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5.伯爵令嬢、商会へ行く(2)

「いつもの代理店に頼んだら、やはり部品の入荷に十日程時間がかかると言われてだな。その間は生産を停止にしようという話し合いをしていたんだ。だが、調達部門の奴が、他の代理店からであればすぐに部品が購入できるっちゅう情報仕入れて。それで、いつもと違うところから部品を買ったんだ……」


「その代理店の名前を覚えているか? それに、何の部品を購入したか」


「ああ。代理店の名前は記録を見ればすぐにわかる。仕入れた部品は、覚えている……。その、蓄魔力器だ……」

 そこで、ボルネマンは頭を抱える。

「もしかして……」


「恐らく、()()だろうな。いつもと違う代理店から仕入れた蓄魔力器。それに表示されているロゴが、いつものロゴと違う。となれば、なんとなく話が見えてくるよな」


 ラーシュの話を聞いたボルネマンは勢いよく立ち上がる。


「悪いが、品質保証部門に連絡をしてくる。その部品を使った音声放送機は全数回収する指示を出す。ちょっと、今後のことを相談にのってもらいたいから、少し待っていてくれ」

 ボルネマンは乱暴に扉を開けると、会長室を飛び出して行った。

 秘書の一人がやって来て、新しくお茶を淹れながら「少々お待ちいただけますか」と声をかけて、隣の部屋へと消えていく。


「ややこしい話になったわね」

 淹れたてのお茶をゆっくり飲みながら、ハイケが言った。


「そうだな。だが、正規の代理店ではなく、別の代理店から購入しているという点が気になるな。その代理店の名前は、公表した方がいいだろう」


「ラーシュさん。でも、都合がいいとは思いませんか?」


「何がだ?」

 カリーネの言葉に思わず問いかける。


「ボルネマンの工場が荒らされて、必要な部品が盗まれた。正規ルートでは入荷までに十日程かかると言われていたのに、その別の代理店ではすぐに物を納めることができる。ですが、その情報を仕入れてきた人は、どのようにしてその代理店を知ることができたのでしょう?」


「もしかして、その調達の人間も怪しいと?」


「そうですね。ですが、情報入手のルートが気になっただけです」


 カリーネはゆっくりとお茶を飲んだ。何かを噛みしめるように。ただ思うことは「悔しい」ということ。なぜボルネマン商会は偽物の部品を購入する羽目になってしまったのか。なぜ工場荒らしは部品を盗んだのか。魔導具を必要としている人たちがいるというのに。


「ああ、待たせてしまって申し訳なかったな。必要な根回しは全て終わらせてきた」


 頬を赤らめ、息を弾ませながらボルネマンが戻ってきた。秘書を呼びつければ、冷たい飲み物を用意するように言いつける。


「その蓄魔力器を使った音声放送機は全数回収の指示を出してきた。回収後は他の音声放送機と交換か、あとは無償で修理だな」


「あら、私のところでも五台ほど修理しちゃったわよ。まだ修理しなきゃいけないものは残ってるけど」


「ああ、その修理代はもちろんボルネマン商会で出す。客にはそう言って欲しい。対象の製造番号はこれになる」

 紙切れを一枚、ハイケは受け取った。


「ね、カリーネ。この男はこういう男なのよ」


「なんだ、ハイケ。お前は弟子に私の悪口でも吹き込んでいたのか?」


「まさか。ボルネマン商会の魔導具なのに、こんなに初期不良が出るなんておかしいって言ったのよ。そしたら、この子が、もしかしたらボルネマン商会が偽物の部品を買わされたんじゃないかって、心配したわけ。それに、不具合箇所を見つけたのもこの子よ」

 カリーネ、あれ出しなさいよ。とハイケがカリーネのリュックに手を伸ばす。


「あれ? あれって何のことを言ってます? っていうか、人のリュックを勝手に漁らないでくださいよ」


「回路図よ。持ってきてるでしょ? ないの?」


「あります、あります。師匠が持っていくようにって言ってたから」

 カリーネはハイケに中身を漁られる前に、リュックを抱き寄せてその中からあの回路図を取り出した。

「どうぞ」


「ちょっと、見なさいよ、ボルネマン。これ、この子が現物から書き起こした回路図よ」


 ハイケの勢いに押されたボルネマンはそれを受け取り、じっと眺めれば、その顔が険しくなっていく。

「どう?」

 ハイケが身を乗り出す。ボルネマンは口元を手で押さえながら、回路図を見ている。シンとした空気が流れているため、居たたまれなくなったカリーネはお菓子に手を伸ばす。すると、ラーシュもお菓子に手を伸ばして、なぜかカリーネの口の中にそれを放り込む。どうやら、そんな二人のやり取りにハイケもボルネマンも気付いていない様子。

 口の中一杯にお菓子が入ってしまったので、カリーネはもぐもぐと口を動かしていた。それをラーシュが笑いを堪えるようにして見ている。


「これは、お嬢ちゃんが書いたのか?」


「お嬢ちゃんではなく、カリーネよ。私の弟子なんだから」


「ああ、すまない」


 カリーネは焦って、急いでお茶を飲んで口の中を湿らせた。


「あ、はい。現物見ながら、そのまま回路図に落とし込みました」


「この回路図、合ってるんだよ……。おいおいおいおい、ハイケ。なんちゅう子を弟子にとったんだ」


「ね、すごいでしょ? この子。あのフランの義理の妹なのよ」


「フランの? てことは、ホルヴィストのロード伯の娘か?」


「父のことをご存知なのですか?」


「もちろんだ、ロード領の魔鉱石にはこっちも世話になっているからな」

 そうか、ロード伯の娘か、とボルネマンは満足そうに口にしている。


「それでね、この子」

 ハイケが無理矢理話の内容を捻じ曲げてきた。

「この回路図から、魔導具の不具合をこの蓄魔力器にあるって、解析したの」


「そうか。それでこの蓄魔力器が偽物であるというところまで突きとめてくれたんだな。ありがとう。まだ大きな問題になる前に、回収の指示を出すことができた。迷惑をかけた客には、きちんと補償を考えている」


「ですが、会長は騙されたんですよね?」


「まあ、そういう言い方もできるが。きちんとそれらを確認しなかったというのは、我々の責任だからな」


「それで、怪しげな代理店の名前は?」

 腕を組んでいるラーシュは、何やら考え込んでいるのだが。

「ああ、そうそう、そうだ。当時、調達部門にいたケイシーという臨時社員の紹介だったんだ。アルギナという名前の代理店だ」


「カリーネ。メモ帳とペン、持ってるか?」


「あ、はい」

 カリーネはまたリュックをごそごそと漁る。中から、メモ帳とペンケースを取り出すとそれをラーシュに手渡した。


「怪しげな代理店は、アルギナで間違いないな?」

 ラーシュの言葉にボルネマンは「そうだ」と頷く。

「その怪しげな代理店を紹介したのは、臨時社員のケイシー、男か? フルネームはわかるか?」


「ああ。男だ。フルネームは、ケイシー……、ケイシー・ニークだな」


「臨時社員ということは、今はもういないのか?」


「ああ、一か月前に辞めている」


 タイミングが良すぎるな、というのがラーシュの思い。


「アルギナという代理店と、ケイシー・ニークという男については、俺の方で調べる。だが、他の紹介にアルギナという代理店から部品を買わないようにという通知を出したい」


「もしかしたら。他にも被害者が出てるかもしれないな。なんせ、今、部品の入手難だから」


「入手難?」


 カリーネが尋ねる。部品の入手難と言う話は聞いたことが無い。しかも、このタイミングで。

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