今度こそ再生師への道
王都での見習い時代、と言うことは、ウェルラントとグレイは同期ということか。トルクが当時の王宮と教団の見習いは一緒に教育を受けていたと言っていたし、やたらに二人の仲が悪そうなのは、何かその頃の確執があるのかもしれない。
「ウェルラントがカムイを閉じ込める理由って?」
「ふふ、その情報が欲しいとなると、また別の対価が必要になりますけど」
「・・・・・・設定終わったよ。ターロイ、そんな無駄な取引には乗らなくていい」
カムイが俺たちの間に入ってきて、腕輪をグレイに押しつける。それと同時に、ぐいとその体を俺から離すように押しやった。
「彼の知的好奇心に応えようとしただけですよ」
「そんなことを言って、ターロイにとって何の役にも立たない情報で対価を取ろうなんて、僕は許さないからね。それよりも再生師の情報をあげて。こっちの対価はまず情報を聞いた後」
カムイにしっしっと手で払われて、グレイはやれやれといった様子で苦笑する。
「まあいいでしょう。これ以上カムイの不興を買うのも本意ではありませんし」
そう言って彼は近くの椅子に腰掛けた。
「王都での勉強は中途半端で終わってしまいましたが、それでも君の中にある基本的な歴史知識の訂正はしたつもりです。それを踏まえた上で、本当の再生師になるための方法をかいつまんで教えましょう」
「は、はい! お願いします!」
ようやくたどり着いた本題に、かしこまってお辞儀をする。
「再生師に必要なのはご存じの通り、破壊と再生。破壊はまあ、君はその力があるはずですからね。確認ですが、ターロイは今どの段階ですか?」
「段階?」
「君の破壊の基本の力には全壊、部位破壊、指定破壊の三つの段階があるんだよ。全壊はわかるよね。部位破壊は全体でなく一つのまとまりだけを破壊すること、指定破壊は形状に影響されず、自分の望んだ状態に破壊することを言うんだ」
訊ねた俺に、横にいたカムイが補足をした。
え、何でこの力のことで、当の俺が分からないそんな細かいこと知ってるんだ?
「・・・・・・待って、二人は俺のこの力の正体、知ってるのか!?」
「もちろん。・・・・・・と言いたいところですが、ざっくりと理解しているだけで私はそれほど詳しくは知りません。それでも、君に助言を出来るだけの知識はありますよ。・・・・・・で、改めてターロイはどの段階まで破壊ができるのですか?」
俺の力についてあまり語る気がないのだろう、カムイは口を開かず、グレイは俺の問いを緩く受け流して次を促した。
グレイはともかくカムイも答えてくれないなんて、もしかして何か俺の力の正体に問題があるのだろうか。
「・・・・・・全壊も部位破壊も指定破壊も、多分できると思うけど。この間それらしいこと出来たし」
「ほう、それは素晴らしい!」
「え、全部!? どうしてもうそんな・・・・・・! 早すぎる!」
とりあえずグレイに答えると、二人が全く違った反応を示した。
「君は優秀ですよ、ターロイ。再生師の破壊には現時点でその三つが不可欠です。再生の力はその上に宿りますからね。今後、相反する力を手に入れるためには、旅に出て古代の叡智に触れなければなりません」
「古代の叡智に触れるって・・・・・・修行しに行くとかじゃないんですか?」
グレイがなんだか胡散臭いことを言い出した。しかしその表情はからかっているわけではないようだ。
「待って、そこに行くのはまだ早い。封印の解除にはもっと時間を掛ける予定だったのに・・・・・・」
「無駄ですよ、カムイ。おそらく彼はほぼ目覚めている」
何の話かよく分からないが、グレイの言葉にカムイが押し黙った。
それを確認して、彼が再び口を開く。
「再生師になるにはいくつかのプロセスが必要です。再生の力を得るにも順番があり、途中を省くことはできない。もちろん途中でやめてもそれなりに再生師として働けますが・・・・・・君が望む魂濁の治療ができるだけの力を得られるのは、かなり終盤になると思われます」
グレイの説明は至極まじめなものだった。再生師への道がそんなふうにきちんと確立されているとは知らなかった。
「そうなんだ。・・・・・・でも再生師になる方法が分かってるのに、どうして今までちゃんとした再生師になる人がいなかったんだろう」
「このことが記された古文書はずっと教団に保管されていて、私が来るまで誰も解読できていませんでしたからね。それに、そもそも再生師は誰でもなれるわけじゃないので。実験の・・・・・・」
「・・・・・・グレイ、余計なことは言わないでって言っただろう」
「ああ、はいはい、失礼しました」
グレイが何かを言いかけて、しかしカムイに睨まれて肩を竦める。
それから一つ咳払いをすると、また話を戻した。
「ま、とりあえずです。再生師を目差すならまずは一つ目の叡智に触れに、ミシガルへ行って下さい」
「ミシガルへ?」
あそこにある、古代の叡智に触れるところとは?
俺の問いに、グレイはあっさりと答えた。
「黒の魔王、アカツキの祠を開けるんです」




