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心強い同行者

「魔王アカツキの祠を開ける!?」

 驚いて返した言葉にグレイが頷いた。

「まだ古文書も全部解読できたわけではないのですが、そこが旅の起点となっているのは間違いありません。魔王の祠は今まで手つかずの未知の領域・・・・・・いやあ、何があるのかワクワクしますね」

 言葉通り、彼はやたら楽しそうな笑顔を浮かべている。


「ワクワクじゃないですよ! ウェルラントといい、グレイといい、よく魔王が封印された祠を簡単に解放しろなんて言いますね」

「・・・・・・ほう? あの男も?」

 不意にグレイが笑みを消して、視線をカムイに向けた。それを受けた青年は、黙ったまま少し煩わしそうに眉根を寄せる。


「なるほど、なるほど。それは尚更中にあるものが気になりますね」

 再び口端を上げた彼は、俺に目線を戻した。


「私が調べた伝承によれば、アカツキはあそこに封じられた際にまだ生きていたらしいです。さて現在はどうなっているのか・・・・・・楽しみですねえ。まあとにかく、再生師の力を発現する何かがあるはずですから、多分アイテムか文書が一緒に封じられているんでしょう」

「・・・・・・開けてみて、もしもそのアカツキが生きてたらどうするんですか? 全人類の八割を葬った魔王ですよ?」

 アイテム云々の前にそっちが重要だ。俺が訊ねると、さして気にもしない様子でグレイは軽く答えた。


「肩書きが魔王とはいえ、結局は獣人です。基本人間にちょっと毛が生えた程度の寿命しか持っていないはず。十中八九ミイラになってますし、万が一生きているとしたら、延命のために魂と肉体の情報をどこかに格納されて動けないはずですよ」

 また何か小難しいことを言っている。

「その魂の肉体の情報がどうとかっていうの、俺には意味がよくわからないんですけど・・・・・・。えーと、とりあえず開けてもすぐに大事になったりはしないということですか?」

「まあ、その理解で結構です」

 それなら少しは安心、かも、だけど。


「・・・・・・ところで、祠ってどうやって開くんですか? 俺一度そこの扉の前まで行ったけど、開かなかったし」

「さて、それに関して詳しい記述はなかったですね。ただ、君の持つ破壊の力が関係して開くことは確かです。おそらく能力の覚醒具合によるかと。基本の三段階の能力を手に入れている今なら開くんじゃないですか?」

「ほんとかなあ・・・・・・」

 グレイの楽観的な言いぐさに疑いの目を向ける。魔王の祠なんてそれこそ厳重に閉じなくてはいけなそうなものを、そんな簡単に開けることができるだろうか。


「開かなかったら適当にいろいろ試してみて下さい。必要とするアイテムなどはないはずですから。そして開けることが出来たら、発見したお宝を持って戻ってきて下さいね。また次の目的地を教えますよ」

「・・・・・・グレイって結局祠のアイテムが欲しいだけ?」

「そうですよ。それが次の情報の対価になりますから、むしろ都合がいいじゃないですか」

 しれっと言う彼は全く悪びれない。もしかするとグレイは研究のためなら、魔王の驚異や人類の危機さえどうでもいいのかもしれない。


「・・・・・・ターロイだけであそこを開けるのは難しいよ」

 そんなグレイに呆れていると、隣でずっと黙っていたカムイが口を開いた。

「やっぱりそうだよなあ」

 彼の言葉にため息と共に同意をする。

「だから、僕もついていくよ」

 しかし、予想外の次の科白に驚いた。向かいにいたグレイもだ。


「え、いいのか!?」

「ちょっと、お待ちなさい、カムイ。私との取引がまだ・・・・・・」

「取引は今の腕輪の設定書き換えで最後。御破算になったはずだよ。もう閉じ込められる理由はない。僕だってまだやらなくてはならないことがあるんだ」

 そう言われて一度ぱちりと瞬きをしたグレイが、大きくため息を吐く。

「・・・・・・ああ、うっかりしました。もう少し取引材料を用意しておくんだった」

 あれ、思いの外あっさりとあきらめた。不本意そうではあるけれど。

 どうやらグレイはこういう取引には随分と誠実なようだ。


「しかしカムイ、ミシガルに戻るとなるとあの男にまた閉じ込められるかもしれませんよ」

 それでも少し、出て行こうとする彼に揺さぶりをかける。それにカムイが眉を曇らせたけれど。

「・・・・・・もう結界もない。僕を閉じ込めても無駄だってあの人も分かってる。大丈夫だ」

 きっぱりとかぶりを振って、青年は俺を見た。


「僕は君が再生師になるために、いくらか手助けができると思う。忌み子が一緒ではいい気分はしないだろうけど、同行していいかな」

「いい気分はしないなんてとんでもない! カムイがついてきてくれるなら心強いよ! こちらこそよろしく!」

 俺としては諸手を挙げて歓迎したい。その強さと性格の良さはすでに知っているし、古代の知識だって持っているようだ。

 スバルだってきっと喜ぶだろう。


 そうして思わぬ助力を手に入れて、嬉々として早いとこ街に戻ろうと意気込んだところで。

 カムイを連れ出されることに機嫌を損ねているグレイに、がしりと肩を掴まれた。


「・・・・・・ターロイ、忘れては困ります。カムイは完済してますが、君には対価を払っていってもらわないと」

「あ」

 ・・・・・・本当に彼は、取引に堅実だ。


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