合流
しかしスバルの様子など気にせずにそのまま速度を上げたウェルラントが、近くに戦う少数の騎士と数多の僧兵を見つけて自身のブロードソードに手を掛けた。
「下がれ! 私がやる」
「ウェルラント様!」
彼が一声掛けるとそれに気付いた練度の高い騎士たちは、一斉に速やかに後退した。反して、騎士団最強、不死身の異名を持つ男の登場に僧兵が浮き足立つ。
「くそっ、あいつ王都にいるはずじゃ……! ウェルラントが戻ってきた、後退するぞ!」
「再生師様に連絡を!」
スバルが手伝うまでもなくほぼ一人一薙ぎで倒して行く彼に、後方の僧兵はすぐに逃げ戻って行ってしまった。
「現状を報告をしろ。分かる範囲でいい」
息も乱さずに敵を倒して剣を収めたウェルラントが騎士を振り返る。それに背筋を伸ばした部下の一人が敬礼をして口を開いた。
「モネの教団が突如布告なく攻めて来ました。城門は即時陥落、妙な剣を持った男に味方人数を減らされています」
「……その剣を持った男はどこに?」
「大通りを進んでいます。主力部隊が食い止めていますが、今はどうなっているか……」
「わかった、そちらにはこれから私が行く。お前たちはここで引き続き僧兵の侵入を防いでくれ。倒さなくても教団の本隊に追い戻すだけで構わん」
「了解しました」
「……あいつらに対抗できるです?」
すぐにまた彼らを残して走り出したウェルラントに訊ねる。
「できるも何も、しなくちゃならんだろう。まあ、練度も低ければ指示系統も出来ていないお飾りの兵に負けるいわれはない。サーヴァレットさえ気を付ければどうにかなる」
「そのサーヴァレットに対抗できるのかって話しですよ?」
「だから、どうにかなる」
そのふわっとした自信はどこからくるのだろう。ちょっと心配になる。けれどそれ以上の問答も詮無いことで、スバルは黙って走ることにした。
路地を抜けて、大通りに差し掛かる。
そこで今度は向かいから怪我をした騎士の一隊が来るのと鉢合わせた。それを見たウェルラントが立ち止まって隊の状況を確認する。
向かいの騎士たちも彼に気付いて、抜いたままだった剣を鞘に収めた。見たところ出血はあるが、命に関わるような大きな傷は負っていないようだ。
「ウェルラント様! お戻りお待ちしておりました!」
「どうした、お前たち。大通りで戦ってるはずじゃなかったのか」
どうやら彼らはサージと戦っていた主力部隊の一員らしい。
「それが、今青年が来て、……ここは自分に任せて、ウェルラント様がすぐ来るから指示を仰ぎに行けと」
「青年?」
「以前、ウェルラント様の邸宅に滞在したことのある終い屋の青年です」
「ターロイがいるですか!?」
思わず身を乗り出したスバルをウェルラントが手で制した。
「彼が自分から最前線に来るとは……。ふむ、その青年はお前たちの血を流す姿を見ても平気だったか?」
「は? はい、最初は少しよろめいて様子がおかしかったですが、すぐに普通に……」
その話を横で聞いて、スバルが表情を曇らせる。
あいつが出てきているのだ。
「……なるほど。わかった、では私もこの先の青年に加勢しに行ってくる。お前たちは一旦詰め所に戻って手当をしたら、路地に入り込んだ僧兵を駆逐しに出ろ。逃げた奴は追わなくていい。家に閉じ込もっている住人がいたら一旦保護して、屋敷の方へ集めておけ」
「了解しました」
指示を終えるとウェルラントはスバルを振り返った。
「行くぞ、スバル。……お前は『ターロイ』に会ったことはあるか?」
彼の含みのある物言いに、スバルは一度ぱちりと目を瞬く。
「それは……『あいつ』のことですか?」
逆に問い返したけれど、ウェルラントはそれだけで理解したようで、答えを言うことなく再び前を向いて走り出した。
見通しのいい大通りでは、すぐに人山が見えてくる。しかし見えているのは教団の僧兵の背中ばかりで、こちらからターロイの姿は見えなかった。
「ターロイはどうやら囲まれてるです」
「そのようだ。だがやけに静かだな。……まあいい、とりあえず一撃見舞っておくか」
スバルの隣でウェルラントがカムイの剣を鞘から抜く。
そして魂言を唱えようとしたとき、
「ウェルラント!」
不意に声を掛けられて彼は攻撃を止めた。
「ターロイ!?」
その声にスバルが呼応すると、二人の存在が背後に迫っていたことに気付いた僧兵どもが慌てたように向こう側に引いて、ようやく視界にターロイの姿が入ってきた。
すでにこちらを向いていた彼と二人の視線が合う。
その足下には倒された数多の僧兵が折り重なっていて、それに気付いたスバルが唖然とすると、ターロイはにぃと口端をつり上げた。
「こんな奴らに魂術使うなんてもったいないからやめておけよ。充魂するのが大変なのは、お前も知ってんだろ。そんな急いで片付けないで、もっと気軽に、じわじわと恐怖を与えながら壊そうぜ」




