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魂のエネルギー

「明日は早い内にここを立とう。モネは気になるけど、今更僕たちが行っても無駄に危険に身をさらすだけだ」

 夕食を食べ終えるとカムイが俺たちを見て言った。

 それにスバルと二人で頷く。


「俺たちがサージより早くミシガルに行って、危機を知らせるってことだろ」

「そう出来るのが一番いいけど、現状が分からないから先に着けるかは微妙だね。ただ、急ぐに越したことはない。僕も体力がどうこう言ってられないよ」

「大丈夫、カムイがへばったらスバルが負ぶってあげるです」

「ああ、うん、ありがとう。・・・・・・じゃあ、今日は早めに休もうか」

 スバルの言葉に苦笑をして、それから彼は立ち上がった。


「二人は洞穴の奥で寝てていいよ。僕は少し眠ったし、それにすることがあるから。見張りは任せて」

 そのまま休みに行くのかと思ったら、そんなことを言い出すカムイに驚いて食い下がる。

「ちょっと待って、一人で一晩中起きてるつもりか? それは駄目だよ、途中で交代しよう。カムイこそ体力を完全に回復させるためにも寝なくちゃ」

 前から何となく思っていたけれど、どうも彼は自己犠牲的なところがあるようだ。もう少し、自分に優しくてもいいと思うんだけど。


「・・・・・・そう、だね。じゃあ僕が眠くなったら交代してもらうよ」

 何となく気のない返しは、途中で俺を起こす気がないからだ。そうはさせない。

「ちゃんと時間を決めよう。四時間たったら起こして。絶対な」

「スバルも入るから三時間ずつでいいですよ。夜は得意ですから、カムイの次はスバルが見張るです。そしてスバルがターロイを起こせば問題ないですね」

「よし、それで決まりだな」

 半ばスバルと二人で強制的に決めると、カムイは小さく息を吐いて頷いた。


「分かったよ。それじゃ、二人はもう休んで。・・・・・・僕が外にいる間、少しうるさいかもしれないけど我慢してね」






 俺たちを洞穴の奥に追いやって、カムイが外でなにかやっている。

 森の静寂に響く、ガリガリと硬いものを引っ掻くような音。


 近くでマントに包まって休んでいるスバルの耳が、音が気になるのかぴくぴくと反応していた。

「カムイ、何やってるのかな」

 小声で話しかけると、彼女が顔を上げてこちらを見、それから外に視線を向ける。


「地面に何かを書いているようです。音の途切れ方からして、何か複雑なものっぽいですよ」

「複雑な・・・・・・っていうと、魂方陣かな」

 そういえば、俺のハンマーにエネルギーを補充すると言っていたっけ。やることがあるって、これのことか。

 カムイが見張りをしている間、近くに来てはいけないと申しつけられてしまったから、確認に行くわけにもいかない。たぶんこれは本当は俺たちが寝入った後にするつもりだったのだろう。


「あ、書き終わったようです」

「ほんとだ。・・・・・・何か言ってる?」

 しばらくするとガリガリという音が止み、微かにカムイの声が聞こえてきた。

「魂言を唱えてるですね。コ・マ・ウ・・・・・・はあ、何言ってるかさっぱりわからんです」

「多分俺のハンマーに充魂してくれてるんだと思うけど・・・・・・そもそも魂のエネルギーとか、よく分からないんだよなあ」

 ため息と共に独り言つ俺に、スバルが説明してくれる。


「魂のエネルギーとは、基本的に魂術を使うための精神力、生命力みたいなものです。その大きさ、強さには個人差があり、魂のエネルギーが強いものはそれだけ実力があるということになるです」

「へえ。じゃあ魂術が使えない人間にはあんまり関係がないんだな」

「・・・・・・そうでもないのです」

 スバルの声のトーンが少し落ちた。


「ターロイは大半が魂術を使えないというニンゲン族が、どうして淘汰されずに他を圧倒するほどの種族人数を擁しているのか、考えたことはないですか?」

「え、それは過去の大戦でグランルークが人類を守ってくれたから・・・・・・」

「グランルークが現れる以前から、ニンゲンは今の何倍もいたです。大戦で八割のニンゲンが殺されたと言われてるですから、そもそもが膨大な人数だったですよ」

 そう言って、不意に、彼女の瞳に暗い影が宿る。


「・・・・・・これは、本来知らない方がいいこと。でも教団とこれから渡り合うのなら、知っておいた方がいいかもしれないです。ニンゲンがこれだけ多く生かされている理由。あいつらに充魂をされたアイテムから、血の臭いがする理由」

「血の・・・・・・」

 スバルの言葉に何かを察しかけて、途端にぎゅうと心臓が絞られる。知らず額から冷たい汗が零れた。

 多分、彼女は、何か恐ろしいことを俺に告げようとしている。


「ま、待って。その話はまた今度にしてくれ」

 その気配に圧倒されて、俺は情けなくもその続きを退けた。正直、続きを聞いたら今晩は一睡も出来なくなりそうな気がしたのだ。

 そんな俺の目の前で、話を遮られたスバルがぱちくりと目を瞬いた。

「まあ、いいですけど・・・・・・」

 少し拍子抜けした様子の彼女に、体裁を繕うように話を変える。


「と、ところでさ、獣人だしスバルも魂術使えるの?」

 今の話を聞いていて、そういえば人間以外は魂術を使えるのだと思い出した。だったらスバルも使えるはずで、獣人は何ができるのかかなり気になる。

「もちろん使えるですよ。まだ使ったことはないですが」

「どんな術?」

 肯定する返事に好奇心のまま続きを促すと、彼女はさらりと告げた。


「食べた相手の能力を自分のものに出来る術です」


「・・・・・・ん?」

「だから、殺して食べた相手の能力を自分に引き継げるです。魂術は無理ですが、特殊技能や知識を手に入れることができるですよ。なかなか便利そうな術です」

「へ、へえ~・・・・・・」

 ・・・・・・こっちも聞くんじゃなかったかも。


 少し薄ら寒い気分になりながら、俺はカムイの魂言を子守歌に、眠ってしまうことにした。


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