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まずはスバルの服選び

「まずはあそこの古着屋に入るぜ。女の子用の可愛い服を扱ってるからな。嬢ちゃんは道中はマントをかぶっていればいいが、街中や屋内ではそうもいかないだろ」

 ミシガルの中にある古着の衣料店を指差して、トウゲンが案内する。その姿からはこんな店に何の関わりもなさそうにみえるけれど、店内に入ると彼は店主の女性と馴染みらしい挨拶を交わした。


「久しぶりね、トウゲンさん。今日はどうしたの?」

「ちょっと連れの嬢ちゃんの服を探しに来たんだぜ。勝手に商品見せてもらうからお構いなくだぜ」

 慣れた様子でそう言って、スバルを連れて奥に入っていく。


「トウゲンさん、慣れてますね・・・・・・」

 隣に立つホウライに話しかけると、彼は小さく肩を揺すって笑った。

「トウゲンはしばらく前に、娘の服を買いによくここに来てたんだよう。あの男、見た目に寄らず可愛いもの好きでねえ。娘の買い物に付いて回って口出すから、すっごい嫌がられてたねえ」

「それは意外・・・・・・」


 とりあえず遅れて二人の元に行く。

 スバルは困惑気味に直立不動なのに、トウゲンがすごく楽しげに服を選んでいるさまが異様だ。

「嬢ちゃんにはこんなの似合うと思うんだぜ」

「うう、めたくそ動きづらそうです・・・・・・。その異常なまでのフリルとリボンは生きていく上で何の役に立つんだです・・・・・・」

「何を言う、可愛いは正義だぜ? フリルってのは『可愛い』の正装みたいなもんだ」

「え!? マジですか? ぬぬぬ・・・・・・このようなフリフリにそんな主義主張が込められているとは、侮れんです」


「ほう、トウゲンよう、旅に出るってことを忘れるなよう? その辺でピクニックするんじゃないんだから」

 ホウライが呆れたように声を掛ける。

「分かってるぜ。でも可愛いに越したこたあねえだろ。ターロイだってその方が嬉しいよな?」

「えっ、俺?」

 突然同意を求められて、スバルの視線が俺に向いた。


「ターロイ、忌憚なき意見を求むるですよ。スバルはやはり正義の名の下に、このフリフリリボンを着るべきです?」

 いや、さすがにひらひらのフレアスカートにリボンとフリルのブラウスはない。常識的に考えて。

 かと言って、スバルがこれを着るのが嬉しくないと言うのもまた憚られる。

 そんなに真剣に意見を求められても困るのだが。


「ス、スバルはそのままでも可愛いから、わざわざその服を着なくてもいいんじゃないかな」

「おお!」

 苦し紛れに言った言葉に、商人二人が意外だと言わんばかりの感嘆(?)の声を上げた。

 同時にスバルの瞳がきらきらと輝く。

「ほほう、ターロイ、さすがわかってらっしゃるです。というわけでおっさん、この服は却下です」

「まあ仕方ない、これはあきらめるぜ・・・・・・。じゃあこっちはどうだ? カジュアルに見せながらもキュートかつエレガントなパフスリーブにオーガンジーの・・・・・・」


「旅用でしたら、こちらのコットンのブラウスとなめし革のベストはいかがですか? 動きやすいですし。膝丈のスカートと合わせると可愛いですよ」

 トウゲンが再び物色し始めたところに、見かねて店員の女性が声を掛けてくれた。

 手にする服はシンプルだけどデザインもいい。

「うむ、スバルはこっちの方がいいです」


 それを見てホウライがこそりと俺に耳打ちする。

「娘と買い物をするときも大体このパターンだったよう。結局店員さんの選んだ服に決まるんだよねえ。そもそもトウゲンの趣味がマニアックなんだよう」

「そうですね・・・・・・やたら女性服に詳しそうなのもちょっと・・・・・・」


 若干引いてる俺たちを置いて、スバルは試着室に入っていった。

「俺はチュールを重ねたスカートとかも可愛いと思うんだぜ」

「しつこいよう、トウゲン。それで娘のトルクちゃんがすっかりフリルとリボン嫌いになっちゃったんだよう?」

 たしなめられたトウゲンが、ショボーンとするのに苦笑する。


「トウゲンさんの娘さんって、どんな人ですか?」

「ほう、トウゲンに似てない美人さんだよう。あの子も一人で旅をしているから、そのうち会うかもねえ」

「女性が一人で旅を?」

「そう、武闘家なんだよう。腕っ節が強くてねえ。この間、酔っ払って素手でミシガルの城壁に穴を開けたらしくて、トウゲンがその弁償してたよう」

「あいつ、酒飲むと性格が変わるから困るんだぜ」

 なんか、娘もいろいろすごそうだ。


「うう、服はいいとして、靴が違和感があるです・・・・・・」

「お、戻ってきたな」

 雑談をしている間に、服を着たスバルが足下を気にしながら出てきた。

「うん、似合うよう。これでいいんじゃないかなあ」

「あ、よく見るとブラウスの襟と袖口に控えめにフリルがついてるんだな。可愛くていいと思うぜ」

 足下には踵の低いブーツ、頭には耳を隠すためのベレー帽をかぶっている。正面からは普通の女の子っぽい。

 しかし、尻尾が・・・・・・。


「よしよし、では最後こそ俺の出番だぜ」

 店員が寄ってくる前に、トウゲンが手にした大きなリボン付きのベルトをスバルの腰に取り付けた。

 結び目から下に垂れた布が上手い具合に尻尾と馴染む。

「やっぱり女の子はリボンを付けなくちゃだぜ」

 満足した様子の彼は腕組みをしてうんうんと頷いた。

「ふうう~・・・・・・これ、着てなきゃ駄目ですか?」

「せめて街中では着てて欲しいねえ。ほら、その格好ならターロイと並ぶとすごくお似合いだよう」


「ちょ、ちょっと、お似合いって・・・・・・」

「まあ、ターロイとスバルはバディですから。仕方ない、この方がお似合いと言われるなら我慢するです」

 その言葉の含むニュアンスに慌てた俺をよそに、他意を汲まないスバルが納得する。やめてくれ、商人二人がニヤニヤしている。


「ターロイだって、可愛いと思うだろ?」

「それはまあ、可愛いですけど」

「ほう、可愛いってよう。良かったなあ、スバルちゃん」

「ふふふ、ターロイがスバルを可愛いと思っていることは知っているですよ」

 そういうことを誇らしげに言うの、勘弁して。


「あっ、店員さん! この服買いますんでお会計お願いします!」

 いたたまれなくなった俺は、おっさん二人の生温かい視線を遮るようにその場から逃げ出した。


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