イリウとの会話
「ターロイ!」
ウェルラントの屋敷の前に着くと、俺の親父、イリウがいた。
「親父! モネから無事に逃げられてて良かった」
「ああ、俺たちは早いうちにモネを抜け出たからな。マルロも一緒だが、今は屋敷の中にいる」
「そっか、後で会いに行くかな。……ところでさ、親父たちが出た後モネで何が起こったか、詳しい情報入ってる? 近くを通ってきたんだけど、街に全然人の気配がなくて、もしかしてって……」
訊ねると親父が眉間にしわを寄せて声を潜めた。
「俺も詳しくは分からないが、ミシガルにサージが攻めてきた時、『モネは俺の餌になった。お前たちもそうしてやる』と言っていた。モネには当然あいつの知り合いも多く、その凶行を見ていて叱責した者もたくさんいたから……。多分うるさく思って教団ぐるみで街ごと『なかったこと』にしたんだと思う」
「それってやっぱり……」
「目撃者も諫める者も、みんな消したんだろう、あの剣で。両親すら街から出てこなかった」
「親も消したってこと!?」
「自分の息子が街中の知り合いの人間を消していくのに、諫めない親はいないだろうからな。もともとサージは甘やかされて育っているが、今まで両親には従順だった。だから親はおそらく自分が叱れば言うことをきくと思って、厳しく叱責しただろう」
「だけどサージは、親も手に掛けた……」
「……ウェルラント様に聞いたが、あの剣に取り憑かれた者は徐々に精神を蝕まれるらしい。情や心の安寧を失い、不安と疑念と剣への執着だけが増していく」
「そんな恐ろしいもの……。あの剣って、何のためにあるんだろう。どうにか壊せないかな」
「俺も古代のことにはあんまり詳しくない。細かいことはウェルラント様に聞け。……っと、その前に、街の復旧が先だな。お前たち、手が空いてて体力も残ってるなら、子供たちと一緒に壊された家屋の復旧手伝いに行ってくれ」
「子供たち、無事避難できたですね! 良かったです」
脇にいたスバルが親父の言葉に安堵のため息を吐いた。
「そうか、スバルはシギのこと助けに来たんだもんね」
「まあ、最終的にみんなを助けたのはウェルラントだったですけどね。……それにしても、教団はなんで子供だけ集めて閉じ込めたのか……何か理由があるのかもしれんです」
「うーん、わかんないことだらけだな。でもとにかく子供たちが無事なのは良かったよ」
「子供たちはもうあっちに手伝いに行っている。お前たちも頼むぞ」
親父はそう言って、街の壊れた商店を指さした。
「わかった。行ってくる」
「ひとしきり作業が終わったら、もう一度屋敷に来い。……ウェルラント様を交えて、お前に話がある」
何だか真面目な顔で指示されて、俺はぱちくりと目を瞬いた。
「親父とウェルラントと一緒に、話?」
「今やお前の能力はサージを通して教団の知るところとなってしまった。奴らに対抗するために、お前に教団の本当の姿を教えてやる」
「本当の姿って?」
困惑する俺の横で、スバルが声を上げる。
「そこにスバルの同席は可能ですか?」
「んー、まあ、いいだろう。嬢ちゃんの助けも必要になるだろうしな」
「こう見えても、スバルも獣人として受け継ぐ知識があるですよ。何かいい対抗策が出るかもしれんです」
「はは、それは頼もしいな。じゃあ、また後で。日暮れまでには来いよ」
親父はそう言うと、また別の采配をしに他へ行ってしまった。
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