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――……つまり、彼女が言いたいことは、こういうことだろうか。
戦争の原因は、双方の国民が違法に攫われ、奴隷として扱われていものる。それを仕掛けたのはライレグーンという国だが、オアセマーレにライレグーンの協力者がいて、その存在を隠している。
リンゼガッドはオアセマーレがリンゼガッドの国民である獣人を攫っているものだと思っているし、オアセマーレはリンゼガッドがオアセマーレの国民である人間を奴隷として誘拐しているということにしている。
互いの主張がぶつかり合い、外交で決着は付かず、結局戦争にまで発展してしまった、ということなのか。
「でも、このサイズでこの位置にある島ですよ? リンゼガッドも気が付かないわけが――」
――途中まで言って、わたしはぞっとした。
レギーナ様は、オアセマーレが教育で事実をねじ曲げたと言っただけで――リンゼガッドが正しいとは、一言も言っていない。
「……双方に?」
二人きり、周りに誰もいないとはいえ、最後まで言い切るのはためらわれた。
両国に、ライレグーンの協力者がいるのか。互いの国民を売り払ってまで、得をしたい人物が。そして最後は、敵方に全ての罪を擦り付けたいのかもしれない。
「私の予想では」
最後まで言わずとも、彼女には伝わったらしい。レギーナ様は、首を縦に振った。
……これじゃあ、一見して、メリットがないように思える戦争が続くわけだ。
教育をいじれるだけの立場ということは、相当な上層部に、この協力者たる人物はいるのだろう。その立場の人間は、戦争が続くことを望んでいる。かつて、どさくさに紛れて獣人を奴隷にしていた人がいたくらいだ。戦時中の人さらいは実にやりやすいことだろう。
国民の一部を違法にさらい、売買する。自分が益を得るためだけの、実際の戦地に立つ人間のことなど欠片も考えていない、非道な悪行。国同士の争いは、その人物たちの都合のいい隠れ蓑でしかない。
――……これは、流石にわたしやシオンハイト二人の手には余る。抱えきれない大問題だ。
協力者が、必要である。わたしたちの約束である、戦争を終結させ、互いに手を取り合うような国にするには。
わたしは、途端に、不安になってしまった。
疑うことが得意なわたしは、怪しい人物を見つけることはできるだろう。
でも、その逆――誰かを信じることが苦手であれば、協力者と手を取って、この問題を解決することは難しいように思う。
でも――……でも。
わたしはぎゅっと拳を握りしめた。
――わたしの脳裏に思い出されるのは、わたしが記憶を取り戻したと知ったとき、不安そうに泣いていたシオンハイトの顔。
彼に報いるためには、できないこともしないといけない。
人を信じることができず疑ってばかりの悪癖を、治そうと思っているが治らないでは駄目なのだ。
誰かを信じるのが怖くても、初手で疑ってしまったとしても――あのときのように、間違った知識を植え付けられて、あざ笑われても。
シオンハイトの言葉を信じるなら、彼は味方でいてくれるはずだから。




