破壊者ターロイ
「お前がターロイという男だな」
ターロイが近付くと、サージを守る男の一人が声を掛けてきた。
「そうだ。俺のことサージから聞いた? それとも、あの事件の生き残りから?」
「……あの事件って何ですか。ウェルラント知ってるです?」
スバルが後ろでウェルラントに訊ねる。すると彼は困ったように眉間にしわを寄せた。
「ヤライの村が壊滅した事件だ。……全く余計なことを言うな、あいつは」
視線の先で、ターロイが不敵に笑っている。
「事件のことを知っているとは……やはりお前が適合者か。あのとき死んだものと思っていたが……」
「俺も村の奴らは全員殺したと思ってたのに、為損じた奴がいたのは誤算だった」
「殺……!?」
護衛の男に返したターロイの言葉に、スバルは耳を疑った。
殺した? 村人を全員? ……ターロイが?
スバルが呆然としていると、隣でウェルラントが大きく舌打ちをした。
「ターロイ、余計な話はやめておけ。必要なのはサーヴァレットだけだ、そいつらの相手をする必要はない」
「わかってるよ。でもこいつらやらないと、サージをぶっ飛ばせないだろ? 自分からはビビって出てこないし」
「て、てめえが俺をぶっ飛ばすだと!? ふざけんな! 俺は不死身なんだ、選ばれた人間なんだ! てめえの相手なんかしてらんねえんだよ!」
ターロイが揶揄すると、敵の真ん中にいるサージが空威張りを見せる。その重心がすっかり後ろに逃げていることに、本人は気付いていないらしい。
「お前さあ、不死身で選ばれし人間なら、なんで教団の庇護下にいるんだよ。大司教をぶっ殺して、お前がトップになっちゃえばいいじゃん。そうすりゃ好き放題だぜ? みんながお前にひれ伏すんだぜ?」
ターロイの甘言に、まわりにいる護衛の男たちが色めき立つ。
「何を言う、貴様!」
「再生師様をそそのかそうとは、身の程知らずな!」
「サージ殿、あんな戯言に耳を貸してはいけませんぞ!」
「わ、分かってるよ、そんなこと」
その勢いにサージは気圧されていた。
「あんまり無駄に煽るな、面倒臭いことになる。あの護衛は大司教の直属……本気でお前を殺しにくるぞ」
あまりに自由なターロイの言動に、ウェルラントはその隣に進んで小声でたしなめる。しかし彼は一向に意に介さず、鼻で笑っただけだった。
「下手に一人二人残ってサージのことを守られる方が面倒なんだよ。逆上して全員で来てくれれば楽じゃん」
「奴らはさすがに感情で動くような三下とは違う。……お前こそ、感情的に突っ込むなよ」
「……分かってる」
こちらでこそこそと話していると、向かいの護衛たちが隠し持っていた充魂武器を取り出して構えた。前にいる二人が体勢を低くしたのは、隙を見つけたらいつでも飛びかかるつもりだからだ。
後ろの二人はサージの両脇にぴたりと控えている。
「お前を生け捕ってこいという大司教様の指示だが、最悪死体でも構わないと言っていた。お前のようなしつけのなっていない猿は、生きて大司教様の前に出す価値もない」
「は! てめえらは餌に釣られて調教された大司教の犬だろうが。……ところで、お前らが持ってる餌の一つのその古代武器、どうやって充魂されてるか、もちろん知ってて使ってるんだろうな?」
二人の少し後ろに控えていたスバルは、ターロイの声音に静かな憤怒が乗ったことに気が付いた。
さっきまではただのドSの無法者のようだったのに。彼はただ戦いを楽しんでいるわけではない? どうにもこちらのターロイの言動は理解しがたい。彼の隣にいるウェルラントは何かを知っているようだけれど。
「ターロイ、落ち着け」
「分かってるって。……ただ、知ってて使ってるならお仕置きが必要だろ?」
ターロイの問いに、向かいの護衛たちはふん、と鼻を鳴らした。
「知っていたらどうだと言うんだ。不要なものを有効に使ってやっているんだから、何の問題もないだろう」
「……不要なもの、だと?」
その言葉を聞いた途端、ターロイの雰囲気ががらりと変わった。
スバルは後ろにいるだけなのに、全身が彼の殺気で泡立つのを感じる。
正面でまともにターロイの殺気を受けた男たちが一瞬怯み、その真ん中でサージが青ざめた。
「……やっぱ、駄目だわ。こいつら皆殺しにしねえと。ヤライん時と、何も変わりゃしねえ」
低く呟いて一歩踏み出す。
完全に目が据わった彼のとなりで、ウェルラントが小さく息を吐き、スバルを振り返った。
「スバル、ターロイが戦い始めてもしばらく手を出すな。巻き込まれるかもしれない。こうなってしまっては、私でも手に負えないんだ」
彼の言葉にスバルが困惑する。
「……このターロイは、一体何者なんです?」
「古代最強の能力を引き継ぎ、その行使をいとわぬ万物の破壊者だ。彼がその気になれば、壊せないものはない」
「壊せないものはないって……」
「彼はこの世界すら壊せる能力を持っているということだ」




