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地下にあるもの

「ところで、ターロイはこれからどうするです? 何かすることとか行くとことかあるですか? スバルはお供するですよ!」

 すっかりいつもの調子を取り戻したスバルが、びしと敬礼した。

「あ、いや、俺もどこに行っていいか・・・・・・。そうだ、することと言えば、神の使いを解放しなくちゃ。カムイの言う、ルークって人がいるはず」

 彼女の問いに今更のように、開けずじまいだった地下のことを思い出す。途中でカムイが出てきたからすっかり忘れていた。

 俺は慌てて川に背を向けて歩き出した。


「神の使いって、どこにいるですか?」

 急ぎ来た道を戻る俺の、すぐ後ろをスバルがついてくる。

「多分さっきの場所の、壊れた建物の地下に。結界を破られたときに彼がダメージを食ったみたいなことをカムイが言っていたから、中で倒れてたりするかも」

「ならばターロイはスバルを先に行かせるべきですよ。あそこにたどり着くまでの草むらのあちこちに、悪いニンゲンが倒れてるです。ターロイは血を見たくないのですよね? スバルならそれを回避できるですから」

 そう言うと、彼女は返事も聞かずに俺の腕を掴んで先導し始めた。


 スバルの細いくせに力強い手に、色気のない無骨さでぐいぐい引っ張られて、あれよあれよという間に建物の入り口にたどり着く。

 そこであっさりと腕を放した彼女は、近くに落ちていた俺のハンマーを取りに行き、なぜか怪訝な顔をしつつすぐに戻ってきた。

「ありがとう。どうかしたか?」

「この建物、他のニンゲンの匂いがしないです。気配もしないですよ」

「ふーん? 地下だからわかりづらいのかな」

 落とし戸の上にあった台座を除けて、格子になっているそこから中を覗き込む。

 ほのかな明かりがあるようだが、中の状況は確認できなかった。


「鍵を壊して降りてみるか・・・・・・」

「この鍵にはウェルラントの匂いが強く付いてるです。あの男が神の使いとやらを閉じ込めてたですか?」

「うん、そう聞いてるけど。でもあの人がそんなことするかなあ」

 錠前をハンマーで手早く壊して落とし戸を開ける。

 途端に折りたたまれていたはしごがするすると下に伸びていった。

 扉と連動するようだ。中からは容易に上って来れない仕掛けだろうか?


 まあ、その辺の解明は後にしよう。

 まずは中を確かめるためにとはしごを降りようとする。

 しかし、それはスバルに押しのけられて、止められてしまった。

「何だよ、スバル」

「・・・・・・ターロイ、下にはスバルを行かせるですよ。この下にやはり知らないニンゲンの匂いはない。カムイと、カムイの血の匂いしかしないのです」

「・・・・・・カムイの血?」

「古い乾いた血の匂い、新しい血の匂い・・・・・・おそらくターロイが見るにはちょっと刺激が強すぎるものがある予感です。多分、魂・・・・・・」


 スバルがなぜかそこで言葉を切った。

 はっとしたように、耳をぴんと立てる。

「スバル?」

 その様子に異変を感じて名を呼ぶと、彼女は領主の屋敷の方をじっと見て呟いた。

「ウェルラントが来るです」

「えっ、今頃? ていうかこの惨事、どう説明していいやら」

「これは面倒ですね・・・・・・この足音、あの男がすごく機嫌が悪いときのやつです。こういうときのあいつは、スバルでもちょっと逃げたくなるですよ」


「に、逃げた方がいい?」

 さっきの戦いで逃げるのはやめたと言ったけれど、このビビりはすぐには直らないようだ。

 怖じ気づいて意見を求めた俺に、しかし彼女はきっぱりと首を振った。

「無駄です。ここはウェルラントのテリトリー。あの男はこの範囲の気配を追えるです。逃げれば即、敵とみなされ問答無用で攻撃されるですよ。あいつが持ってるエンチャント武器は強力な上に遠距離攻撃もできるチート武器・・・・・・。スバル一人ならどうにかなるですが、ターロイが狙われたら縦か横に真っ二つです」

「真っ二つ・・・・・・」

 俺がスバルの言葉にブルったそのとき。

 塀の向こうで錠前がガチャガチャと音を立てた。


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