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2.伯爵令嬢、隣国へ行く(4)

 カリーネは姉のリネーアの隣に座った。つまり、フラン、リネーア、カリーネと並んだわけだが。


「やっぱり、親子に見える……」

 カリーネの向かい側に座ったラーシュがそんなことを口にする。

「だが、あの学校に入学するということは、年は十六以上なんだろう?」


「十六です」


 ぶぅと頬を膨らませて、カリーネは答えた。すると、目の前のラーシュはぶふっと笑いをこぼす。


「なんだ、その顔は。まるで子リスみたいだな。……、うん。子リスちゃん。ほら、お菓子でも食べな。きちんとご飯は食べているのか?」


「そうなんだよ、ラーシュ。カリーネは困ったことに、魔導具に夢中になりすぎてよくご飯を食べるのを忘れる。だから、ここに留学させるにあたって、心配なところがそこなんだよ。悪いが、それを見張ってもらいたい」


「なんだ、フラン。この俺をこの子リスちゃんの見張りに使うなんて。人使いが荒いな」

 と言いながら、ラーシュの手には、一口サイズのクッキーがある。そのまま自分で食べるのかと思いきや、なぜかカリーネの口元に差し出す。


「はい、子リスちゃん。君のお義兄(にい)さまに頼まれたからね。きちんと、お食べ」


 カリーネの鼻孔を、クッキーの甘い匂いが刺激する。悔しいけれど、このクッキーは悪くない。口をぱくっと開けて咥えると、ラーシュは目を細めて楽しそうに笑う。


「つまり、こうやって餌付けをすればいいんだな」


「ラーシュ。相変わらず君は失礼なやつだな。だが、カリーネにきちんとご飯を食べさせてくれるなら、手段は選ばない」


「だから、あなた。そんなに細いのね」

 ラーシュの隣にいたハイケも、じーっとカリーネの顔、というよりも顔より下を見つめてくる。

「いい? あなたを弟子にするための約束事。ご飯はきちんと食べる。夜は寝る。以上」


「ねえ、フラン。ハイケが言っていることって、ものすごく当たり前なことのような気がするのだけれど」

 紅茶で喉を潤したリネーアが首を傾げるのだが、それを聞いたフランは苦笑するしかない。


「リネーアだって知っているだろう? カリーネが夢中になれば寝食を忘れてしまうということを」


「ええ、知ってはいるけれど。それをこのように口にされてしまうとねぇ……。カリーネって人としてどうなのかしら、と疑いたくなってしまうわ」


「お姉さま、酷い……」

 と言いながらも、先ほどから目の前に差し出されているクッキーをパクパクと食べているカリーネ。


「それで、先ほどからそこの二人は何をやっているんだい?」


「フランが俺に頼んだんだろ? 彼女にきちんとご飯を食べさせるようにって」


「まあ、そうだが……。でも、それはご飯ではなくて、お菓子だろう?」


「本当に、子リスちゃんは棒切れみたいな身体だよな。その貧相な身体が、自分の家の評判を貶めることになることに、気付いた方がいい。だから、食べなさい」


 でも、クッキーを食べ過ぎて喉が渇いてしまったカリーネは、紅茶で喉を潤した。


「なんか、クッキーを食べたら、お腹いっぱいになってしまいました。ラーシュさん、少し休憩」


 永遠とラーシュが目の前にクッキーを差し出してくるのではないかと思えたから、カリーネはそう口にした。


「クッキーだけでお腹がいっぱいになるなんて。子リスちゃんは食が細いんだな」


「口の中が咽たのでしょう? 果物もあるけれど、食べる?」


 どうやら目の前の二人は、何が何でもカリーネに何かを食べさせたいようだ。


「あ、はい。後でいただきます」


「そう?」

 ハイケが寂しそうな顔をする。


「とりあえず、皆が揃ったんだ。肝心の話をしなければならないな」

 やっとフランがこの場を取り仕切り始めた。彼がそう口にしなければ、ハイケとラーシュが、カリーネに何を食べさせるのがいいかで盛り上がり始めたかもしれない。


「先ほども紹介したが、カリーネは私の妻の妹」


「一目見た時、フランの隠し子かと思って焦ってしまったが」


 ラーシュは笑っているが、フランは苦笑するしかない。

 まあ、ラーシュがそう思うのは仕方ないだろう。何しろフランは二十四という年齢のわりには落ち着いていて、義理の父と並んでも親子というよりは兄弟と勘違いされることも多い。そしてカリーネは、どこからどう見ても十六の少女に見えない貧相な体つき。よくて、十二歳ね、とリネーアがいつも言っている。


「まあ、見た目は幼いかもしれないが。魔導具士としての知識は、君の想像の上をいくぞ? だが、あそこで独学で学ぶというのもそろそろ限界だろうと思って、こっちの国のことを紹介した。そしたら、見事、興味を持ってくれてね」


 フランが作戦勝ちとでも言うかのように、胸を張っている。


「カリーネ。こちらの生活はこのハイケとラーシュが面倒をみてくれる。君はここで二年間、魔導具士としての知識を身に着け、技術を磨くことが目標だ。そして、ここで得た技術をこちらに持ち帰ってきて欲しい、というのが私の狙いだよ」


「あら。カリーネはホルヴィストに戻ってしまうの? このまま、ここに住んでいてもいいのよ」

 残念そうにハイケが口にする。


「まあ、卒業後、どうするかはカリーネ次第だろうな。ラーシュのように研究課程に残るのもありだし、ハイケのように自分の工房を持つのもありだし。だが、私としてはあそこに戻ってきてもらいたいね。あの工場(こうば)を任せたいから」


「まったく、ここにいたときのフランは、気ままな三男坊だったのに。今ではすっかり当主様が身についていやがる」

 ラーシュが大げさに肩をすくめた。


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