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スバルの危機!?

 ここまでの礼を言って商人たちと別れ、俺はスバルと二人でインザークの街をうろうろとしていた。

 手っ取り早く誰かにグレイの研究所の場所を聞いて、彼に会いに行きたいのだけれど、住人と話すな目を合わせるなと言われては、正直どうすりゃいいのか分からない。

 スバルがグレイに会ったことがあるのなら、匂いで追ってもらうことも出来たかもしれないのだが。


「うう・・・・・・ここの住人、みんなして薬品臭くて、気持ち悪いです・・・・・・」

 店を出てからのスバルは少しグロッキー気味だ。

「トウゲンさんたちも場所知らないって言うし、研究所見つけるまで耐えてくれ。教団の施設扱いらしいから、教会近くだと思うんだけど・・・・・・」

 教会はどの街でも大体一番背が高い。その屋根を目指して目立たぬように道の端っこを歩く。


「その研究所とやらが教会の奥にあったらどうするです? 忍び込むですか?」

「うーん、どうしようかな・・・・・・俺の顔が教団員にどこまで知られてるのかも分かんないし、偽名を使ってると言っても堂々と訪ねるわけには行かないだろうな」

「うっぷ、・・・・・・この街から速攻で出るためになら、スバルは多少の無理は厭わないですよ」

 ああ、何かめっちゃ顔色悪い。


「・・・・・・少し風上に行こうか?」

「うむ、その方がいいかも、です。ちょっと鼻をリセットしないと、スバルの鼻の中で科学合成が起こりそうです・・・・・・」

 その比喩に苦笑して、俺たちは道を変えて風の流れをさかのぼることにした。


 中央の通りから外れると、見たことのない薬草や植物が栽培される畑や、新旧の金属くずが堆積した山がある。確かにこの街は全体的に普通じゃないようだ。それらが厳重に柵で守られている。

 そしてそこには『触るな、危険!』の看板がくっついていた。


「・・・・・・毒草かな、これ」

「食べられない草だっていうのは分かるです。ぴりぴりしたやばい臭いがしてるですから」

 ようやく鼻の利きが戻ってきたらしい。スバルが鼻をすんすんと鳴らす。

「野生のものもそうですが、軽々しく触らないほうがいいですよ、ターロイ。触れた部分がただれたり、激痛が走ったりと危ない物も多いのです。普通は街中からは排除されるものですが、わざわざ栽培するとか・・・・・・この街は頭おかしいです」

「まあ、研究のためなんだろうなあ」

 科学や研究なんて俺には全く分からない世界だ。


 さらに歩くと街を囲う塀の端にたどり着いて、俺とスバルは一旦そこに荷物を下ろし、草の上に腰を下ろして今後の対策を練ることにした。

「さて、教会に行くとして、どうやって施設を探ろうかな・・・・・・。トウゲンさんたちが知らないってことは、絶対普通に入れるところじゃないんだろうし」

「スバルが探ってきてもいいですよ。見つかったらそいつを伸しちゃえばいいですし」

 相変わらずスバルは行動することに躊躇いがない。


「あんまり事を荒立てると、警備が厳しくなるだろ。バレずに忍び込むか、もしくはグレイが出てきてくれると一番簡単なんだけどなあ」

「その、グレイという男は知らんですが、ウェルラントの話だとカムイもいるかもしれないのですよね? カムイがいるならスバルが匂いを追って、最短距離で忍び込めるかもですが」

「あ、そうか! カムイが・・・・・・」


 そう言えばカムイはサーヴァレットを取り返しに行ったはずだった。その剣は未だにサージの手元にある、と言うことは、あきらめてグレイのところに行ったということだろうか?

 ウェルラントはカムイがグレイと会うことをひどく嫌がっていたようだけれど、そもそもグレイはカムイの血を持っていたし、二人は一体どういう関係なのだろう。


 少しの間思考を巡らせていると、ふとスバルが顔を上げて、ぴくぴくと耳を動かした。

「どうした?」

「ニンゲンの声がするです。なんかくぐもって・・・・・・あ、助けを求めてるっぽいですよ」

 きょろきょろと辺りを見回した彼女が、すっくと立ち上がる。

「近いのか?」

「たぶん。どうやら若い女の声ですね、あっちの方からするです」

 俺も立ち上がって指差された方向を見ると、明らかに怪しい温室が立っていた。入り口らしきところに何か立て看板が刺さっている。


「うわっ・・・・・・どう見ても入っちゃ駄目な感じのやつだ。・・・・・・スバル、あそこの中から声がするのか?」

「このくぐもってはっきりしない声は、おそらく分厚い遮蔽物があるからですよ。だからここで間違いないと思うです」

「マジか・・・・・・」

 気は進まないが、誰かが危険な目に遭っているなら見過ごすわけにはいかない。俺は荷物を背負い直すと、恐る恐る入り口の立て看板に近付いた。


『植物学研究施設につき、関係者以外立ち入り禁止』

 綺麗な文字で書いてあるその文言の隅っこに、無骨で下手くそな赤い太文字で『入ったら死ぬぞ』と書いてある。


「はあああ、入りたくないっ・・・・・・! でもこの入り口が微妙に開いたままになってるし、絶対誰かが入って勝手にピンチになってるんだよなあ・・・・・・」

「ターロイが入りたくないなら、スバルが一人で行ってくるですよ。どうやら木と草しかなさそうですし、スバルなら毒草とかは臭いで触っちゃいけないのが分かりますし」

「え、ちょっとスバル!」

 俺が尻込みしていると、あっさりとそう告げたスバルが何の気負いもなくさっさと温室に入っていってしまった。大丈夫だろうか。嫌な予感しかしないんだけど。


 はらはらとしながら外で待っていると、

「ひゃわ!? 何じゃこれ!? ちょ、待つです、スバルにも乙女の恥じらいというものが! ぬ、脱がすなですう~!」

 ほとんど時間を置かずに、明らかにアレな感じのスバルの悲鳴が聞こえてきた。


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