態だったんだがな。お前もだまされてたろ、ターロイ。孤児院作って人々救ってると思って、教団の再生師になるつもりだったんだから」

「……教団がこんなだって知ってたなら、親父が最初から教えてくれれば良かったのに……」

 恨みがましく言う俺に、親父は鼻で笑った。


「俺は口が堅いって言ったろ。教団の内部事情なんて世間の混乱を招くから極秘中の極秘だ。それに、王都に行って自分で見た方が分かりやすかっただろうが」

「教団は私腹を肥やす人間の集まりだって事?」

「そんなくだらない理由なら簡単なのだがな。話を続けるぞ」

 俺と親父のやりとりをウェルラントが回収する。


「端的に言うと、教団の目的は世界を思い通りに支配することだ」

「……世界征服みたいなことですか? でも国王の権力も手に入れてる今の教団は、実質国中を支配してるようなものじゃないですか」

「ただ支配したいわけじゃない。思い通りに、と言ったろう。世界の成り立ちからも覆すような力で支配するということだ」

 意味するところが分からなくて首を傾げると、代わりに隣にいたスバルが口を開いた。


「世界を覆す創世の力……もしかして教団は、『全なるあか』を手に入れて神の力を行使しようとしてるですか?」

「獣人族はあれを『全なる紅』と呼ぶんだな。そういうことだ」

「何ですか、『全なる紅』って?」

 訊ねた俺に、ウェルラントは書棚から分厚い古文書を持ってきて開き、描いてある図を示した。カラフルな色合いの絵ばかりで構成された紙面の中、一際鮮やかな赤い塊を指差す。


「これのことだ。我々の使う名前では、『賢者の石』と言う」

「『賢者の石』? それって、前時代の作り話にある万能の媒介物質のことじゃ……」

「作り話の産物ではない。これについては各種族でそれぞれに伝承が残っている。遡れば創世の神話にまで行き着く、この世界のキーアイテムだ」

 神話にまで、というと余計に嘘くさい気がするんだけど、ウェルラントの顔は至って真面目だ。


「ピンとこない顔をしているな。お前も実際そのものを見ているはずだが」

「俺が見ている?」

 赤い塊なんて、見た覚えがないけれど。

 俺が悩んでいると、スバルがはたと声を上げた。

「……もしかして、サーヴァレットの柄に付いてる石ですか」


「え? でもあれ、赤くなかったぞ? 俺が見た時は白くて……」

「『全なる紅』は内包する力によって色が変わるのです。モネで初めてあの男のサーヴァレットを見た時は白だったですが、今日の昼間に見た時には少し赤みがかっていた。おそらくもっと力を溜め込めば赤になるです」

「その通りだ。あれは空の時には黒いが、力を溜めていくと白を経て赤くなっていく。……ここまで言えば分かると思うが、あれが溜めているのは人間の魂のエネルギーだ」


「人間の……! サーヴァレットで刺されると消えるのは、賢者の石に取り込まれたからってこと!?」

「そうだ。そして教団がサージを優遇しているのは、あの男を使って賢者の石を完全体まで育てさせ、教団の物とするためだ」

 人間をあの剣の餌にする、というサージの言葉は、まさにその通りだったということか。あいつがどこまで真実を知って語っているのかは分からないが。


「賢者の石にどんな力があるのか知らないけど、そんなことのために罪のない人を殺めるなんて許されることじゃない……。何とかあいつらを止められないのかな?」

 ウェルラントに訊ねると、彼は待っていたとばかりに頷いた。

「止めるのは難しいが、奴らの計画を先回りして潰していくことは可能だ。もしお前にその意欲があるのなら、再生師の力を得る旅も併せてバックアップしよう」


「……あれ? もしかして教団とやりあうのも俺ですか?」

「もちろん我々も戦うが、向こうの大司教にターロイの存在が知られている今、嫌でもあちらがお前に向かってやってくる。それはつまり、奴らが恐れる力をお前が持っているからに他ならない。お前は教団に対抗しうる力を持っているんだ」

「ま、待って下さい、俺未だに血を見るとへなへなになる男なんですけど……」


「大丈夫だ。それも含めて、お前の力は分かっている」

 いや、自信満々に言われても。

「大丈夫です、ターロイ。スバルもついてますし、何よりアカツキ様が復活されれば、良い知恵を頂けるです」

 こっちも自信満々だな、おい。


「……まあ、頑張ってみますけど……フォローお願いしますよ?」

 弱々しく了解すると、領主は力強く請け合った。

「ああ、任せておけ。……では今日の話はここまでにしよう。明日はアカツキの祠を解放に……」


「……ちょっと待つです。その前にお前に聞きたいことがあるですよ、ウェルラント」

 ウェルラントが話を締めようとすると、何故かスバルがそれを止めた。何だか彼に探るような視線を向けている。

 ウェルラントはその理由を覚ったのか、少し眉を曇らせた。

「……何だ」


「お前がサーヴァレットで刺されても消えなかった理由を教えるです。……前から思ってたですが、お前、普通の人間じゃないですよね?」


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