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アカツキとは

 街の復旧を手伝っているとあっという間に夕暮れを迎える。


 親父に言われた通りにスバルとともに屋敷に向かうと、入り口にいた騎士がすぐに俺たちを応接間に案内してくれた。

 部屋にはすでに親父がいて、そこからは三人でウェルラントを待つことになった。


 その待ち時間に、親父が口を開く。

「ウェルラント様が来る前に、お前らの話を聞いてもいいか? ここに来る前インザークでどんな話を聞いてきた?」

「どんな話って……」

 親父相手にどこまで話していいんだろう。秘密が多くてちょっと難しい。

「お、親父こそ、ウェルラントとどういう関係なんだよ。トウゲンさんたちとも示し合わせてたし……。あれ? もしかして親父も元王宮の人間?」


「お前、何でそれを……って、あの商人二人が素性をばらしたのか。口の軽い奴らだな……」

 逆に問い返された親父は、大きくため息を吐きつつ頭を掻いた。

 いつもなら真面目な話ははぐらかされるのに、今日は普通に答えてくれるらしい。

「……お前の言う通り、俺やトウゲンたちは、国王直属の役人だった。だった、とは言っているが、現国王が十八になり政権を取り戻す時のために、密かに動いている。俺が資金調達、トウゲンたちが物資調達と連絡係、ウェルラント様が軍備の増強。他にトウゲンの娘が諜報活動をしている」

「えっ? トルクさんも?」

「お前たち、トルクまで知ってるのか」


「インザークで食人植物に呑まれてるところを助けてやったですよ」

 驚いた親父に、隣からスバルが答えた。

「そしてトルクは、代わりにテオという恐ろしい男をスバルから遠ざけてくれたです」

「テオ? あの植物研究者か。あいつ、恐ろしいタイプの男だったかな? ……インザークの恐ろしい男と言ったら、グレイだと思うが」

 ああ、確かに。


「昔、俺の魂濁を直してくれたのグレイだよな。たまたま来てくれたって言ってたけど、親父、もともとあの人と知り合いだったのか?」

「あー……まあな。教団関係者とはあまり接触しないようにしているが、あいつは教団の中でも超異端だから。俺とも普通に取引したりするんだよ。ウェルラント様とは犬猿の仲だがな」

 そう言ってから、親父は少し身体を乗り出した。


「インザークでグレイにあったんだろう? あいつ、何を言ってた?」

 あっ、結局最初の質問に話が戻ってしまった。

「えーと……」

 裏山とかカムイのこととか、ウェルラントが秘密にしていることまでしゃべっていいのだろうか。悩んでいると、そのウェルラント当人が扉から入ってきた。


「待たせたな、なすべきことが多くてなかなか抜けられなかった」

「まあ、領主様ですからね。この騒動の後では仕方ない。では早速、案件をどうぞ」

 親父が話を切り上げて、主導権を彼に渡す。

 それを受けたウェルラントは椅子に腰を下ろすと、俺を見据えた。


「早速だがターロイ、再生師になるために、グレイと会ってきたんだろう? あいつは何と言っていた?」

「あ、ええと」

 あ、親父と全く同じことを訊いてきた。親父がここにいるけどいいのかな。

 少し躊躇うと、それを察したウェルラントがテーブルの上で手を組んだ。

「イリウに内容を聞かれることは気にしなくていい。この男にはいろいろ事情を知られているからな」

 なんだ、事情って。


「カムイのことも……?」

「ああ、もう何年も前から知られている」

「心配すんな、俺は口が堅いんだよ。気にせずとっととしゃべれ、ターロイ」

 親父に促されて、俺は頷いた。


「魔王アカツキの祠を開けるようにと言われました」

 告げた言葉に、ウェルラントが身を乗り出す。

「そうか、あれが再生師の最初の関門だったか!」

 そう言えば、初めて会った時に彼はあの祠を開けようとしていたんだっけ。魔王の祠を開けたいだなんてとんだ国賊だと思ったものだけれど、今自分がそれを開ける立場になると、アカツキの詳細が気になった。


「開けないといけないのは分かりますが、そもそも開けて大丈夫なんですか? 魔王アカツキのこと、伝承でしか知らないんですけど」

 疑問に思って問いを投げかける。古代の歴史はほぼ教団にねつ造されたものだとグレイに習ったおかげで以前ほどの拒否感はないが、やはり少し恐怖感が残るのだ。

 その疑問に答えたのは、隣にいたスバルだった。


「アカツキ様は素晴らしい統治者ですよ! 仲間思いで恩義を忘れない、しかし時には非情になることも辞さない尊敬に値するリーダーです! それをニンゲンどもが……」

 そこまで言って口を閉ざし、眉根を寄せる。

 その後をウェルラントが引き継いだ。


「アカツキは人間族の八割を殺したと言われているが、実際はその罪をなすりつけられただけだ。そもそもアカツキは、グランルークの仲間だったんだ」

「アカツキがグランルークの仲間!?」

 伝承と真逆じゃないか。どんだけ歴史は弄られているんだ。

 俺が目を丸くすると、再びスバルが横から付け足した。


「グランルークはアカツキ様を一番信頼してたです。だからグランルークが消えた後、事後を託されたアカツキ様を邪魔に思ったニンゲンどもに冤罪を着せられたです」

「……冤罪で……そして、あの祠に閉じ込められたのか……」

 酷いことをする輩がいるものだと眉を顰めた俺に、ウェルラントが即座に訂正を入れた。

「閉じ込められたわけじゃない。なぜアカツキの祠が真の再生師を目指すものにしか解放できないのか? それは、彼を護り再生させるために隔離したものだからだ」


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