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わたしは、捕まってすぐ目隠しをされてしまったので、詳しい場所は分からない。ただ、明らかに輸送された感覚はあったから、あの街からは離れたんだろう。
シオンハイトなら、今どこにいるのか聞けば分かるだろうけど、わたしがリンゼガッドの地理に明るくないので、説明されたところで分かる気がしない。
しばらく待つと、足音が聞こえてきた。バン、と乱暴に扉が開かれる音も聞こえる。
「お前ら! 立て、移動するぞ!」
怒鳴る男の声に、子供が泣く声。その中でも、誘拐犯と思わしき男たちの会話が聞こえる。少なくとも三人はいるようだ。
「――おい、こいつらはこのままでいいのか」
ふと、そんな声がすぐ近くで聞こえた。もしかして、こいつら、とは、わたしたちのことだろうか。目元の隙間から覗こうとすると、結構顔を上に向けないといけないので、おそらくバレる。実は少し見えている、ということに気がつかれないためには、気になっていても、ここは我慢するしかない。
「そいつらはそのままでいい。獣人は番と離すと面倒なことになりかねねぇ。そばにいたなら一緒にいた方がいい。女の方も、『異能』が分かんねえ以上、下手なことはするな。どんな『異能』かは戻ってから調べる」
……ほぼ確実にわたしたちのことだろう。特徴が一致しすぎている。
「ほら、立て!」
「ぅ、わあっ!」
急にひっぱりあげられて変な声がでてしまった。予告もなしに体を触るならまだしも、そのまま引き上げられるとついていけない。せめて何か言ってから行動してくれ、と思うけれど、そんなことを言ったところで聞き入れてくれるような相手ではないのは分かっているが。
わたしはなんとか自分の足で立ち、引っ張られて歩く。すぐ後ろで、誰かが立ち上がる音もした。たぶん、シオンハイト……だと思う。見えないので、確実なことは言えない。どちらかと言えば、わたしの願望だが。
しばらく歩かされていると、だんだんと、磯臭さが強くなっていく。海が近いのかと思っていると、急にがくっと足元が不安定になった。揺れる――船の上? 足音も、さっきまでのものとは変わる。
思わず足を止めそうになるが、ひっぱられてしまい、それどころではない。
「ここで大人しくしていろ。変なことは考えるなよ」
そう言われると、足音が離れていくのが聞こえる。恐るおそるその場に座る。……大丈夫、そう?
少しして、「ティア、大丈夫?」とシオンハイトに話しかけられた。彼もここに来たようだ。
離されないで良かった、と、その声に酷く安堵してしまったのは、言うまでもない。




