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6.伯爵令嬢、魔導具を解析する(4)

「お帰りなさい、カリーネ」

 すでにハイケもそこにいた。カリーネは師匠の隣に座るのだが、斜め前にいるラーシュの顔をまともに見ることができないような気分になっているのが不思議だった。


「それで、ハイケ。この俺を呼び出して何のつもりだい?」


「私があなたを呼び出すときなんて、あなたを利用しようとしているときしかないでしょう」


「そうか。俺はまたハイケに利用されるのか」

 そこで彼は肩をすくめる。利用されると口にしていても、嫌がっている様子はない。


「まあ、冗談はおいておいて。またこの子がね、すごいことを口にしたの。だけど、今の魔導具界にはそれが必要だと思ったし、それを実現するためにはあなたの力が必要だと思ったのね」


「またカリーネか。君が提案してくれた市場流通部品の再利用は、今のところうまくいっている。ただな、トッテリ商会がそれを扱っていることに向こう側も気付いたらしい」


「向こう側?」

 カリーネが聞き返したのは、その向こう側に心当たりがないからだ。


「そう。ホルヴィスト国のラベルゴ商会。連日、部品を売って欲しいと言ってくるらしい。ただ、トッテリ商会もできた商会だからね。これは国の施策で行っていることだから、ストレーム国内の商会を優先させている。また、不動在庫品を提供してくれる商会に売っているとか。そんなことを言って、とりあえずのところはしのいでいるらしい」


「あら、なんだって頑張っているのね。ラベルゴ商会」


「躍起になっているんだろ? あそこの魔導具がこちらに出回り始めたしな。勢いをつけたいところだ」


「ところがね。そのラベルゴ商会。作ってる魔導具はクズなのよ、クズ」


 ハイケの言葉にラーシュが目を細める。


「あとで工房の方で見せるけど。ラベルゴ商会の魔導具の修理依頼を受け付けてね。修理のために基板を取り出したら、真っ黒焦げ」


「燃えたのか?」


「みたいね。幸い、外まで燃え広がるようなエネルギーはなかったみたいだけど、あれ、一歩間違えれば、火事になるわよ。はい、カリーネ、あなたの出番よ」


 まさか、ここでハイケから話を振られるとは思ってもいなかった。カリーネは紅茶のカップを隅っこにどかしてから、書いた回路図を広げた。


「これが、修理依頼のあった魔導具の回路図を書き起こしたものなんですけど」

 ラーシュも回路図に視線を落とす。

「ここの起動回路のこの部分なんですが」

 カリーネが指で示せば、ラーシュもハッとする。


「これ、保護回路がついていないぞ?」


「はい。そうなんです」

 よくぞ気付いてくれました、とカリーネの声が明るくなる。

「本来であれば、魔力がドンと流れ過ぎた時に、保護回路が働いてその魔力を遮断します。ですが、この魔導具にはその保護回路が無いため、魔導回路全体に大きな魔力が流れ、それに耐えられなかったところが焦げて破損しました。ですから、この魔導回路を修理しても、保護回路が無い以上、同じように壊れてしまう可能性があるということです」


「というよりも、今回は焦げただけで良かったのよ。さっきも言った通り、間違えればこれが発火源となって火事になりかねない」


「だが、これも国に届を出している魔導具なんだろ?」


「ええ。国への届は出ている。だから違法魔導具とは呼べない。だけど、国への届って、魔導具の良し悪しまではみないでしょう? どこで製造して、誰が責任を取るのかが明確になっていれば、こんなクソのような魔導具だって通ってしまうのよ」


「まあ。一応、届けの内容が合っているか、とかその場で動作確認くらいはするが。基本的には書類一本で通るような代物だからな」

 その国で魔導具を売りたいときは、その国へ届けを出す。つまりホルヴィスト国のラベルゴ商会が作った魔導具をストレーム国で売りたいときは、ラベルゴ商会がストレーム国に届けを出す。それも現物と簡単な書類を添えて。よっぽどのことが無い限り、それらは受理される。


「だからね、またまたこの子が考えたのよ。こんなクズ魔導具がこの国に流通しないようにって。はい、カリーネ。ここからはあなたが説明しなさい」


「あ、はい」

 と返事をしながら、カリーネはメモ帳を開いた。


「ええと。国で管理する魔導具の安全を評価する機関のようなものを作ります」

 カリーネはメモ帳に大きな丸を書いた。その脇に、魔導具の評価機関と書く。

「ストレーム国で魔導具を売りたい人は、この評価機関に売りたい魔導具の評価をお願いします。その評価内容は主に安全に関連することで、魔導具から発煙は発火、発水(はっすい)発風(はっぷう)が起こらないこと。使用者が怪我をしないことなどを評価します」

 大きな丸の隣に、小さな丸を書き、魔導具を売る商会と書き、そこから評価機関へ向かって矢印が引かれ、評価依頼と書く。

「評価を終えた評価期間は、評価を依頼した商会に、評価報告書を提出します。これには、どんな魔導具を評価したのか、どのような評価をしたのか、結果はどうだったのか、という内容が書かれています」

 評価機関から商会に向かって矢印が引かれ、その脇に評価報告書と書く。

「その評価に合格したら、国が評価しましたよというマークを魔導具につけてもらいます。そうすれば、魔導具を買った人も、その魔導具が国の機関できちんと評価されたものであるとわかります」


 ラーシュが身を乗り出してきた。そして、カリーネのペンを奪うと、評価依頼のところをぐるぐると囲む。


「だが、この評価依頼をした魔導具と、実際に売っている魔導具が同じものであるとは、どう証明するんだ?」


「はい。もしかしたら、偽物を作るかもしれない。ですから、国の機関は定期的に商会の製造現場へ監査に入ります。評価報告書通りのものを作っているかどうか。もしくは、市場流通品を抜き取り検査する、という方法も考えたのですが、一般的ではない魔導具の場合は、それも難しいかなと思ったので。定期的な監査の方が間違いないし、製造現場も確認できたほうがいいのかな、と」


 ラーシュからペンを奪い返したカリーネは、評価機関から商会に向かって、定期監査と書いた。


「あとは、これを継続していくだけです。商会の方で魔導具の大きな設計変更をした場合は、もう一度評価機関へ依頼します。とにかく、評価報告書と同じ魔導具を商会は作らなくちゃいけないのです」


 ラーシュは腕を組んで椅子の背もたれに寄り掛かった。これなら、魔導具の安全を国が保障したことになる。使う方も安心して使えるだろう。それに、国指定のマークをつけるという方法も使用者にはわかりやすい。

 ハイケが最初に言った意味がわかった。これは、魔導具の国であるストレーム国にとっては必要なことだ。

 だが、問題はいくつかある。その評価を行う人間。評価の内容。それらについては、これから決めていく必要がある。


「カリーネ。君の提案は、とても興味深い。だが、実現するにはいくつも問題はある。誰が評価する? どのように評価する? 評価する内容は?」


「それは……」

 まだカリーネには答えることができない。ただ、このような機関があって、証明になるようなマークをつけることで、使う人が安心できればいいな、と思ったから。


「即答できないだろう? 実現させるためにはそこを詰めていく必要がある。だから、カリーネ。君は魔導具士を辞めろ」


「え?」


 ラーシュの一言がカリーネから思考を一瞬だけ奪った。


「君はただの魔導具士じゃない。これからは魔導具鑑定士を名乗れ。そして、この魔導具の評価機関の一員になれ」

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