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目が覚めると

 目を覚ますとなんか周囲がすごいことになっていた。

 倒れた人の山・山・山。歩道は陥没してるし。


 あっちの俺と入れ替わってから、一体何があったんだろう。

「待たせたな。後の処理は部下にやらせる。ここから引き上げよう」

 敵の最後の一人(だよな?)を葬ったウェルラントが剣を鞘に収めながら歩いてくる。その腕や剣から血が滴っているのを見て気が遠くなりそうになったけれど、なぜかそのまま卒倒することは無かった。


「ターロイ、血を見ても平気なんです?」

 スバルが隣から困惑したように訊ねるのに、俺は青ざめながらも小さく頷いた。

「よくわかんないけど、気を失うほどじゃないみたいだ。慣れたのかな……? あ、ところでさ、俺、働いてた?」

「えっ? ええと……」

 なぜかスバルが口ごもる。

 あれ、もう一人の俺、役に立ってなかったのかな? 


「お前はよくやっていたよ。とりあえずはな」

 横からウェルラントが自身の止血をしながら肯定をしてくれた。

 彼がそう言うのなら一応は戦ってくれたのだろう。あいつがどんな戦い方をしたのかは知らないが、敵は追い返せたみたいだから問題はないか。


「サージはどうした?」

「あの男は仲間を置いて一人で逃げたです」

「というか逃がした。奴の持つサーヴァレットは見たところまだ役立たずだったからな」

「役立たず?」

「……まあ、どちらにしろ奪うこともできないし、宿主を殺すこともできない。様子見するしかないだろう?」

 どこかごまかすような物言いがちょっと気にかかるけれど。


「それより、カムイはどうした。一緒じゃないのか」

 ウェルラントの言葉に、俺ははたと立ち上がった。

「あ、そうだ! 屋敷裏にカムイを迎えに行かないと!」

「あそこか……。戦っている最中ずっと気になっていたんだ。あいつは私を無理矢理転送させただろう、それもスバルのところに。離れたところ同士の長距離転送は酷く血と魂を消耗するんだ。全く、無茶なことをする……」

 ウェルラントが苛立った様子で眉根を寄せる。


「カムイを迎えにならスバルが行ってくるですよ? 多分足は一番速いですから」

「いい、お前たちは屋敷に行き、イリウたちがいるからその指示に従え。……カムイはおそらく気を失っている。落とし戸から担ぎ出すのも、裏庭から屋敷に入れるのも、私の方が勝手が利く」

「それは確かに……。でも、また閉じ込めたりしないですよね?」

 俺が訊ねると、彼は少し表情を険しくした。


「必要ならそうするかもしれん。……でもとりあえずは回復が先だ。他に見つかるわけにはいかないから、しばらくは私の部屋に置く」

「必要ならって……」

「今は問答をしている暇はない。後でまた話そう」

 俺の言葉を遮って、ウェルラントは踵を返してさっさと行ってしまった。


「カムイ、大丈夫かな」

「ウェルラントはカムイが必要で閉じ込めてたですから、無体なことはしないと思うですよ。実際、ここで一番安全なのはあの男のとこです」

「まあ、それもそうか。後で話そうって言ってたし、細かい話はそのときにしよう。……屋敷に親父がいるって言ってたよな。まずはそっちに行くか」

 俺が歩き出すとスバルもすぐ隣についてきた。


「……ターロイ、あの、ちょっと訊いていいですか」

「何、あらたまって」

 隣を歩く彼女が、なぜか躊躇いがちに視線を泳がせる。スバルにしては珍しい歯切れの悪さだ。

「昔のことって、何か覚えてるです?」

「昔? 小さいときのこと? ……俺、全く記憶無いんだよね。別にそれで困ることはないんだけど。なんで?」

 逆に訊ね返すと彼女はふるふると首を振った。


「お、覚えていないならいいです。思い出さない方がいいこともあるですし」

「んー、まあね。そういえば、スバルの小さい頃って、どうしてたの?」

「……それは典型的な思い出さない方がいい記憶です」

 そういえば、以前もそんなことを言っていたっけ。訊いてはいけないことだったかもしれない。

 眉間にしわを寄せて黙ってしまったスバルに、俺も地雷を踏まぬように黙ることにした。

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