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古地図

「・・・・・・そこまで進んでしまっているとは思わなかった。能力の覚醒が早すぎるとは思っていたけど・・・・・・。そうなると、確かにターロイに血を見せるわけにはいかないかな」

 カムイがそう独りごちて、腕を組む。

 表情はフードで見えないが、また何かを思案しているようだ。


「仕方ない、予定を変更しよう。ただ、モネを経由せずにミシガルに行くには、山を迂回して北西にある工業の街ガントを抜け、そこから王都を目差すしかない。・・・・・・距離があるからモネ経由で行くよりも大分日数がかかるけど、そこは妥協するしかないかな。とりあえずここで食料と野営物資を調達していこう」

 即座に決定した彼は、下げていた鞄の中から折りたたまれた地図を取り出した。


「王国の地図?」

「そう。さっき買い物に行ったときに古道具屋でみつけたんだ。この大きな山の北にあるのが王都。そこから山を迂回して東南に進むとミシガル。このインザークは王都と正反対、山の南に位置している」

「うわっ・・・・・・逆回りだとこの山を半周とさらに半分も行かなくちゃならないのか」

「随分間怠っこしいですね。この山、越えられないのですか?」

 隣からスバルが訊ねる。それにカムイは肩を竦めた。


「どうかな・・・・・・。僕は長いこと外に出ることがなかった。だから今の世界のことを知識としては知っているけど、書物にない知識は持ってないんだ。自分で歩き回る旅人なら山を越える方法を知っているかもね」

「旅人・・・・・・あ、そうだ! トウゲンさんたちなら!」

 はたと、商人二人と別れる前に見せられた地図のことを思い出す。

 確かあれには各街に繋がる隠し道路が書かれていると言っていた。彼らに聞けば山を越える道を教えてもらえるかもしれない。


「トウゲン?」

「ウェルラントに頼まれて、インザークに来るまで俺たちに同行してくれた商人なんだ。しばらく近くの砦にいるって言ってた。彼らなら道を知ってるよ」

 そう告げるとカムイが僅かに動揺した。

「商人が砦って・・・・・・、いや、ウェルラント様に頼まれたというなら、王宮所属の人間か・・・・・・。だとしたら・・・・・・」


「カムイどうかしたです? 何か問題でも?」

 彼の様子を訝しんでスバルが訊ねる。しかしカムイはすぐに感情を隠して、小さく首を振った。

「・・・・・・ごめん、何でもない。そうだな、じゃあ砦に行こうか。砦がどの辺にあるのか二人は知ってるの?」

「ええと、確かこの辺り」

 トウゲンが示した場所を思い出しながら地図を指差す。ざっくりとだが位置的には山を少し上った高台になるようだ。

「正確な場所は近くに行けばスバルの鼻と耳でわかるですよ」

「そうだな、頼りにしてるよスバル」

 素直にスバルに頼ると、彼女はうむと請け合った。


「・・・・・・ところで、この地図は君が持っていたほうがいいよ、ターロイ。少し古いようだけど、それほど変動はないはずだ。これに道や建物を書き込んで、自分用に作り込んでいくといい」

「ああ、ありがとう」

 気が利く男だなあと感心しつつ、カムイが差し出した地図を受け取る。

 それは地形や街の図だけが書き込まれていて、街や土地の名称が全く書かれていなかった。手始めに、そこにさっき彼に示された通り、王都とミシガルとガント、インザークを書き込む。

 当然モネも分かるから記入した。・・・・・・が、そこまで書き込んで、名称の分からない場所が二カ所見つかる。


 おかしいな、王国の街は確かこの五つしかなかったはず。

 インザークとモネの南に位置する小さな集落と、その東で且つミシガルの南に位置する大きな土地の集落。ここは一体なんだろう。

「何か、俺の知らない場所があるんだけど・・・・・・」

 彼はこれを知っているのだろうか。その上で俺にこの地図をよこしたのだろうか。

 ちらりとカムイを見ると、フードを被ったままで表情の見えなかった彼が、わざわざフードを少し上げて俺と目を合わせた。


「・・・・・・そのモネの南にあるのが、慈善の村ヤライだ」


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