不意打ち
一人目を壊すのはあっという間だった。
充魂武器同士の戦いなら、どうしたって破壊点の見えるターロイに軍配は上がる。武器とハンマーがかち合った瞬間、相手のオリハルコンを真っ二つにしたターロイは、顔色一つ変えずにそのまま敵に向かってハンマーを打ち下ろした。
「ひっ!」
それを見て引きつった声を上げたのはサージだ。モネで彼と対峙した時の恐怖を呼び起こされたらしい男は、じりじりと後退する。そして両脇に立つ護衛を見上げた。
「お、おい、一人簡単にやられちまったけど、大丈夫なのかよ……」
それに冷静な声が答える。
「……あなたは不死身の剣をお持ちなのですから、大丈夫でしょう。ただ、サーヴァレットはまだ魂を食い足りない。護衛の者と戦っている隙に、あの男の魂を食ってしまったらいかがか」
「ターロイを……?」
護衛の男はわずかにサージを誘導した。
「戦っている護衛の者の背後なら、あの男の死角になる。襲いかかる必要はありません。投げつけてかすり傷だけでも負わせれば魂は食えますから」
「投げつける? だ、だが、サーヴァレットをあいつらに取られたら……」
「サーヴァレットは魂と結びつく剣。サージ殿が自身で放棄しない限り、やがてあなたのもとに戻ります」
「そ、そうなのか。だったら……」
サージは唾を飲み込んで、ぐっとサーヴァレットの柄を握った。
いつもいつも目障りだったターロイを消すことが出来る。
昔からその能力は酷く妬ましく、そして今となっては恐怖の対象でもあった。
早く消して安心したい。そして後はこの剣さえ持っていれば、教団で敬われ、自由気ままに豪奢な生活ができるのだ。
サージはその思いだけで少し前へ出た。
前列で戦う護衛の背後で息を潜める。
頭に血が上っているのか、ターロイの意識は目の前の男にしか行っていないようだった。
サージはハンマーの行方をちらちらと追いながら、それを振り抜く瞬間を狙う。
ハンマーが下に打ち下ろされる時が、一番狙いやすく、的もでかいのだ。サージはじっと待った。
やがてターロイの猛攻に、護衛の男がぐらりとよろめく。
ここだ、奴がハンマーを打ち下ろす瞬間。
そのハンマーが目の前の男を下に打ち倒したタイミングで、サージは予想通りに上半身が無防備に晒されたターロイに向かってサーヴァレットを投げつけた。
タイミングは完璧。意表を突かれたターロイが呆然としたように目を見開く。サーヴァレットの切っ先はまっすぐ彼に向かって、サージはターロイの消滅を確信して口端をつり上げた。やった! これでこいつは終わりだ!
「危ない!」
しかし、それがターロイに到達する前に、二人の間に割って入った誰かに阻まれたことに目を丸くする。サーヴァレットは彼の直前で、その人物の腕に刺さった。
「ウェルラント!」
ターロイの後方で、スバルが悲鳴に似た声を上げる。彼をとっさにかばったのは、ミシガル領主ウェルラントだった。
サージの後ろ隣では、護衛の男たちがおお、と沸き立つ。
「あの男は仕留められなかったが、ウェルラントを葬れるとは!」
「これは値千金の働きですぞ!」
誰もが次の瞬間のウェルラントの消滅を予感した。
しかし。
「……やってくれたな。お返しだ」
なぜか彼は消えることはなく、サーヴァレットを自身の腕から引き抜いた。傷口から血が噴き出したが、気にしていないようだ。
唖然として反応の遅れた護衛に、それを強めに投げ返す。
「うわっ……!」
飛んできたサーヴァレットを避けそびれた護衛が、魂を吸い取られて消えた。
カラン、とその場に落ちた剣を、サージは慌てて拾い上げる。
「な、なんだてめえは……!? 人間じゃねえのか!?」
サーヴァレットが効かない相手に初めて会った男は、酷く狼狽えた。一人残ったサージの護衛が舌打ちをする。
「貴様、魂が……、まさかコネクトを受けているのか! 未だ術者の生き残りがいたとは……! 大司教様に報告を……」
「それは困るな」
ウェルラントは傷を負ったのと逆の右手だけで、最後の護衛の一人に飛びかかった。
「ウェルラント! サーヴァレットの宿主が逃げるですよ!」
「追うな、スバル。それよりターロイを頼む」
最後の護衛と彼が戦い始めたのと同時に、サージが完全にこちらに背を向けて走って逃げ出す。それを追おうとしたスバルを、ウェルラントは引き留めた。
「ターロイを?」
スバルがターロイを見ると、さっきまで血気盛んだった彼がなぜか気を失っている。彼女は驚いてその上半身を助け起こした。
「ターロイ! 大丈夫ですか!?」
そのまま胸ぐらを掴んで少し強めに往復ビンタを食らわす。すると小さな唸り声とともに、すぐに彼は反応を返した。
「……ん? あれ? スバル? 俺、何してた?」
目を覚ました彼は、いつものターロイだった。




