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シオンハイトは、あの頃からわたしのことしか見ていなくて、敵国の王子と貴族令嬢同士なのに、仲が良くて――。
どうしてシオンハイトがわたしのために良くしてくれるかなんて、愚問だった。彼は全て覚えていて、わたしが全て忘れていただけなのだ。
――もう一度、頭に激しい痛みが走る。頭が割れるような、二度と経験したくなかった頭痛。目の奥が、まだずきずきしているような気がする。
ゆっくりと目を覚ませば、痛みが嘘のようにすっきりしていた。痛みだけでなく、疑念も何もない。何もかも信じられるか、というと別ではあるけれど、少なくとも、シオンハイトはわたしの味方なのだと分かっている。
体を起こすと、天蓋が閉められたベッドの上だということが分かる。寝ているのはわたしだけ。いつも就寝時に使っているベッドだったけれど、シオンハイトはいない。
恐るおそる天蓋を開けると、部屋は暗かった。間接照明のような明かりが一つ、ついているだけである。どうやら夜になってしまったらしい。結構寝たようだ。
ソファにシオンハイトが眠っているのが見えた。寝間着ではなく、シャツにスラックス。最低限、寝心地が悪くならないようにあれこれ脱いでいるようだが、それでも少し身なりを整えれば人前に出られるような恰好で寝ている。……仮眠だろうか。
腕で目元をおおって寝ているその姿は、随分と疲れていそうだった。心配させてしまったか。わたしからしたら、意識を失ったのは一瞬だったけれど、はたからみたら、相当痛がって倒れただろうことは想像にかたくない。
わたしは少し迷って、ベッドから降りた。このまま寝かせるより、ベッドで寝てもらった方が休まるだろうし、多分、シオンハイトはわたしが目を覚まして起こしたとしても……怒らない。
そろそろと近付いて、彼に目線を合わせるためにしゃがむ。綺麗な白の髪。我ながら、綺麗に染めたものだ。……というか、あれからもう何年も経っていて、シオンハイトの髪の長さからしてあの頃の髪はもう残っていないはずなのに、まだ白いとは。
当時のわたしの『異能』は、あのとき生えていたシオンハイトの髪だけではなく、『シオンハイトの髪』という存在そのものの色を変えたのだろうか。それって、使い勝手はともかく、なかなか強力な『異能』では……? まあ、わたしはろくな使い道が思いつかないけれど――シオンハイトなら、きっといい使い道を思いつくに違いない。
シオンハイトが、「ちゃんと見たことなかった」と言ったのは、このことだったのか。彼の髪をわたしの『異能』で色を変えたから、鏡がない場所で行われたその様子を、彼は自分の目で見ることができなかったのだ。
寝ている彼をどう起こそうか迷って、手を伸ばしたとき、ぴく、と、シオンハイトの耳が動いた。
気配で起こしてしまったか、と思った次の瞬間、シオンハイトが勢いよく起き上がろうとしたものだから、彼をしゃがんで覗き込んでいたわたしは、思い切り彼の額とわたしの額をぶつけてしまう。
「――ったい!」
ごちん! とそれはもう、綺麗な音が頭蓋に響いた。




