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真理の言葉

「ところでターロイ、教団に追われている君がわざわざ敵陣の中に来たということは、私に重要な用事があるんでしょう?」

 カムイの視線など気にせずに、グレイはまた話を変えた。

「ああ、うん、本物の再生師になるために何をすればいいのか教えてもらおうと思って・・・・・・あ、その前に、テオがこれをグレイの増強剤と替えてくれって言ってたんだった」

「おや、マンドレイクじゃないですか!」

 鞄の中から取りだした植物を見たグレイのテンションが上がる。差し出したそれを手に取ると、重みを確認し、しげしげと眺めた。


「ふむ、やはりテオの栽培したものは密度が違う。増強剤と交換と言っていましたね。成長促進剤と金貨もおまけで付けておきましょう」

「わ、太っ腹ですね」

 棚から取り出した薬品と金貨を布の袋に入れて、俺に渡す。

「太っ腹ではなく、金の使い方を心得ているだけです。手厚い報酬を渡せば、相手は次に来るときに私に一番出来のいい物を持ってくる。それを使って研究し薬品を調合すれば、質のいい物ができる。そうすれば私の薬の評判は上がり、売れた金でまた出来のいい材料を高く買って、質の高い研究ができる。つまりは投資というのが正解ですね」

 なるほど、言われてみれば合理的かもしれない。


「逆に、私の研究の足しにならないものには、何か他のメリットがなければ僅かな金も払いませんし、手も貸しませんけど。・・・・・・さて、ターロイは再生師の情報が欲しいと言いましたね?」

「・・・・・・ターロイ、グレイに何か情報を求めるなら、対価が必要になるよ。やめておいた方がいい」

 カムイが眉を顰めて忠告する。

 そういえば、王都にいたときも対価としてグレイに血を採られたっけ。


「また対価が俺の血でいいなら、それでお願いしたいけど」

「またって・・・・・・すでにグレイに血液を提供したの!?」

「カムイ、これは私とターロイの取引ですから、横から口を出さないでもらえますかねえ」

 慌てたカムイを軽くいなして、彼はにこりと微笑んだ。


「今度も血液で大丈夫ですよ。すでに前回採血した分はほとんど使ってしまったので」

「・・・・・・ほとんど使ったって、俺の血を? 一体何に・・・・・・」

「それは企業秘密です」

 俺の問いを流して、実験道具の中から見覚えのある腕輪を取り出す。皮膚を傷つけずに採血できる、例の古代のアイテムだ。

 それを何故か、俺ではなくカムイに手渡した。


「・・・・・・それ、俺が着けるんじゃないのか?」

「もちろん君です。ただ、このままの設定だと一度に採血できる量が少ないので、時間がかかるんですよ。とりあえず彼に一度に試験管二本分くらいの血を採れる設定に変えてもらおうと思って」

 グレイの言葉を聞いたカムイがあからさまに嫌そうな顔をする。

 しかしそれを面白そうに眺めたグレイは、殊更ゆっくりと言い含めるように彼に語りかけた。


「断るわけないですよね? 分かっていると思いますが、君も対価を払わなければならない身ですよ?」

「・・・・・・あなたって人は・・・・・・」

 カムイが何かを返そうとして、けれど言葉の途中であきらめたようにため息を吐いた。

 腕輪に視線を移し、自身の手をかざす。

「・・・・・・ロ・シッティウ」

 そして彼が俺に分からない言葉を呟くと、その表面に文字らしきものが浮かび上がった。


「今の言葉って・・・・・・」

 マルロやスバルがエンチャントの古代武器を使ったときの、言葉の感覚と似ている。魂の力と関係する言葉なのだろうか。

「これは真語句というものです。世界の理を綴る真理の言葉、と私は理解しています。私も使いたいのですが、残念ながらこれを自在に使えるのは彼しかいないのでね」

 グレイの視線の先で、カムイが目を閉じた。

 そしておもむろに、その額の目が開かれる。


 ぱちりと開いた彼の三つ目の瞳は、赤ではなく金色をしていた。

 その瞳が腕輪の文字の並びを眺め、それを指先でゆっくりとだが、確実に一つずつ書き換えていく。完全に言語を理解しているのだ。


「ウェルラントがずっとカムイを閉じ込めていたのって、もしかしてこの能力のせいなのか・・・・・・?」

「私がここに彼を止めているのはそのせいですが、あの男はまた別の理由です」

 独りごちた俺に、グレイが返す。

「別の理由? グレイは知ってるのか?」

「まあ、あの男とは王都での見習い時代からいろいろありましてね」

 彼はカムイを見つめたまま、肩を竦めた。

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