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人食いのサーヴァレット

 だから何だと言うんだ。この段になって、こいつの存在を許しておけるわけがない。俺に向けて短剣を振りかぶったサージに構わず突っ込む。

「イリウ、スバル! ターロイを止めろ!」

 しかしトウゲンに指示をされた二人にすんでで引き戻されて、サーヴァレットは俺の鼻先で空を切った。


「くそっ、あとちょっとだったのに、邪魔しやがって!」

 喚くサージが苛立たしげに後ろを振り返る。

「こういうときのために連れてきたのに、簡単に伸されやがってこの役立たずどもが!」

 言いざま気を失っている護衛に連れてきていた三人を次々と短剣で貫いた。


「きゃああ!」

 味方にまで手を掛けたサージを見て、周りにいた住人が悲鳴を上げて散っていく。

 それを男は楽しげに聞いて、ひゃはは、と笑った。

「役立たずはこいつの餌になっちまうんだ! こうなりたくなかったら俺を敬え! 恐れろ!」

 短剣を引き抜いたその傷口から血が噴き出すことは無かったが、彼らは親方と同様に粒子のようなものに変化して、すぐにサーヴァレットに吸収されてしまった。


「サーヴァレットの、餌だと・・・・・・?」

 意味が分からず凝視する俺に、胡乱な目つきをしたサージが口角を上げる。

「さあ、次は誰を餌食にしてやろうか。こいつはまだまだ腹を空かせているんだ」

 グレイが俺に確保させようとした剣。カムイが取り戻そうとしていた剣。一体、これは何なんだ。


 サージが頓着のない一歩をこちらに踏み出し、俺たちは緊張の糸を張って身構える。

 そうしてしばし睨みあっているところで。

 不意に視界の端を通り過ぎた少年に気付き、思わず二度見して目を丸くした。

「マ、マルロ!?」

 なぜか自我を失っているはずの子供がてくてくと歩いている。

 そして少し離れたところで立ち止まると、さっき破壊したサージのハンマーのヘッドを拾い上げた。


「ほう!? いつの間にそっちに行ったんだよう!?」

 マルロを保護していたはずの商人が慌てて連れ戻しに来ようとしたけれど、それより先に目の前の男がにやりと笑う。

「よし、まずはこのガキからだ!」

「まずい、マルロが!」

 言うが早いか少年に襲いかかったサージに、反応が一瞬遅れてしまった。僅かな距離、男はすぐに間合いを詰めて、マルロに向かって真っ直ぐに短剣を突き出す。


 やばい、間に合わない!


 そう思った矢先、少年はエンチャントされたオリハルコンを両手の上に乗せたまま、ぼそりと何かを呟いた。

「シュラ・デ」


 途端にハンマーが光り、サージの剣の切っ先が彼に到達しようとした瞬間に、ドン! と空気を震わせる大きな爆風が起きた。

「うぎゃあっ!?」

 皆がとっさに足を踏ん張って身を低くする。目を開けていられない風圧の中、聞こえたのはサージの上げた悲鳴。

 潰れたカエルのような声が、先ほどまで視認していた場所から随分外れたところで聞こえた。どうやら吹き飛ばされて壁か地面に叩きつけられたようだ。


 薄く目を開ける。

 まだ周囲は砂埃が舞い上がっているが、そこにマルロが同じ姿勢のまま立っているのが見えた。良かった、無事のようだ。

 続いて首を巡らしてサージの姿を探すと、通りの向かいの塀の側にうずくまっていた。したたか背を打ち付けたのだろう、激しく咳き込んでいる。

 しかしそれでも手には、しっかりとサーヴァレットが握られたままだ。


「っの、クソガキ、何、しやがった・・・・・・!」

 声を引きつらせながら、ふらと立ち上がって再びマルロに近付こうとする男に、俺も急いで少年を庇いに駆けつける。

 スバルも応戦するつもりなのか、黙って俺の隣に立った。

「親父、マルロを」

「分かってる」

 後ろにいた親父がマルロを抱きかかえて離れる。その手からぽろりとオリハルコンのヘッドが落ち、今度はスバルがそれを拾った。

「これは・・・・・・。ふむ、あの子供の使った真語句・・・・・・使えるかもです」

 何事かを独りごちて、改めて隣で男に向き合う。


 こちらを睨めつけるサージは瞳ばかりがぎらぎらとして、魔獣のようだった。明らかにサーヴァレットを手にする前と様子が違う。


 ならばまずは、あの短剣をどうにかするべきか。


 そう考えてハンマーを構え、視線をサーヴァレットに定める。

 けれど他の充魂武器と違って、剣の破壊点は見えなかった。

 刀身がオリハルコンなのはグレイが言っていたから知ってるが、柄もドワーフにしか加工できないというミスリル銀か何かでできいるのかもしれない。はめられている石も、素材は分からないが俺には壊せないもののようだ。

 ・・・・・・そう言えば、その刀身にはめ込まれているのは黒い石だという話だったのに、あの男の手元のサーヴァレットに見える石はなぜ白いのだろう。


 僅かに気を逸らしていると、男がまた声を荒げた。

「むかつくお前ら一人残らず消してやる・・・・・・この剣さえあれば、逆らう奴はすぐにあの世行きだからな!」

 サージが再び吹き飛ばされることを警戒して、今度はじりじりと間を詰めてくる。


 それを見ながら俺は努めてゆっくりと呼吸をした。

 大丈夫、リーチ的には俺の方が長い。奴は剣を使い慣れてもいないし、さっきのように突っ込まなければこちらが先制できそうだ。

 剣を破壊できないのなら、それを持つサージの方を壊せば・・・・・・。

 そう思って男を見ると、おかしな事に気がついた。


 ・・・・・・何で、こいつの破壊点が見えなくなってるんだ?


 以前はその体の中心に、それから各部位ごとにと、沢山の破壊点が見えていたはず。それがまるでなくなっている。

 どういうことだろう。


『あれは、お前じゃ無理だ』

「えっ」

 そのとき俺の中の誰かが、俺に向かって呟いた。

 思わぬ言葉に狼狽えて集中が切れる。だってそんなことは初めてだった。

 この声の主は今までは俺の破壊衝動を促すだけの存在で、人格を現すようなことなどなかったのだ。


『俺なら壊せる』

 何を言っている、俺って誰だ。


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