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4.伯爵令嬢、師匠を手伝う(3)

 ハイケは地下室を出るときにはきちんと鍵をかけている。それは、やはり客から修理用の魔導具を預かっているから。修理に必要な部品や、改造のための回路図等の資料もあるから。

 近頃、工房荒らし、工場(こうば)荒らしも出ているという噂もある。人気のない時間にそこへ侵入し、部品やらを盗んでいく、というもの。


「頭使ったら、お腹が空きました」


「いい傾向よ。成長期なんだから、しっかりと食べないとね」


 食堂に行けば、既に温かな料理が並んでいた。


「今日はカリーネさんが好きなパングラタンですよ。あとは、お野菜たっぷりのスープです」


「リンさんのパングラタンは、香ばしくて大好きです」


 カリーネが口にすると、リンも嬉しそうに顔を綻ばせる。昼食は、いつも三人で食べる。


「カリーネさん、お替りもありますよ」


 空になったカリーネの皿を見ると、リンはいつもそう言ってくる。初めの頃は少しだけ、少しだけと言っていたカリーネだが、今ではそれも半分くらいから、普通に一杯にかわってきている。

 結局、グラタンを二皿も食べてしまったカリーネは、お腹がパンパンに膨れてしまった。

 食後のお茶を飲みながら、リンはどのような服が欲しいかをカリーネに確認していた。悲しいことに、あの屋敷から持ってきた服の全てが先ほどのような状態であり、胸元と太腿の辺りがパツパツになってきているのが現状。特に、ここ五日程でそう感じるようになっていた。ハイケから譲ってもらった服もあるため、学校に着ていくことができるようなシャツとズボンが欲しいとリンに伝えた。リンは先ほど、さりげなくカリーネの採寸をしていたため、それに合わせて買ってくると言う。


「ハイケさん。先に、工房に戻っていてもいいですか?」


 お茶をのんびりと飲んでいたハイケにカリーネが尋ねた。


「仕方ないわね。先ほどの続き、気になるんでしょう?」


「はい」


「まあ、その気持ち。わからなくはないからね。こう、ワクワクするっていうか、なんていうか」

 とにかく気が昂っている状態。ハイケにもたまに訪れるその状態。


「はい、工房の鍵。あと、何度もしつこく言うけれど。あの工房から離れるときは必ず鍵をかけるのよ。今、本当に工場(こうば)荒らしが多いみたいで」


「そんなに、なんですか?」


「ええ。三軒隣のアンディッシュの工場(こうば)もやられたみたい」


「え」

 そんな近くまでやられているという事実が、他人事ではないという気持ちにさせる。


「あそこはわりと大きな工場(こうば)で、いろんな魔導具を作っているけれど。やられたのは、その魔導具製作に必要な部品を根こそぎ盗られたって。だからね、今、その部品集めに躍起になってるし、作るはずだった魔導具を作ることもできないから、工場で働いている人を休ませてるとかって言ってたわね。ここは小さなところだから、盗まれるようなものも限られてるけれど、それでも魔導具はお客様からの預かりものだからね」


「はい、わかりました」

 と口にはするが、まだ工場荒らしの犯人が捕まっていないだけに、少し気味が悪い。一人で地下へと続く階段を下りるのも、少し怖いと感じてしまうくらいに。

 地下室の扉の鍵穴に、ハイケから預かった鍵を挿す。ギギィ、といつもよりその音が大きく聞こえた。

 もちろん、工房の中には誰もいない。それに、工場荒らしが出るのは人目のつかない夜間と言われている。こんな真昼間からいるわけないだろう、と自分自身に言い聞かせて、カリーネは先ほどの続きに取り掛かった。


 回路図が書き上がれば、今度は故障した場所を突き止めていく。起動しないというのであれば原因は起動回路にあるはず。じっと回路図を見つめて、気付く。

 起動回路を起動するためには、少しだけ魔力を溜めておく(ちく)魔力器という部品が使われるのが一般的だ。この蓄魔力器には、魔導具に必要な魔力を蓄えたり放出したりする機能がある。起動ボタンを押した瞬間、この蓄魔力器に瞬間的に魔力が蓄えられる。一定量まで魔力が蓄えられた後、一気にそれを放出することで、魔導具全体に魔力を送り込むことができるのだ。

 だが、起動ボタンを押して魔導具がうんともすんとも言わない、ということはこの蓄魔力器がうまく動作していない、ということになる。

 この回路規模から察するに、蓄魔力器に蓄えることのできる魔力の大きさは八百マジー前後欲しいところ。つまり、蓄魔力器の大きさとして、八百マジーが要求される。

 魔導回路からこの蓄魔力器だけを取り外すためには魔導(こて)と呼ばれる精密機器を使用する。この鏝を取り外したい部品に当て、少し魔力を加えることで魔導回路の接合部分が溶け出して、ポロリと部品を外すことができる。


 カリーネは取り外した蓄魔力器をじっと見つめた。この蓄魔力器を取り扱っている商会もある程度決まっているし、ロゴを見ればどこの商会で扱っているのかもわかる、のだが。

 その蓄魔力器に表示されているロゴを見て、カリーネは首を傾げた。このロゴはなんとなく見たことがあるロゴ。蓄魔力器を取り扱っている商会の中でも最も大手であるリビー商会のロゴのように見えるのだが、なんとなく違和感がある。その違和感がなんなのか、今はわからない。

 とりあえず、蓄魔力器の魔力の大きさを測るために計測器を手にした。これは各部品の魔力の大きさや強さ、魔力の流れにくさを測定することができる機器。魔導具の修理には欠かせない道具である。

 ピピ、と計測器が鳴る。

 計測器のモニターが表示している数値は百。つまり、この蓄魔力器に蓄えることができる魔力の大きさが百マジーである、という意味。

 だが、この回路規模に必要な魔力の大きさは八百マジー前後。信じられない、と思い、カリーネはもう一度、蓄魔力器の魔力の大きさを測定する。

 ピピ、ピピと計測器が鳴れば測定は終了なのだが。やはり、モニターが表示している数値は百。

 この数値では起動回路が動くわけがない。

 カリーネは立ち上がると、部品棚から魔力の大きさが八百マジーの蓄魔力器を取り出した。それを、先ほど外した場所に、魔導鏝で実装する。きちんと実装できたことを確認すると、起動ボタンを押す。


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