46
目の前がチカチカする。折角思い出した記憶が全部どこかへ飛んでいくかと思った。頭をぶつけた衝撃で舌を噛んだみたいで、口の中に血の味が滲む。
わたしの方はこんなにもダメージを負っているのに、シオンハイトの方はあまり痛がっていないようだ。獣人の頭蓋骨、強い……。
「ご、ごめん、ララ……ッ! まさかここにいるとは思わなくて、頭は? 大丈夫?」
「……大丈夫」
わたしは額を押さえながら、シオンハイトから目をそらした。
目を覚ましたら、一番に、シオンハイトへ謝りたいと思っていた。全部忘れていてごめんなさい、今思い出した、と、言おうと、思っていた。
それなのに、考えていた文言は全部どこかへ消えてしまった。別に、今、頭を打ったからではない。
ごめん、と、一言伝えて済むような問題ではないと、気が付いてしまったのである。
言う前に気が付いてよかった、と思う半面、彼になんと言っていいか分からなくなってしまって、わたしは口ごもる。
それを、わたしの体調が悪いのだと勘違いしたのか、シオンハイトが余計に慌てだすものだから、余計にいたたまれなくなった。
「本当に大丈夫なの? もう一週間も起きなかったんだよ?」
「い、一週間?」
わたしが無理やり部屋を連れ出されたのが昼過ぎ。そこからごたごたして、倒れて、意識を失ったとしても半日くらい寝てしまったか、と思っていたのに。そんなに意識がなかったとは思わず、わたしは思わず聞き返してしまった。
「……ねえ、あの日――」
シオンハイトが口を開きかけて、首を横に振る。
「なんでもない。今はもう夜だから、寝たらいいよ。今から起きてもしょうがないし、まだ目が覚めたばかりなんだから」
「起きたら話を聞かせて」と言いながら、シオンハイトはわたしの手を引っ張った。……シオンハイトも寝起きのはずなのに、手は冷たい。あんな場所で、そんな恰好では休めないのも当然だ。
……まさかとは思うが、わたしが一週間眠り続けていたというのなら、彼はあのソファで一週間睡眠を取っていた、ということだろうか。
王族御用達のソファだから、そりゃあ、その辺の下手なベッドよりは寝心地はマシかもしれないが、ソファはソファ。寝るためのものじゃない。体格的にもあまり合っていないように見えるし。
わたしを寝かせようとするシオンハイトの手を、わたしは引っ張った。
「……シオンハイトは、こっちで寝ないの」
「――え」
わたしと手を繋ぐ、シオンハイトの手が、わたしの手の中でぴくりと動いた。




