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トルクとの別離

「トルク、お待たせですよ! 一番大きいの買ってきたですから、後はあの男のこと、頼むです」

 スバルとカムイがエールの入った瓶を抱えて戻ってくると、それとテオ宛ての荷物を一緒にトルクに手渡した。


「ああ~エールの大瓶! 嬉しい、奮発してくれたわねえ、ありがとう~。荷物はちゃんとテオに渡しておくから」

 酒を見た彼女の様子はすっかり戻っている。

 頭上にハートを飛ばしたトルクはエールの酒瓶に頬ずりすると、そのまま蓋を開けてぐび、と一口呷った。


「ふう~生き返るう! 燃料がないとほんとやってらんないわ!」

「えっ?」

 途端に口調が変わった彼女に、スバルの後ろにいたカムイが驚いたように声を上げた。

「トルクは酒が入ると人が変わるですよ」

「酒が入ると・・・・・・」

 スバルの説明を聞いた彼が、何事かを思案する様子を見せる。そしてそのまま沈黙してしまった。


 しかしトルクはこちらを気にせずに、もう二口くらいこの道ばたで酒瓶に口を付ける。それからようやく満足げにそれを片付けた。

「ああ至福・・・・・・。じゃあ、そろそろテオんとこに行ってくるわ。君たちとはここでお別れかな。・・・・・・多分、また会うだろうけど」

 そう言って、彼女がちらとカムイを見る。その意図するところに気付かずに、俺は言葉を返した。

「まあ、お互い旅をしてれば会うかも。いろいろありがとう、トルクさん」


「ありがとうはこっちもだよ。危ないところを助けてもらって、エールももらっちゃったしね」

「スバルも礼を言うです。服はもとより、あの男を引き受けてくれてありがとです」

「ははは、うん、じゃあまたね」

 手を上げて挨拶をすると、彼女は振り返りもせずあっさりと去ってしまった。




「・・・・・・彼女は何者だい?」

 トルクが通りの向こうに消えてしまったところで、不意にカムイが俺に尋ねた。

「何者って言われても・・・・・・知り合いの商人の娘さんだよ。たまたまインザークで会ったんだ。武闘家で、旅をしてるらしい」

「武闘家? その職業は普通、王宮の・・・・・・」

「あ、そうそう、昔は王宮にいたっぽいこと言ってた。見習い期間がグレイと同期って言ってたから、ウェルラントとも同年代かも」


「グレイと同期・・・・・・ということは、八年前にヤライに同行していた人間か・・・・・・!」

 ヤライって、さっきトルクも言っていた村のことか。一体その村で何があったというんだろう。

「カムイ、そのヤライって、どこにある村?」

 率直に訊ねる。

 すると彼は一瞬黙り込んで、しかし一つ息を吐いた後に、躊躇いがちに口を開いた。


「・・・・・・慈善の村ヤライはもうない。ある事件で村ごと壊滅してしまったから」

「壊滅?」

「そのうち必要があれば説明するよ。今は急ごう。・・・・・・思いの外、導きが早い。このままでは間に合わなくなってしまう」

 カムイは独り言のように呟いて、インザークの外門に向かって足早に歩き出した。

 俺とスバルも慌ててその後を追う。


「ところでこの後どこに向かうですか?」

「とりあえずミシガルに行くんだけど・・・・・・モネが封鎖されてるらしいんだよ。あそこは街中を通らないとミシガル側に抜けられないから、どうしようかな・・・・・・」

 モネの封鎖はおそらくサージ絡みだろう。あの男が妙なことを企んでなければいいが。


「少し無茶をすることになるが、僕の血で魂方陣を作ってミシガルまで転送しよう。その程度の出血なら死にはしないと思う」

 俺の懸念に、前を歩くカムイがさらりと言ってのけた。

「ちょ、駄目だよそんなの!」

 俺が血に弱い以前に、彼ばかりにそんな負担を掛けられない。


「乾いてしまった血なら、ターロイも平気だろう。僕のことは気にしないで・・・・・・」

「カムイ、それは駄目です! 絶対駄目! ターロイにこれ以上血を見せたら・・・・・・!」

「スバル?」

 彼の言葉に、何故か俺よりもスバルの方が食ってかかった。

 それに気付いたカムイが、訝しむように彼女を振り返る。


「スバル、君は・・・・・・もしかして、彼に会ったのか?」

 問われたスバルが驚いたように目を瞬いて、一度俺を見て、それから再び彼を見た。

「・・・・・・カムイも、あいつを知っているですか?」

「え? 何? 誰のこと?」

 二人のやりとりが俺にはさっぱり分からない。

 向き合ったまま無言になってしまった二人の横で、俺はわけも分からず立ち尽くすしかなかった。

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