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6.伯爵令嬢、魔導具を解析する(2)

 カリーネは基板を見ながら必死になって回路図に落とし込んでいた。

 途中、ハイケに昼食と、休憩に呼ばれた。そんなことしている場合ではない、と半年前のカリーネは思っていたが、休憩時間にハイケやリンと会話をすることで、ふっと考えがまとまる瞬間が訪れるのが不思議だった。

 工房は地下室にあるため、外の光はちょっとだけ地上に出ている窓からしか取り込むことができない。日が傾き始めれば、一気に暗くなってしまう。そんなときに必要になるのが魔導灯。魔力で灯りをつける。

 生活の全ては魔導具で便利に支えられている。そうやって人の役に立つのが魔導具。少しでも良い暮らしができるように、と。そう思ってこんな魔導具があればいいよな、と新しい魔導具を考えることが、カリーネにとっても楽しいこと。

 なのだが――。


 書き終わった回路図をじっと見つめるカリーネ。

 この回路には必要なものが欠けている。だからせっかく修理をしても、また同じように壊れてしまうだろう。


「カリーネ。今日はもうそろそろ終わりなさい。夕飯の時間よ」


 ハイケの声で現実に引き戻される。と、同時に夕飯と聞けば、急にお腹が空いたような気がしてくるから不思議だった。


「あの、師匠」


「何? きちんとご飯は食べる。夜は寝る。それがここにいるための約束事だと思ってるけど」


「あ、はい。もちろん。とってもお腹が空きました」


「いい傾向ね」


 ここに来たときの服が入らなくなってしまったくらい、カリーネは成長している。リンが成長がゆっくりと言っていた意味も、今となってはわかるかもしれない。急に手足もにょきにょきと伸びたような気がする。


「ちょっとだけ。夕飯の前にちょっとだけ見てもらってもいいですか?」


「仕方ないわね。あまり気になると、夜も興奮して眠れなくなっちゃうからね」


 同じ魔導具士なだけあって、魔導具の設計がいいところに差し掛かると、ワクワクしてしまうという気持ちをハイケもわかってくれる。


「先ほどの魔導具なんですけど。回路図に落とし込んだら、重大な欠陥があることがわかったんですよ」


 ハイケはカリーネの背後から覗き込むようにして、その回路図を見る。全体を見て、あとは必要な部位を確認して。


「この回路。保護回路がついていないわ」

 やはりハイケである。回路図を見ただけで、カリーネが思っていたことを言いあててくれた。


「そうなんです。保護回路がついていないから、大きな魔力が流れたときに、どうやらここに負荷がかかってこのように黒焦げになってしまったようなんです」


「これ、修理しても無駄ね。同じような使い方をしている限り、同じような問題がまた起こるわ」


「これって、わざと。なんですかね?」


「さあ? 設計者の能力が低いんじゃないの? むしろ、バカよ、バカ。この魔導具については修理するかしないか、客と相談した方がいいわね。むしろ、どこだっけ? なんとか商会に突っ返してもいい内容よ。金返せ、ってね」

「ラベルゴ商会ですね」

 こんな粗悪な魔導具が出回っていることに、カリーネの胸がキリリと痛んだ。しかもホルヴィスト国で製造された魔導具。よりによって、それがこのストレーム国で判明するとは。


「とにかく、今は夕飯にしましょう。腹が減っては戦ができぬ、よ」

 気持ち的にはあのラベルゴ商会に、戦を仕掛けたい気分だ。

 工房にきっちりと鍵をかけてから、食堂へと向かう。リンは夕飯の支度を済ませて、既に帰ってしまったようだ。


 夕飯は野菜たっぷりのシチューだった。ここに来てから、カリーネも食べる量が増えたし、棒切れのようだった身体も幾分か丸みも帯びてきた。だからハイケもリンもカリーネに向かって成長期と口にするのだ。


「カリーネ。悩んでるわね」

 カリーネのスプーンの運びがぎこちないことに気付いたのだろう。


「はい。だって、あんな不良品のような魔導具が、出回っているなんて……」


「私も魔導具士だからね。魔導具は民のためにあれ、という師匠の言葉。私もそう思ってる」


「え、師匠にも師匠がいたんですか?」


「いたわよ。もう、亡くなってしまったけどね。魔導具士らしい魔導具士だったわ。自分の気に入らない客は相手にしないの。相手がいくら金払いのいい客だったとしても、魔導具を大事にしないような客は追い返していたわ」


 もしかして、ペッツォの工房の工房主が偏屈と言われているのは、ハイケの師匠が原因なのではないか、とカリーネは思ってしまった。


「こういった魔導具を取り締まるようなことってできませんかね?」

 スプーンに人参をのせたカリーネは呟く。じっと、人参を見つめてから、それをパクっと食べた。


「うーん、取り締まりというのは難しいわね。むしろ、国に届けを出している魔導具であれば、なおさら難しいわ。違法魔導具であれば、一発でわかるだろうけど」


「では、国に届けをしてもいい魔導具の基準を設けて、それを厳しくするとか。あ、そうだ。例えば、国が基準を設けた試験を合格した魔導具だけに、特別なマークを貼り付ける、とか」


 カリーネの話を聞いていたハイケの手が止まる。じっと、何やら考え込んでいる様子なのだが。


「カリーネ」

 いつもより低い声で名を呼ばれた。だからつい、カリーネも身構えてしまう。


「それ。提案してみましょう。こんな悪質な魔導具を売りつけるなんて、やはり魔導具士として許せない。クズ商会はぶっ潰してやりたい」


 そこで勢いよくスプーンを動かして、がつがつと食べまくるハイケ。これは、どこからどう見ても怒っている。勢いよく食べたせいか、すぐにハイケの皿の中のシチューは空になってしまった。カツンと音を立てて皿の中にスプーンを放り込めば、勢いよくスープを飲み干す。


「カリーネ。その試験を合格した魔導具にだけ特別なマークを貼るっていう内容なんだけど、何か考えはあるの?」


「そうですねぇ。とにかくどこかで安全に関する確認と評価をして、それで、そこでペタッと銘板を貼るか。でも、それだとものすごく時間がかかりそうだし……」

 シチューをすくって、口にいれる。もぐもぐ口を動かしながら考える。

 全数確認したら、時間がかかる。となれば、いくつも製造した魔導具の中から一つを選んでそれを代表として評価する。だが、評価対象となる代表の魔導具だけをよく作って、残りのものを手抜きされたらどうするか。

 見張る必要があるかもしれない。となれば、定期的に確認をする。定期監査。

 では、定期監査で評価したものと製造しているものが同じレベルであるものを確認するためにはどうしたらいいか。


「あ、師匠。こんな感じはいかがでしょう」


 カリーネが思いついたことを口にすれば、ハイケの目は次第に大きく見開かれていく。


「それ、いいわね。それなら、怪しい魔導具が人の手に渡るのを防ぐことができるかもしれない」


「ですが。これをどうやって実現していくか、なんですよね」


「安心しなさい、カリーネ。そういうときのために、あの男がいるのよ」


「あの男、ですか?」

 今までの経験上、あの男と呼ばれる男には一人しか心当たりが無い。


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