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お飾りの国王

 トウゲンが発した科白の内容があまりにも飛びすぎていて、俺は全く意味が分からなかった。

 ウェルラントに仕える、というならまだ分かる。それを飛び越えて、今まで話題に出たこともない『国王』とは。

 そもそも、彼らと国王自体、どんな関係なのかも想像がつかない。


「・・・・・・何の冗談ですか、それ」

 結局出てきたのは乾いた笑いだけだった。

 だって破壊しか出来ない俺をいきなり国王の部下にスカウトするなんて、からかってるとしか思えないじゃないか。


 しかしトウゲンは至極まじめな顔をして腕を組んだ。

「冗談じゃないぜ? ここまで見てきて、俺は確信したんだ。ターロイなら国王の遊び相手に相応しいってな!」

「・・・・・・遊び相手?」

 あれ、何か思ったのと違う。

「グランの今の国王は子供なのですか? 正直、今は国を統治しているのは教団で、スバルは存在すら知らんですが」

 俺が困惑していると、横からスバルが訊ねた。


「うん、まあ今の王宮はほとんど機能してないからねえ。スバルちゃんが国王を知らないのも無理はないよう」

「国王の歳は今年で十八なんだが・・・・・・実はかなりのやんちゃ坊主なんだぜ。そんなあの方に友人として付き合える、根気のある若者がなかなかいなくてな・・・・・・。だからターロイくらい野心がなくて穏やかな方が、逆に合うんじゃないかと思ったんだぜ」

「いや、俺、かなり根気ないですけど・・・・・・」

「ほう、ターロイは忍耐力があるから平気だよう」

「まあとにかく一度会ってみて欲しいんだぜ!」

「それで少し教育してくれると嬉しいよう」

 何だか二人がぐいぐい来る。


「だ、駄目です! ターロイはこのあとも、スバルと再生師になる旅に出るですから!」

 そこに慌てたようにスバルが異議を唱えた。

 商人たちは彼女の動揺に一瞬目を瞠って、しかしすぐに生温い笑みを浮かべる。

「嬢ちゃん、やきもち焼かなくても大丈夫。ターロイを嬢ちゃんから取り上げようってわけじゃないんだぜ?」

「ひょわ!? ややややきもち? 違うですよ、ターロイには強くなってもらわないと困るからですね、だからスバルは、」

「もちろん、スバルちゃんも一緒に来てくれていいんだよう?」

「そ、そりゃスバルはターロイのバディですから、どこにでもついて行くですけど!」


「スバル、落ち着けって。ちょっと二人とも、スバルをからかわないで。そういう話題に免疫がないんですから・・・・・・」

 わたわたとしているスバルに助け船を出すと、商人二人は一旦口を閉ざしてにやにやと笑った。

「すまんな、嬢ちゃんの反応が可愛くてつい。まあとにかく、考えておいて欲しいんだぜ。これからお前が教団から逃れるのにも役立つと思うしな」

「教団から?」

「教団が手を出せないのはウェルラント様の治めるミシガルと、国王のいる王宮、それから国王管轄の砦なんだよう。各地に安全な拠点が欲しいなら、国王の友達になっておいた方が得だってことだねえ」


「・・・・・・それじゃ自分の都合のために友達になるみたいじゃないですか。そんなの相手に失礼ですし、本当の友達になんてなれないですよ」

 まじめに返した俺に、彼らは一度顔を見合わせてから再び俺を見て、笑顔で頷いた。

「やっぱり俺の目に狂いはないぜ」

「ほうほう、是非あの方に会ってみて欲しいねえ」

 いや、そう言われても、国王の遊び相手になってる暇なんてないんだけど。


「そもそも二人はその国王とどういう関係ですか? 国王って噂では治政に興味がなくて、教団に政を丸投げしてるって話ですよね?」

 こんな話を俺に持ちかけること自体が不可解だが、なによりそっちが気になる。

 今回の同行も含めて正直、彼らはウェルラントに直属する商人なんだと思っていたのに。

 俺が訊ねると二人は再び声を潜めた。


「俺たちは昔王宮で、現在の国王の父に当たる前王に仕えていたんだぜ。前王が亡くなったときにお役御免になっちまったがな」

「現国王が王位を継いだときはまだ八つくらいでねえ。仕方なく成人するまでという条件で政を補佐したのが、今の教団の大司祭だったんだよう。でもふたを開ければそのままなし崩しに全権委譲、王宮の役人は大量解雇。今は僅かな騎士が残るのみになっててねえ」

「え、それって国王権限の簒奪・・・・・・」


「まあな。でも王族規範による成人とは十八歳・・・・・・約定通りなら今年の国王の誕生日に権限が戻るはずなんだぜ。そのためにも、周りを信頼できる人間で固めておきたいわけだ」

「・・・・・・でも一番の問題は、国王に全く国を治める意思がないことなんだよねえ・・・・・・。役人が少ないことをいいことに、すぐ抜け出して街中に遊びに行くし」

「あ、本人がやる気ないんだ」

 二人が大きくため息を吐く。


「ウェルラント様も月に一度は国王に会いに行って、いろいろたしなめてくれてるんだけどねえ」

「そうか、ウェルラントも昔は王宮の騎士団長だったんだっけ。その繋がりで二人は俺の同行受けてくれたんですね」

「ま、そうなるかな。ちょうどターロイの人間性も確認したかったし、渡りに船だったんだぜ」

 そう言って、トウゲンは一枚の地図を取り出した。


「何ですか? これ」

「グラン王国の詳細地図だぜ。もちろん一般には出回っていないやつだ。各街に繋がる隠し道路や砦の場所が書いてある。これを渡すわけにはいかないが、しっかり覚えておくんだぜ。俺たちはこのあと、しばらくここにいる」

 彼がとんとんと人差し指で差した地図上に、砦の絵が描いてある。

「もし俺たちに用事があったら、ここに来るといいぜ」

「用事?」

「ほう、このインザークは研究学術の街で、変人や偏屈が多いんだよう。もしトラブルに遭ったら、助けてやれることがあるかもしれないからねえ」

 うわ、何かいやなフラグ立った。


「せめて一度国王に会ってもらうまでは、どっかで捕まられたら困るからな。ターロイ、どーんと頼ってくれていいぜ!」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

 なんとなくこの先を暗示するようなやりとり。

 もしかして彼らは何か知っているのだろうか、これから俺たちが遭うかもしれない災難を。


「あの・・・・・・。事後対応じゃなくて、先にインザークでの注意事項を聞いておいていいですか?」

 嫌な予感に助言を仰いでみたけれど。

「ま、あんまり長居はしないこと、だねえ」

「あと怪しい店には入らないことだぜ」

「草花を取るのも厳禁だよう。住人の観察対象だったりするからねえ」

「髪の毛や血液売ってくれとか言われても受けちゃいかんぜ」

「住人と目を合わせない方がいいよう」

「できれば話しかけるのもやめた方がいいぜ」

「それから・・・・・・」


 ・・・・・・駄目だ、無事にグレイのところに行ける気がしない。


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