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8.伯爵令嬢、魔導士と会う(2)

 マルスランがカリーネに隣に行こうとすれば、その間にラーシュが割り込む。結局、カリーネ、ラーシュ、マルスランと横並びになって、分解された魔導基板を覗き込んでいた。その向かい側の少し離れた場所からイヴァンとカルロスも見守っている。


「ええと。ここですね、爆発源。恐らく、マルスランさんの魔力と、この魔鉱石の魔力が干渉して、このルートで魔力が流れて暴走して、ドカンと爆発です」

 カリーネが指で示しながら、魔力が流れたルートを説明する。

「本来であれば、こうなる前にこの部分に保護回路という回路を挟んで、魔力が流れ過ぎたことを検知して回路を遮断するのですが、この魔導回路にはそれが無いため、ドカンといきました」


「へぇ……。てことは、魔導具が爆発したのはオレのせいじゃないってことだな?」


「魔力干渉を引き起こしたという時点で、ややマルスランさんのせいとも言えるのですが。本来であれば、魔力干渉を引き起こさないように、この魔導回路部分をシールドというもので覆うのが一般的です。ですが、この魔導回路にはシールドで保護された形跡もない」

 シールドとは魔導具か外からの魔力を受けないようにするためにと、魔導具の魔力を外に放出させないために、と二つの役割がある。魔導具から魔力が放出してしまうと、魔導士との魔力干渉はもちろんのこと、他の魔導具とも干渉してしまうからだ。


「結局、欠陥だらけの魔導具だった、ということか」


 マルスランの呟きに、ごめんなさいと言うカリーネ。


「いやいや、カリーネ嬢は悪くないだろう? 悪いのは、こんな中途半端な魔導具を作ったクソみたいな商会だ」


「ですが、同じ魔導具士として、利用者に怪我をさせるなんて、あってはならないことだと思ってます」


「違うだろ? 君は、魔導具鑑定士。そこのラーシュがそう言ってたと思うけど?」


「そんな、肩書きなんてどうでもいいんです。魔導具に携わる者として、一般的なことを口にしただけで……」


「うん」

 そこでマルスランは大げさに頷いた。

「合格。ラーシュ、引き受けよう」


 何を言っているのか、カリーネにはわからない。


「その魔導具。もう、いらないから捨てていいよ。だけど、パンが食べたかったのは本当なんだ。ここに住んでいるのも本当だから」


 マルスランが捨てていいよ、と言ったため、イヴァンとカルロスがカリーネに「もう、よろしいでしょうか」と尋ねてくる。カリーネは「はい」と返事をするしかなく、それを聞き入れた二人は、煤だらけで分解された魔導具をもう一度布でくるんだ。


「あ、手、洗う? 手、出して」

 汚れた綿手袋を外し、工具入れに戻したカリーネは、マルスランに言われた通り両手を差し出した。すると、水で手を洗った時のような感覚が手の平を襲う。


「うわ。すごい。これが魔法ですか?」

 少し煤けていたカリーネの手が、水と石鹸で洗った時のようにきれいになった。


「そ。サービスしといた。あ、イヴァン。お菓子もあったよね。カリーネ嬢に出して。ラーシュには出さなくていいから」


「なんだ。その差別的発言は」


「だって、君。甘いお菓子、好きでしょ? だから、あげない」


 あのラーシュがマルスランの手の平で転がされているような感じだ。

 どうぞ、とイヴァンがカリーネの前に美味しそうなケーキを差し出した。だが、それはカリーネの前にだけであって、ラーシュの前には無い。本当にこの部下たちは、上司の言うことを聞く優秀な部下なようだ。


「どうぞどうぞ、カリーネ嬢。遠慮なく食べて。オレ、君の事気に入ったから」

 ニヤニヤとマルスランは楽しそうに笑っているし、ラーシュは悔しそうに顔を歪めているし。

 カリーネはケーキのお皿を手にすると膝の上で、それにフォークを入れた。一切れフォークにのせて口に入れると、上品な甘さが口腔内に広がる。


「それ、美味しいでしょ?」


「はい、おいひいです」


 カリーネはもう一度フォークをいれると、一切れフォークの上にのせる。そしてそれを、ラーシュの口の前に差し出せば、彼がぱくっと食べる。


「美味しいですよね」

 尋ねれば、彼も頷く。


「あのさぁ……」

 膝の上に肘をあてて頬杖をついているマルスランが目の前の二人をじっと見つめているわけだが。

「君たち二人って、いつもそんな感じなわけ?」


 ラーシュの目は「お前は黙っていろ」と訴えているし、カリーネは気にもせずに「そうですよ」と答える。


「だからって君たち、付き合ってるわけでもないんでしょ?」

 カリーネにはこのマルスランの言っている言葉の意味がわからない。だから、首を傾げることしかできない。


「ま、いいや。とりあえず本題。カリーネ嬢は何も知らなそうだから」

 ここには魔導士と会う、という名目で連れてこられたカリーネは、それ以上のことは何も知らない。


「あのね、カリーネ嬢。君、魔導具について認証制度を立ち上げたいって提案したんだよね」


「あ、はい」


「案には特に問題はないんだけどさ。あれを提出されたことによってさ、委員会に入れって言われたわけ。オレが。このオレが」


「こいつ、こう見えても魔導士団の団長だからな」

 それは先ほども聞いた。


「おいおいラーシュ。こう見えても、っていうところが余計だろ? どっからどう見ても立派な団長じゃないか」


 部下その一のイヴァンとその二のカルロスがさりげなく首を横に振っていることから、彼の日頃の行いというものが想像できる、というもの。


「ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ。とにかく、そういう委員会って面倒くさいわけよ。で、そもそもオレたち魔導士がそれに必要かと思ってね。この立案者が適当な人間だったら手酷く断ってやろうと思ってたところ。そしたらさ、魔導具はドッカーンってするし。もしかして、あの話って必要なことだったんじゃないの、って思い始めてね」


 そこで、マルスランはお茶を飲んだ。ゴクゴクと勢いよく。口を開きっぱなしで喉が渇いたのだろう。さらに「おかわり」とまで言い出して。

 優秀な部下は苦笑を浮かべつつもお茶の準備をする。


「で、さ。魔導具もドッカンしちゃったし、オレとしては文句を言いたいわけよ。金返せ、ってね。別に金に困ってるわけじゃないけどさ。金返せは、筋が通ってるよね。あ、ありがと」


 そこでイヴァンが三人に新しいお茶を淹れてくれた。淹れ終われば、少し離れたところでカルロスと一緒に待機している。本当によくできている部下である。

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