モネの凶事
「そもそも、サーヴァレットって、一体何なんだ? サージを操ってるって、アイテムに意思があるってこと?」
「あれについての説明は難しいな・・・・・・。ただサーヴァレットは古代のアイテムの中でも特に重要且つ危険なもの。だからこそ人手に渡らないようにウェルラント様がミシガルに回収してたんだ」
「あれで刺されると、どうして消えるです? 消えたニンゲンはどうなったですか?」
隣からスバルが訊ねる。それにカムイが眉を顰めた。
「それも答えるのが難しい。この世界の成り立ちから説明しないといけなくなるから。今言えることは、刺された人間はサーヴァレットに魂も肉体もまるごとエネルギーとして取り込まれてしまうということだ。・・・・・・そして、あの剣はまだまだそのエネルギーを欲している」
彼の言葉に、はたと俺はモネの封鎖に剣が関わっていると言った、カムイの意図に気が付いてしまった。
「・・・・・・もしかしてカムイは、サージがモネを封鎖して、街中の人たちを閉じ込めた上で剣に取り込んでると・・・・・・?」
「まあもちろん、僕の推測の域を出ないけど。でもありえない話ではないと思う。それに個人ではそんな大がかりなことは出来ないだろうから、教会も事態を把握した上で、剣を持つ彼に荷担している可能性がある」
「教会があんな凶行に荷担を!? いくら何でもそれは・・・・・・」
「・・・・・・君はここまで旅をして見聞きして、グランルーク教団が国民のための宗教だと思うかい?」
「えっ」
訊ねられた内容に、俺は目を丸くした。
普通に暮らしているときは、躊躇いなく頷けただろう。しかし今は私利私欲に走った人間ばかり見てきて、容易くは首肯できない。
けれど今までの常識はすぐには覆らず、きっと悪いのは一部の人間だけで、民のために神に祈る神官もいるはずだとどこかで思っていた。
なのに。
「教団が、国民のための宗教じゃない・・・・・・?」
「この答えは君がこれから実際に自分の目で知ることになるだろう。・・・・・・とりあえず、あまり悠長にはしていられないようだ。もし僕の推論が合っていたら、次に狙われるのはミシガルになる」
「そんな・・・・・・。モネのみんなは、本当にサージに・・・・・・。俺が不甲斐ないせいで・・・・・・」
あのとき、どうにかサージを倒せていたらこんなことにはならなかったのに。自分たちばかりが逃げ果せたなんて。
自身の非力に酷く嫌悪する。
『俺なら壊せる』と言った俺の中の誰かに、力を借りることが出来ていたら。
「・・・・・・ええと、ターロイはあのとき十分頑張ってた、ですよ」
スバルが慰めてくれるが、とてもそうは思えない。平和主義なんて言っていたけれど、俺は結局ただの腰抜けなのだ。
もしも。
この先力を得るために、もう一人の俺にこの体を預けることができるのなら。そのときは喜んでこの体を明け渡すのに。
『よく言った』
「え?」
不意に俺の中の誰かの声がした。
それに驚いて声を上げると、カムイとスバルが不思議そうな顔で俺を見る。
「どうしたですか、ターロイ」
「え、えーと」
『俺と交渉しようじゃないか。とりあえずこの場から一旦離れな。二人には気付かれないようにな』
今までこんな状況のときに彼が出てきたことなんてなかったのに、一体何が起こったのか。
しかし、驚きつつもその言葉に従う。実際、今の俺は彼と交渉したかったのだ。
「何かあった?」
表情を変えた俺にカムイが首を傾げたが、
「いや、ごめん、何でもない」
慌てて首を振ると、俺は焚き火の前で立ち上がった。
「悪い、ちょっと離れるよ、暗いところで考え事したいから・・・・・・」
「考え事? そう、わかった、・・・・・・あんまり離れては駄目だよ」
「うん、大丈夫」
少し怪訝な顔をされたけれど、特に不審がられてはいないようだ。俺はそれほど離れていない位置にある木の陰に入って、一つ息を吐いた。
『声は出さなくていい。俺には聞こえるからな』
俺の中の誰かは語り口も今までと違う。どういうことだろう。
(・・・・・・お前は一体、何者なんだ?)
しかしまず口をついて出たのは、ずっと聞きたかった疑問。
それを訊ねた俺に、彼は少し不愉快そうな声音で言った。
『俺はターロイに決まってるだろう。本物の、な』




