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俺と俺

(・・・・・・本物? 何を言ってる、ターロイは俺だ)

『まあ、信じなくてもいい、今はな。それよりも、こんなに早く同調の機会が来るとは思わなかったぜ』

 もう一人の俺の声が少し機嫌を直した。


(同調って、何の話だ)

『お前の思考と俺の思考が一致したってことだよ。今までも時々あっただろう。お前が怒りの感情を抱いたとき、俺と同調して繋がったことが』

 確かに、彼とは僅かに繋がることはあったけれど。

 強い怒りも何もないこんなときに、それもこんなふうに話しかけてくることなんて、終ぞなかったのに。


 そこまで考えて、不意にさきほどルークが「『彼』と直接話す」と言って俺を眠らせたことを思い出した。

(もしかして、俺が眠っている間にお前がルークと話していたのか)

『そうだ。話すと言うよりは一方的な通告を受けただけだったがな。・・・・・・まあ、そんな話はどうでもいいんだ。それより俺と取引しようぜ』

(取引?)

 うわ、何だか怪しいことを言い出した。内心で身構えた俺を、彼は気にせず話を進める。


『今お前と同調したのは、俺と入れ替わってもいいと思ったお前と、入れ替わりたいと思っていた俺の意識が合致したからだ。おそらくお前がそのまま強く感情を動かせば、入れ替わることができる。ルークがそういうふうに俺たちのデータをいじった』

 いや、いじるとか、まるでおもちゃみたいに言うな。


(感情を強く・・・・・・って言われても、どうすればいいのか分かんないけど・・・・・・)

『今の状態でそれを自分でどうにかするのは難しい。だが今後、そういう場面で俺と同調したときには、強く呼び出せ。お前らがピンチだったら、力を貸してやってもいい』


 随分と自信に溢れた物言いは、ちょっと恩着せがましい。

 しかし彼はサーヴァレットを持つサージを壊せると言っていた。もしその力を借りることができるのなら、俺はあいつと渡り合えるかもしれないのだ。

 だとしたら、その力は是非とも欲しい。

 彼と入れ替わる、という状態がよく分からなくて、大分不安ではあるけれど。


(・・・・・・危機に陥っても、俺では戦闘力がない。もし何かあったときに力を貸してくれるなら、もちろんお願いしたい)

 素直に助力を請うと、もう一人の俺は待ってましたというように再び口を開いた。

『よし、わかった。その代わり』

(その代わり?)

 あ、そう言えば取引と言っていたっけ。何を言う気かと身構える。


『このさき、再生の技を手に入れたら俺にも伝授しろ』

 しかし、続いた言葉は思ったよりも重くなかった。

(再生の技を? 伝授するも何も、俺が手に入れたらお前も使えるんじゃないのか?)

『・・・・・・向き不向きというのがあるらしい。でも俺はそんなことを言われてあきらめる気はないんだよ』

 どうやら彼は誰かに再生の力を持つに向かないと言われたようだ。

 また少し機嫌を落とした彼の声がふてくされる。

 こうしてみると、彼は思ったよりも分かりやすい、子供っぽい性格みたいだ。


(わかった、じゃあ再生の技を手に入れたら教えるよ)

 俺と同じように彼も再生師を目差しているらしいことが分かり、何となく親近感を覚えてしまう。一つの体の中で、おかしな話ではあるけれど。


 俺がそうして要請に応えると、もう一人の俺の声音が軽くなった。

『取引成立だな。これで少しお前との同調の回路が太くなっただろう。多分今後は軽い同調でも、こうして短い会話くらいはできると思う。・・・・・・さて、そろそろ戻るぞ。ここに長くいた理由として、俺のことを説明するのも面倒だろう?』

 確かにそうだ。俺の中に別人格があるなんて、わざわざ話したい内容ではないし。


(そうだな、戻ろうか。夕食の支度もまだだし・・・・・・)

 俺も同意をすると、

『じゃあな。俺との約束忘れるなよ』

 それだけ告げて、返事は待たずに彼はあっさりと俺の意識から消えていった。


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