10.伯爵令嬢、公爵と結婚する(3)
『やっほー、ラーシュ。じゃんじゃん出てきたよ。アルギナ代理店の資料がね。それにさ、パンクハーストの地図まで出てきて、荒らした工場には几帳面に印までつけてくれていた。明らかに侵入できそうな工場を選んでいるところが賢いと言うか、何というかだよね。ま、こういう資料もちょちょいと見つけちゃうオレって、やっぱり天才? それに、ほら、代表のグレアム・ラベルゴだっけ? あいつ、オレたちが捜索に入った途端、三階の窓から逃げ出そうとして飛び降りて、足の骨、折った。ざまぁみろ、って感じだよね』
あははは、という楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
ラーシュは顔をしかめる。
「いいから、黙って騎士団の言うことを聞け」
ラーシュの通話の相手はもちろんマルスラン。そしてホルヴィストへ行っても、マルスランはマルスランのようだ。
だが、この国の魔導士団の団長があんな奴であるということを、ホルヴィストの騎士団たちに知られてしまうのが、ラーシュとしては不本意ではある。
『おお怖い怖い。これだからロレンティ公爵様は嫌なんだよ。はいはい、キビキビ働きますよっと。お前たち、その資料を押収しろ』
通話機の向こう側で、団長らしいところも見せようとしているのだろう。
「残念だったな、ヘルムート殿。せっかく、ラベルゴ商会と繋がりを持って、金儲けをしようとでも考えていたのだろう? そのための、婚約、いや、結婚をしたんだったな。よかったよ、私の大事なカリーネにまた復縁を迫られたらどうしようかと思っていたんだ」
そこでラーシュは見せつけるかのようにカリーネの肩を抱き、引き寄せた。
「カリーネ、貴様。俺を裏切ったのか? 俺というものがありながら」
そもそも裏切るも何もない。あの婚約は二年前に終わっているのだから。
「私とヘルムート様の間には、一切何の関係もないはずですが」
「私のカリーネに向かって、馴れ馴れしく名を呼ぶのをやめていただきたいな」
ラーシュも目を細めた。
「くっ……。か、帰る。なんなんだ、この魔導具認証委員会という奴らは。ストレーム国は寄ってたかって俺を馬鹿にしているのか」
ラーシュが口角をあげる。
「どうぞ、お帰りください。ですが、その扉を出た瞬間。我が国の騎士団たちがあなたから話を聞くために、すぐさま拘束するとは思いますがね」
両手を握りしめたヘルムートは「くそったれが」と一言、吐き捨てる。
その後、ラーシュの言葉通り、ヘルムートはストレーム国の騎士団たちにその身柄を拘束された。理由は、ラベルゴ商会とアルギナ代理店の繋がりからの、工場、工房荒らしについて。黒幕はヘルムートとラベルゴ商会代表のグレアムであるという目星はついていたのだが、証拠を確実なものとするために、わざと泳がせていた部分もあった。
さらに、ヘルムートは偽物の部品を売ったことによる偽造販売についても追及される。そのようなことを行ったのは、言うまでもなく金儲けのためだ。
ホルヴィスト国でも同様に、向こうの騎士団たちによってラベルゴ商会とブラント子爵家が事情聴取を受けていた。だが、ほぼほぼ真っ黒である彼ら。言い逃れはできないだろう。捕まるのも時間の問題というもの。どうやらラベルゴ商会の代表であるグレアムだが、レマー商会と繋がりをもったフランへの対抗意識を燃やしていたと思われる。フランはフランで、ラベルゴ商会をぶっ潰すと口にしたくらいだから、この二人には何か因縁めいたものがあるのだろう。
ただモンタニュー公爵家は、公爵家としてではなくヘルムートが勝手に行ったことであると主張した。それも妻であるスザンナに脅されて、とまで言い出して。それが事実かどうかは、今後、騎士団の調査によってわかることになるだろう。
ラーシュやカリーネにとって、モンタニュー公爵家が今後どうなるか等、興味の対象にすらなっていない。
また、ラベルゴ商会が売りつけた魔導具によって怪我をしたという者たちが、これを機に騒ぎ始めた。原因となった魔導具を見れば一目瞭然。使用者が悪いのではなく、魔導具の設計不良が引き起こした問題である。その魔導具について鑑定したのはもちろんカリーネ。見れば見るほど、ラベルゴ商会の魔導具の設計の酷さに顔を歪めたくなった。
安かろう、悪かろう。
それがラベルゴ商会の魔導具だったのだ。その事実にカリーネの胸はキリリと痛み、だからこそ、こういった危険な魔導具を世に流通させないように、と改めて心に刻み込んだ。
ただ残念なことに、レマー商会のような魔導具を設計できるような人間が、ラベルゴ商会にはいなかっただけなのだが。
この話を耳にしたカリーネは、魔導具士の育成がホルヴィストにも必要なのではないかと考えるのだが、これはまた別の話。
それから数か月後。
ストレーム国の魔導具認証制度は魔導具界に浸透し、今では認証マークの貼られた魔導具しか販売できなくなっていた。購入する側も、そのマークがあるかどうかを確認してから買う、ということも習慣化されている。また、他国もこのストレーム国の認証制度を取り入れたいという動きになっていた。




