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「それでもいいから聞きたい」とシオンハイトが言うので、わたしは話すことにした。実際、わたしのこの悪癖に振り回された彼には知る権利があるだろう。
「ある意味、これも『異能』で記憶を消された弊害かもしれないんだけど……」
シオンハイトに関する記憶が消されたわたしは、平均的な貴族令嬢にしては、教育が遅れていたように思う。シオンハイトと一緒にいるときに勉強をしていた時間がそれなりに長かったのだが、それがごそっとなくなってしまったのだから、無理もないのだが。
しかし、この世界の常識や知識がなくとも、前世の記憶と意識があるからか、表面上は問題なくやりとりできてしまっていたのが全ての始まりだった。
知識はないくせに、お茶会等に出席できるレベルには所作が問題なかったため、あれこれお茶会に出席させられたのだ。これが最大の原因。
ちくちくと嫌味を言われるだけなからまだ良かったのだが、間違った知識を植え付けられ、そのままにして、ある日突然それを指摘されて馬鹿にされる、ということが何度もあったのだ。
多分、当時わたしと共にお茶会をしていた彼女たちにとって、わたしをからかって馬鹿にすることを娯楽としていたんだと思う。
戦争中だから、貴族とは言え派手に贅沢をすることはできない。そんな中、知識の足りないわたしをからかうのは、あの年頃では十分娯楽になりえただろうし、同時に、『知識の足りないわたしに教育をしている』という優越感と大義名分を与えてしまっていたのだろう。
一度や二度なら、まだ、自分が物覚えが悪いのが駄目なんだ、と思うこともできたけれど、そう何度も何度もやられると、人間不信になるというものだ。
家庭教師もあまりいい人でなかった、というのも一因かもしれない。お母様が選んだ人だったから、わざとなのかも知れないが、わたしが些細な質問をすると、この程度のことも分からないのか? という圧をかけてくるのである。
仕方ないから自力で調べて学ぶものの、その勉強の効率の悪さったらない。ちゃんと家庭教師に勉強を見てもらっている他の貴族令嬢に追い付けるわけがないのだ。
――こうして、立派な他人を信用できない女ができあがった、というわけである。
他人に教えられたことを信用するものか、と思っているうちに、周りの人間の発言が全て疑わしく思えてしまう、という最悪の状態にまでなってしまったのだ。
流石に前世の記憶云々の話はできないが。そんな『異能』の能力も聞いたことないし。
なので、そのあたりのことをやんわりとぼかして、シオンハイトに説明した。
わたしを抱きしめるシオンハイトの腕に、力がこもる。
「――僕は、絶対、ララの味方だから」
強い意思のこもったような声だった。




