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9.伯爵令嬢、元婚約者と再会する(4)

 そうやってカリーネは、学生と認証委員の仕事と、ときどきラーシュの婚約者として、このストレーム国で日々を過ごし、とても充実した毎日を送っていた。

 魔導具認証制度のための建物も新しくできた。この建物が魔導具養成学校の隣に建てられたのは、やはりこの学校との連携を強めたいため、という事情もある。カリーネは、昼前は学校で授業を受け、お昼をラーシュと共に時間を過ごした後、魔導具認証委員会の仕事へと向かう。暗くなる前に帰路につき、ハイケの工房へと戻る。

 カリーネはハイケの仕事を手伝えなくなったことを、しきりに謝っていたが、元々一人で仕事をこなしていた工房であるため、あまり気にしないように、とハイケは口にしていた。それでもハイケはカリーネにとっての師であることには変わりはないため、あの学校を卒業するまではここでお世話になりたいとハイケに伝えていた。

 それに対して不満なのはラーシュであったようだが、二年間は魔導具士養成学校で勉学に励むためにこの国へ来たカリーネにとっては、その期間はきちんと勉強に励みたいと思っていたため、ラーシュからの誘いはやんわりと断っていた。どんな誘いであるかを聞くというのは、野暮というもの。


 今日もカリーネは学校の授業を終えた後、一台の魔導具の評価を行っていた。この魔導具認証委員会の建物は二階建てになっており、大まかな試験は一階部分で行う。それは測定器や特別な試験室が必要であるため。

 廊下が騒がしいな、とカリーナは思った。ちょうど、魔導具の外観確認をして、回路図と現物の突合せをしようとしていたところ。


「あ。カリーネさん、助けてください」

 評価室に入ってくるなり、カリーネに助けを求めてきたのは、受付を担当している女性の事務員。カリーネは役員の中でも最年少だし、貴重な女性役員であることから、このように女性から頼られることが多い。

「どうかしましたか?」


「あの、ここで評価を行った魔導具の試験結果が不合格なのはなぜなんだ、と騒いでいる方がおりまして。その、どう対処したらいいかがわからなくて」


「わかりました、私が対応します」


「カリーネ一人では危ないだろう。俺も行こう。君は持ち場に戻っていい」

 カリーネの隣の作業台で作業をしていたラーシュも聞きつけ、事務員にそう声をかけた。彼女は、ほっと安心したのか「よろしくお願いします。応接室の方に通してあります」と頭を下げて、部屋を出ていった。


「予想通りのことが起こったな」


「え、ラーシュさんはこのようなことを想定されていたのですか?」


「まあ、な。認証制度である以上、評価に合格しなければならない。だが、その評価をパスできない魔導具だって、いろいろ見てきているだろう? まあ、きちんとした商会であれば、それを受けて対応をする。だが、中には文句を言ってくる奴もいるだろうとは思っていた。まあ、実際にそれを見るのは今回が初めてだが」


「どんな人でしょうね」


「カリーネ、何気に楽しみにしているな」


「そうですね。どんな人がどんな言い訳をしてくるのかな、と思って。来るなら来るって、あらかじめ言ってくれたら、その商会の報告書を準備しておいたのに」


「相変わらずだな、君は」

 ラーシュは右手の人差し指で、ピンとカリーネの額を弾いた。ラーシュは、カリーネが逆上したその人間に何か害されるのではないか、ということを心配していたのだ。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

 事務員はその人を応接室に通した、と言っていた。対応方法としては間違ってはいない。

「私、魔導具認証委員会魔導具鑑定士のカリーネ・ロードと申します。こちら、同じく委員会のラーシュ・タリアン」

 カリーネはこの応接室で待っていた男にすっと名刺を差し出した。同じようにラーシュも差し出す。


「カリーネ・ロード。ロード伯の娘か?」


 まさか、ここで自分のことを知っている人物が来るとは思ってもいなかったカリーネ。認証委員会の人間はカリーネがそうであることを知っているが、それ以外の人間は知らないはず。

 カリーネは相手の男をじっと見る。だが、全く見覚えが無い。


「お前、本当にカリーネか? ああ。いや、面影はあるな」

 親しげにカリーネの名を口にしたことに、ラーシュがひくっと唇を震わせた。


「覚えていないのか? まあ、実際にはお前がデビュダントの時にしか会っていないからな」


「どちら様でしょう?」

 目を細め、相手の男を睨みつけるカリーネ。カリーネもこのような馴れ馴れしい男など知らない。ただし、ラーシュとマルスランを除く。


「おいおい。薄情だな。お前の元婚約者だろう?」


 元婚約者。と言われ、その名を思い出すのに、カリーネは十秒ほどの時間を要した。


「ヘルムートさま? モンタニュー公爵家の」


「ご名答」

 目の前の男は、不気味に笑っていた。


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