表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/41

6.伯爵令嬢、魔導具を解析する(1)

 ラーシュとは一体何者なのか。

 あの後、彼はカリーネが提案した、各工場(こうば)で使途先が見つからない不動在庫となっている部品を集めて、それを必要な工場へ売る、ということを始めた。それを扱ってくれる商会も見つけてきたらしい。むしろ、この国で最も大きな商会であるトッテリ商会がそれを引き受けてくれた、と。

 トッテリ商会であれば信用できる、と、各商会も不動在庫となっている部品をトッテリ商会に売り、必要な部品をそこから買う、という流れ。だた、トッテリ商会で扱う部品は、各工場で長らく保存されていたもの、ということもあり品質面においては使う人が判断する、ということになっている。それでもトッテリ商会は買い付けるときに、そのものがきちんと本物であるかの確認を行っている。それができるのもトッテリ商会だから。今のところ、偽物の流通は無いようだ。

 また、例の代理店であるアルギナだが、どうやらそこから偽物の部品を買わされたという被害は、他の工場にも及んでいた。ラーシュがその部品が偽物であったことを確認し、回収し、アルギナ代理店へと乗り込んだところ。その部屋はもぬけの殻となっていた。

 逃げられた。そのときのラーシュの悔しそうな顔を、カリーネはなぜか忘れることができなかった。


 そして今、カリーネはあのボルネマン商会が回収した魔導音声放送機の修理に携わっていた。やはり、修理の対象となる数が多いようで、ボルネマンは個人でやっている工房にも修理の手伝いを依頼した。もちろん、そこに金銭のやり取りは発生する。工房としては、仕事がもらえるわけだから、特別忙しい工房以外、皆、快く引き受けてくれた。修理する理由、不具合の現象、修理の方法を書いた指示書によって、どこの工房も同じように修理することができるという手筈になっている。


「カリーネ。終わった? 終わったのであれば、こっちの魔導具を見て欲しいんだけど」


 ちょうど最後の魔導音声放送機の修理を終えたところ。


「はい、終わりました」

 今日のカリーネは作業しやすいゆったりとしたズボン姿だ。だけど、ハイケが昔使っていたという、あの白と黒のチェックの腰エプロンを巻き付けている。

 自分の作業机から立ち上がったカリーネは、ハイケの方へと移動する。各自が集中して仕事に取り組めるようにと、背中合わせの配置になっている作業机。


「ねえ、この魔導回路。不思議な構造をしていると思わない? あまり、見たことないのよ。こう、部品がびっちりと詰まっているというか」


「本当ですね。ぎゅうぎゅう詰められている感じがします。これ、どこの魔導具ですか?」


「それがね。どうやらホルヴィストの魔導具らしいんだけど、ホルヴィストのどこの商会の魔導具かっていうのがわからないのよ」


「銘板、貼ってないんですか?」

 たいてい魔導具には、製品名、製造工場名、製造した日、などの情報が銘板と呼ばれるラベルが貼り付けられている。


「そうなのよ、外装には貼ってなくて」


「違法魔導具、ではないんですよね?」

 違法魔導具とはその名の通り、国に認められていない魔導具のこと。魔導具を製造し売る際には、国へ魔導具を販売するための届けを出す必要がある。その届けをせずに販売する魔導具のことを違法魔導具と呼んでいる。


「もしかして、そうなのかしら?」

 不安そうになるハイケ。違法魔導具の修理を引き受けてしまったとなれば、ハイケの経歴にも傷がつく。

 カリーネは、ハイケが修理している魔導具の外装を手にした。本来であれば、外から見えるところに銘板が貼り付けてあるのが一般的。


「あ、師匠。この外装の裏面に貼ってありました。げ、ラベルゴ商会だ……。うわ、しかも魔導パン焼き機」


 カリーネから思わず「げ」という言葉が漏れてしまうのにも理由はある。何しろラベルゴ商会。カリーネから婚約者を奪った、ではなく、カリーネの婚約解消の原因となったブラント子爵家と繋がりのある商会。今思えば、一方的に婚約解消の通知を送りつけてきたのだから、婚約破棄とも取れなくはない。最終的に合意したから、世間的には婚約解消ということになっているが。まあ、破棄でも解消でもどちらでもいい。

 ただ、これはカリーネが考え出した魔導パン焼き機。アイディアを盗まれたというわけではないけれど、レマー商会の目玉商品だっただけに、どこか悔しいという気持ちがある。一方的な婚約破棄通知よりもこちらの方が悔しい。


「そんなところに銘板が貼ってあったの? 普通じゃ気付かないわよね」


「そうですね。ですが、銘板の貼る位置って決められているわけじゃないから。各商会が好きなところに貼ることができるんですよね」


「でもさ。常識で考えて欲しいよね。見えるところに貼るべきじゃない?」


 恐らくその常識が通じない相手というのがラベルゴ商会なのではないか、とカリーネは思った。


「ですが、決まりはない、貼ってあれば文句ないだろ、って言われてしまうと、事実なだけに反論はできませんよね」


 銘板を魔導具に貼って国へ届けることで、正規の魔導具として売ることができるのだが。


「なんか、この魔導回路。ここ、爆発した跡がありますよね」


 基板が少し黒くなっていることに気付いた。周辺の部品も仄かに黒焦げになっている。


「これ、直すんですか?」

 カリーネが一目見ただけでも、直したくない基板だ。


「そうね。客の希望だから、直すしかないんだけど。こう、部品を交換するのが面倒くさいような基板なのよ」


「びっちりですからね」


 (こて)をあてて部品を取り出すのが大変なくらい、部品がびっちりと乱立している。むしろ、密集だ。


「この周辺はごそっと全部の部品の交換が必要ですよ」

 カリーネは黒焦げになっている箇所を指さした、と同時に、この基板が黒焦げになってしまったことを考える。

 焦げたということは、焦げるだけの魔力がそこに流れてしまったことが原因だ。だが、本来であればこうなる前に安全回路が働くはず、なのだが。


「師匠。これ、回路図に落とし込みをしてもいいですか?」


「私はかまわないけど。どうかしたの?」


「気になることがありまして。そもそも、この回路のこの部分が黒焦げになっているということは、ここにかなり大きな魔力が流れたことになりますよね?」


「そうね。そうでもしなきゃ、ここまで見事に焦げないわよ」

 じゃ、お願いするわ、とハイケがカリーネに基板を手渡してきた。どうやらハイケもこの基板にはお手上げな様子。むしろ、関わりたくないのだろう。

 綿の手袋をはめていたカリーネであるが、その基板を手にした途端、白い手袋に煤がついてしまった。

 作業台の上にも紙を敷いてからハイケより預かった魔導回路を置く。

 大きな紙を広げた。現物を見ながら、回路図に落とし込む。これは、やろうと思えば誰でもできることだが、とにかく時間がかかる。それを短時間に正確にできる、というのがカリーネの能力の一つでもあった。

 恐らく、幼い頃からあの工場(こうば)を遊び場代わりにしていたということもあり、気付かぬうちに魔導回路を読み取る力がついていたのだろう。あの工場で働く者たちも、カリーネが来ると新しい魔導具を見せてくれたり、使わせてくれたり、と何かと可愛がってくれた。

 だからこそ、あの魔導パン焼き機を考えて作ったのだ。工場で働いている人たちの食事の準備が少しでも楽になるように、そして少しでも美味しいパンが手軽に食べられるように、と。そう思って考えた魔導パン焼き機。

 他の商会に真似をされた、という思いはあるけれど、それでもそれを必要としている者たちに届いて、役に立ってくれるのであれば、それはそれでいいのかな、と思っていた。だが、カリーネが許せないのは、魔導具を金儲けの道具として扱うこと。ハイケが修理しようとしていたこの基板を見た時に、なんか嫌な予感がした。

 経年劣化で必要な魔力量を溜めることができなくなった基板が暴走して、このように黒焦げになってしまうことはある。だが、この基板。経年劣化を起こすほど使い込まれた様子はない。それに先ほど銘板を確認したが、製造日は今から二か月前。となれば、この爆発は初期不良に該当しそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=904704382&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ