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ここからは別行動

「ううう、怖かったです・・・・・・」

 ようやくテオの家を後にして、スバルはぐったりと脱力した。

「あいつがこういう少女好きとは、今まで知らなかったよ。何というか、災難だったな」

 隣でトルクが苦笑する。


「でもスバルのおかげで正面からグレイに会いに行くことが出来るよ。ありがとう」

「・・・・・・まあ、スバルが恐ろしい思いをしたのが無駄にならなかったのは、不幸中の幸いですよ・・・・・・」

 礼を言った俺に、スバルは乾いた笑みを浮かべた。余程精神的にダメージを食らったと見える。


「と、とりあえず気分転換にさ、スバルの新しい服を買いに行こうか。それからどこかでお茶でも飲んで、一息つこう」

 取りなすように言うと、トルクが横から口を出した。

「インザークの古着屋に女の子が着るような服は置いてないよ。それより良かったら、あたしの服もらってくれない? 父さんがいつも勝手に買って会うたびによこすんだけど、着ないから邪魔なんだよね」


「トウゲンさんの買った服って・・・・・・ひらひらフリフリのリボン付きでは・・・・・・」

 ミシガルでのトウゲンの嬉々とした服選びの光景を思い出して訊ねる。それに彼女はまた苦笑して肩を竦めた。

「父さんの服の趣味知ってるんだ? 心配しなくても大丈夫、あたしが嫌がるの知ってるから、そこまでフリフリなのはないよ。すぐそこの宿屋に旅の荷物置いてあるから、おいでよ、スバル」

「・・・・・・なら、お言葉に甘えるです。マントに頼っていると動きが制限されるですし、ちらっと見えたときが何だか異様に恥ずかしいですので」

「ターロイは悪いけど遠慮してよね。どこかで待ってて」


「あ、それじゃあ、二人が宿屋に行っている間に、俺は一人で教会に行ってみるよ」

 思いも掛けずスバルと別行動をすることになった。けれど、ちょうどいいかもしれない。これ以上彼女を研究者の前に置いて、心労を強いるのも酷だろう。

「グレイには問題なく会えそうだし、スバルをあの人の前に連れて行くのも心配だし。用事が終わったらまたここに戻ってくるから」

「ターロイ、一人で大丈夫です? 指名手配されてるですのに」

 心配そうにこちらを見つめるスバルに苦笑する。


「どうせここには俺の顔を知ってる人間はいないよ。身分を証明する手形は別名になってるし、平気だ。まあ、何かあったらホーチ木の実でスバルを呼ぶよ」

「何、ターロイは教団に手配されてるの? それは災難ね。でも基本、やばそうだったら少し金を握らせれば、守門や僧兵はどうにでもなるからね。あ、何より『グレイの知り合い』って言えばだいたいみんな黙るから。気をつけて行ってきな」

 スバルとは対照的に、トルクは何の緊張感もなくそう言った。

 全く、あの人の名前にはどれだけの威力があるのだ。確かに王都でも、教団の人間はグレイに逆らえないようだったが・・・・・・。


「グレイって、どこでも恐れられてるんですね・・・・・・」

「そりゃそうよ。あいつ、見習いの頃から図抜けて頭が良くてさ、様々な研究成果はもとより、体の作りを完璧に理解した上での人体破壊術が容赦なくて。さらには上層部のあらゆる人間の弱みを握っているから、誰も逆らえないのよ」

 グレイを語るトルクは少しうんざりした様子だ。

「見習いの頃からって・・・・・・トルクさんは教団員でもないのに、グレイとその頃から直接の知り合いなんですか?」

 訊ねた言葉に彼女は少し目を泳がせて頭を掻いた。


「ああ、まあ同期っていうか・・・・・・。まだ先代の王が生きているときは、教団と王宮の見習いが一緒に教育を受けていたから」

「え!? トルクさんって、王宮の関係者?」

 思わず目を丸くする。けれど、考えてみればトウゲンも前国王の時代に王宮に仕えていたと言うし、本来は俺なんかよりずっと階級が上の人たちに違いなかった。

「いや、あたしは・・・・・・、今はただの旅人だよ。・・・・・・とにかく、下手なことをしない限りあいつには会えるだろうから、気だけ引き締めて行ってきな」

 なんとなく言葉を濁した? そのまま話は切り上げられる。


「そうですね。とりあえず、行ってきます」

 しかし、トルクの現在の境遇も気になるが、急ぐ話ではない。彼女の言葉に素直に頷いて、俺は教会に向かうことにした。

 グレイに会うことの方が急を要するのだ。

「じゃあスバル、後でな」


「スバルも着替えが終わったら急いで教会に行くです。何かあったらすぐ呼ぶですよ?」

 去り際に声を掛けた俺の背中に向かって、過保護な科白を吐くスバル。

「わかったよ。スバルこそ、またテオみたいな人に捕まるなよ」

 肩越しに振り向くと、さっきのことを思い出したのか嫌そうに顔をしかめた彼女に、つい苦笑した。


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