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入るときには、タラップを上げる作業をしている男が一人いただけだったけれど、これから荷物を下ろすので、結構な人数が行き来するだろう。となれば、さっさと船から下りるに限る。
まあ、そんなことは分かり切っているのだが、下りるためのタラップは一つしかない。どうやって出たものか。
というか、そもそもここはどこの港なのか。ライレグーンの船が到着したのなら、そこまで目立つような場所じゃないと思うのだが。
海に直接ドボン! だけは避けたい。前世で水泳の授業を習ったことはあっても、今世で泳いだことは一度もない。海水浴とかプールがメジャーな文化じゃないからな……。
そんな体で海に飛び込んだらどうなるか、火を見るより明らかである。第一、飛び込んだときの音で注目を浴びてしまうだろうし、悪手でしかない。
かといって荷物にまぎれるのも難しいところ。ここの荷物がどこへ行くのかが問題だ。
適当な倉庫へと運ばれたらいいのかもしれないけれど、そんなラッキーなことがあるとは限らない。箱に隠れたところで、上に荷物を重ねられたら終わるし、投げるように乱雑な扱いをされても駄目だ。
倉庫の内側から開けられるような倉庫に入れられるとも限らないし。
「いっそ、もう、走って逃げる?」
わたしはやけになって、シオンハイトにそう提案してみる。
ここはタラップを上がってすぐ近くにある扉の先にある部屋だ。誰にも見つからないように隠れて移動するよりも、誰かに見つかってしまっても、目撃人数が少ないうちなら走って振り切れるかもしれない。下手にもたもたして人が増えて、逃げ場のないこの部屋で見つかってしまうよりはマシな気がする。
まあ、走って逃げ切る自信はないんだけど。一体どこに停泊したのか分からない以上、むやみに飛び出るのは危険だ。
さすがにそれは無策かなあ、と「なんて、冗談――」とシオンハイトに言おうとしたのだが。
「確かに、それもありかも。今なら外の人数少なそうだし、追ってこられてもまけるよ」
ぴくぴくと耳を動かしながら、シオンハイトはそう言った。真面目に。
「……えっ?」
まさか承諾されるとは思わなかった。「流石にそれは危なくない?」とやんわり否定されるものだとばかり思っていたのだ。
「書類、しっかり持っててね」
「えっ、えっ」
ひょい、とシオンハイトがわたしを軽々と持ち上げる。いや、そりゃあ、シオンハイトは体を鍛えてるからいけると判断したのかもしれないけど……! いや、でも、船乗る前にも、わたしを担いで逃げていたし、いけるのか……!?
混乱するわたしを他所に、シオンハイトは動き出した。




