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9.伯爵令嬢、元婚約者と再会する(2)

 その後、あの認証制度が正式に立ち上がり、規約の第一版が発効された日の夜。それを記念して、パーティが開かれた。ラーシュが言っていた通り、この国のお偉いさんたちが集まるパーティと呼ばれるものが開催されたわけだ。カリーネのドレスは、ラーシュが手配してくれ、成長期のカリーネの体型に合わせたコルセット不要の、シルバーのふんわりとしたドレスだった。それがラーシュの好みであることに気付いた男は、フランだけだ。

 そして、不本意ながら、ハイケもドレスに袖を通し、まるでカリーネの保護者のように付き添うことになってしまった。


「私まで出席しなくてもいいと思うんだけど?」

 ハイケの工房。着替えを終えた二人をラーシュが待っていた。


「ハイケはカリーネの師だろう。きちんと弟子の活躍を見守る必要があると思うのだが」


「やあ、ラーシュ、ハイケ。久しぶりだな」

 正装に身を包み、三人の前に現れたのはフランだった。こういった社交の場はロード伯爵ではなく、フランの役目。ロード伯はストレーム国と接しているし、魔導具に必要な魔鉱石の鉱山も所有している。そのため、ストレーム国の催しものだとしても、このように呼ばれることは多々あるのだ。それが魔導具に関する事であるのならば、なおさらのこと。


「ハイケがお一人様では可哀そうだからね。リネーアにもしっかりとエスコートするより念を押されたよ」


「あら、リネーアは? こういうものには夫婦で参加するものでしょう?」

 よっぽど参加したくないのか、自分の役目をリネーアになすりつけるかのようにハイケは口にした。


「残念ながらリネーアはおめでた中でね。自分の代わりにしっかりとハイケをエスコートするように念を押されてしまったよ」


「まったく」

 肩をすくめているハイケであるが、フランから腕を差し出されてしまったらそれを取るしかない。

「リネーア公認なら、ま、いっか」


 四人は馬車に乗り込んだ。

「で、ハイケ。この二人はいつもこんな感じなのか?」


 目も当てられない、とでも言うかのように、目の前の二人を目にしたフランが尋ねる。


「そうね。人の前でもやたら触れ合っているわね。だけどこの二人、無自覚だから厄介なのよ。そっとしといてあげて」


「そっとしとくも何も。私の身内だろう? こう、身内がイチャイチャしている姿を見るのも、こう、なんか、恥ずかしいというかなんというか」


 フランが口にした通り、ラーシュとカリーネは身体を密着させて、何やら話をしている。内容は魔導具の認証制度についてであるにも関わらず、その手を取り合っていることから、他人から見たらじゃれ合っているように見えるのだ。


「でも。カリーネがラーシュと婚約して良かったわ」


「どういう意味だ?」


「言葉の通りよ。カリーネ目当てで工房を訪れる人も多くなったからね。ま、そういう不埒な客は、リンさんが箒を振り回して追い返してるけど。ホント、カリーネはここでは有名人よ。学生でありながらも魔導士認証委員会の一員。見目も可愛いし、素直だし、魔導具の知識も豊富だし。何よりも、利用者のことを一番に考えるし。カリーネのおかげで私の仕事も増えたのよね」


「そうか」


 素直なカリーネのことだから、もしかしたら変な男に騙されるかもしれないということをハイケは心配していたのだろう。だが、異性よりも魔導具に興味があるカリーネが変な男に騙されるほど親密な仲になるか、というところの方が疑問だった。そういった意味でも、カリーネの側にラーシュがいてくれて良かったのかもしれない。

 二人がどういう経緯を経てこのような仲になったのかということをフランは詳しく知らないが、それでもラーシュに義妹のことを頼んだ時に、仄かに期待していたわけでもある。

 きっとラーシュは覚えていないだろう。ロード伯の工場(こうば)と鉱山を見学のために訪れた時、彼の側にカリーネがいたことを。まだ幼い彼女。ラーシュの側にべったりとくっついて、彼から魔導具の様々な話を聞いていた。目をきらきらと輝かせ、まるでおとぎ話を聞いている子供のように。ラーシュもカリーネのような子供が珍しかったのだろう。しきりに褒めていた。

 あのときの出来事を、目の前の二人は覚えているのだろうか。

 フランは目を細め、そんな二人を見つめていた。


 馬車がゆっくりと止まり、ラーシュはカリーネを、フランはハイケをエスコートしてそこから降りる。

 今回のパーティは一般的な社交界とは異なる。魔導具認証制度を立ち上げ、その運用の成功を祝うためのパーティだ。いわゆる、祝賀会と呼ばれるもの。

 それでもダンスというものは嗜みのようで、そのための楽団は控えている。もちろんカリーネもダンスの一つや二つくらい踊ることはできるのだが、許されるのであれば今夜はそれを避けたいと思っていた。何しろこの場には、魔導具業界の著名人が集まっている。もちろん、委員会で顔を合わせている人物もいるが、工房主や商会長など、名前しか知らないような人物もいる。

 顔の広いラーシュに連れられ、カリーネは挨拶をする。どうやらカリーネの名前は独り歩きしていたようで、カリーネが名乗れば「ああ。あなたが、あの」と誰もが口にする。どんな噂を聞いているのか、気になるところではあったが、挨拶をする人が多いとのことで、ラーシュに連れられ次から次へと、移動をする。

 だが、気付いたときにはバルコニーでラーシュと二人きりになっていた。もしかして、早くこうしたいから彼が足早に挨拶をして回ったのではないか、と思えてしまうほどに。


「疲れたか?」


「そうですね。人が多くて。ラーシュさんは向こうに行かなくてもよろしいのですか?」


「粗方、挨拶をしたから問題はない」

 ラーシュはそっとカリーネの腰に手を回し、抱き寄せる。

「そのドレスも良く似合っている」


「ありがとうございます。このドレス、コルセットがいらないので、すごく楽なんです。ホルヴィストはまだ保守的なところがありますが、ストレームは斬新というか。新しいことを取り組んでいく姿勢は、ホルヴィストも見習うべきところですよね」


「そうだな。今回の魔導具認証制度はストレーム国だけでなく、近隣諸国にも影響は与えると思う。何しろ、このストレーム国で魔導具を売るためには、他国の魔導具であってもこの国の評価制度によって評価を受ける必要があるからな」


「そのためのホルヴィスト第一号が、レマー商会の魔導パン焼き機です。改良版です」


「そうだな」

 ラーシュはカリーネの頭を抱き寄せ、その額に唇を落とそうとしたとき。


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